モーリス・ベジャール・バレエ団日本公演がまもなく開幕! 新芸術監督ジュリアン・ファヴローが、監督就任の経緯から作品の魅力までを語る
バレエ界に革新をもたらし、世界中の観衆を魅了してきた天才振付家、モーリス・ベジャール。日本でも1980年代に、ベジャールの傑作『ボレロ』が劇中で演じられたクロード・ルルーシュ監督の映画『愛と哀しみのボレロ』のヒットによって一躍ブームに。ベジャール自身は17年前に没したものの、彼のバレエ団は精力的に活動を続け、日本にも40年越しのベジャール・ファンが数多く存在する。
そのモーリス・ベジャール・バレエ団(略称BBL)では今年、バレエ団を率いる芸術監督が交代。稀有なベジャール・ダンサーとして長年活躍してきたジュリアン・ファヴローが、この9月から正式に監督の任についた。自身が采配する最初の、かつ、ダンサーとしては日本で最後のステージに臨むファヴローが、公演を控えた8月下旬にプレス向けのオンライン合同インタビューに答えた。
ジュリアン・ファヴローphoto: BBL-Jennifer Santschy
前芸術監督の解雇でバレエ団はパニックに。自らが引き継ぐことで危機を乗り越えた
今年2月、モーリス・ベジャール・バレエ団を襲ったのは、芸術監督の突然の解雇という衝撃。バレエ団の存続や雇用への不安、外部から新たな芸術監督が来ることによる変化への懸念に、メンバーたちは一時パニック状態に陥ったという。その際、暫定的な監督として即座に白羽の矢が当たったのが、在籍30年のトップダンサーであるジュリアン・ファヴローだった。
「ダンサーたちを安心させ、カンパニーをひとつにまとめることが自分の役目だと感じ、このオファーを承諾しました。混乱した状況をソフトランディングさせるには、私が引き受けるのが良いだろうという気持ちもありました。幸運なことに私が後任に決まったことでBBLを去ったダンサーはおらず、実際この決定が発表された時は拍手が沸き起こりました。ダンサーたちも新体制に満足してくれていると思います」というファヴローは、その後、主要ダンサーとして予定されていたステージをこなしながら、同時に監督としての仕事をスタートし、そんな中で、多大なエネルギーを要する芸術監督の仕事を優先させるため、今年いっぱいで踊ることを辞める決断を下した。
『バレエ・フォー・ライフ』手前は“フレディ”を演じるジュリアン・ファヴロー photo: Kiyonori Hasegawa
『バレエ・フォー・ライフ』 photo: Kiyonori Hasegawa
『バレエ・フォー・ライフ』photo: BBL-Elena Morosetti
『バレエ・フォー・ライフ』の“フレディ”役では、デヴィッド・ボウイやミック・ジャガーの要素も取り入れた
ファヴローが日本で最後に演じることになる『バレエ・フォー・ライフ』の“フレディ”と、『ボレロ』の“メロディ”は、彼のキャリアの中でとりわけ重要な役だ。
Aプロの『バレエ・フォー・ライフ』は、ロック・バンドのクイーンの音楽を使い、カリスマ・ヴォーカルのフレディ・マーキュリーと、ベジャール最愛のダンサーだったジョルジュ・ドンに捧げられた作品。バレエでありながらロックの熱狂と躍動にあふれ、いっぽうでそこに通底する鎮魂の祈りが感動を呼び起こします。本作の創作時に入団したファヴローは、初演後まもなく10代で主役の一人である”フレディ”役に抜擢された。
「モーリスからは、私の外見がフレディに似ていないため、私なりのアプローチが必要だと言われました。『ダンサーとしてのジュリアンではなく、ロックスターとしてのジュリアンを見せて欲しい』と言われ、デヴィッド・ボウイやミック・ジャガーなど様々なロックスターも役作りに取り入れています」
クイーンのブライアン・メイから『バレエ・フォー・ライフ』日本公演に寄せたメッセージ
「この素晴らしい機会にもう一度、僕たちのファンと友人の皆さんにこのステージを観ていただきたいと願っています。もっとも大胆なバレエのクリエーターであり、今なお惜しまれる偉大な友、故モーリス・ベジャールが、モーツァルトとクイーンの曲をめぐり創り上げた、信じられないほど独創的なバレエ作品を」
- ブライアン・メイ(クイーン)
「バレエ・フォー・ライフ」初演(1997)にて、右からブライアン・メイ、一人おいてベジャール、エルトン・ジョン、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコン photo: BBL-Philippe Pache
『ボレロ』は凄まじい力をもつ。ダンサーは否応なしに踊りに従わなくてはならない。
『ボレロ』ジュリアン・ファヴロー BBL- Lauren Pasche
『ボレロ』大橋真理 本家BBLで日本人として初めて本作に主演する。 photo: BBL-Admill Kuyler
そしてBプロのハイライトが、ラヴェルの精密で魔術的な音楽をみごとに舞踊化した不朽の名作『ボレロ』。その主役、巨大な赤いテーブルの上で一人踊る“メロディ”は、かつてジョルジュ・ドンやシルヴィ・ギエムら名だたるスターによって踊られ、BBLの中でも一握りのダンサーしか踊れない役だ。
「『ボレロ』は凄まじい力を持つ難しい作品です。ダンサーは否応なしに踊りに従わなくてはならないといった魔術的なところもあります。踊るたびに、ラヴェルの音楽とモーリスの振付は、2つでひとつになるように生まれてきたのではないかと感じます。私が日本で本作を踊るのは今回が最後ですが、今まで何度も訪れている日本の舞台で、自分のボレロの「輪」を完成させられるような思いもあり感慨深いです」(ファヴロー)
Bプロでは他に、ファヴローがベテランのエリザベット・ロスと踊る、兵士と“死”のデュエット『2人のためのアダージオ』やストラヴィンスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ調」を視覚化した『コンセルト・アン・レ』という珠玉のベジャール作品と、前芸術監督のジル・ロマンがコロナ禍の下で踊る喜びを表現した『だから踊ろう... !』の全4作によって、音楽とダンスの饗宴が繰り広げられる。
『2人のためのアダージオ』ジュリアン・ファヴローとエリザベット・ロス photo: BBL-Gregory Batardon
『コンセルト・アン・レ』photo: BBL-Gregory Batardon
『だから踊ろう…!』 photo: BBL-Gregory Batardon
ベジャール作品の哲学を引き継いで、ショウ・マスト・ゴー・オン!
最後に芸術監督として今後の展望を聞かれると、「ベジャールの作品は世界中で踊られていますが、“ベジャールを観るならBBL”と思ってもらえるよう、レパートリーを守っていきたいと思います。これまで前任者のジル・ロマンが行ってきたように、作品の哲学を引き継いで、価値を高めていければと思います」とファヴロー。インタビューの最後は師であるベジャールの言葉を引用して締めくくった。
「困難もある。変化もある。けれどそこにあるのは、レボリューション(革命)ではなくて、エボリューション(進化)なのだ。Show must go on! 」
『モーリス・ベジャール・バレエ団2024年日本公演』は、9月21日(土)開幕。時代とともに歩み、つねに熱狂を巻き起こしてきたモーリス・ベジャール・バレエ団の舞台に期待だ。なお、インタビュー全文は「NBS NEWSウェブマガジン」に掲載されている。