カフェヨシノの吉野貴士社長(筆者撮影)

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「カフェヨシノ」でドリンクを注文すると無料で付く「0円サービス」(筆者撮影)

名古屋発の喫茶チェーンといえば、「コメダ珈琲店」があまりにも有名だが、名古屋は喫茶王国と呼ばれるだけに「コンパル」や「支留比亜(シルビア)珈琲店」、「珈琲屋 明楽時運(アラジン)」など多くの喫茶チェーンが軒を連ねている。どの店も愛知県とその近郊にしか出店していないため、地元以外の方はご存じないかもしれない。

ドリンク注文でパンやスイーツが無料で付く

2011年に創業し、現在名古屋市内とその近郊に17店舗展開する「カフェヨシノ」もその一つである。先日、筆者が車で移動中に名古屋市中川区にある中島店の前を通りかかり、店へ入った。お昼時だったこともあり、ランチメニューを見ると、「ランチも0円サービスはじめました!」という一文が目に飛び込んできた。

ドリンク代のみでタマゴサラダまたはいちごホイップの「もちもち生こっペサンド」のいずれか1つが付くのだ。ランチとしてはボリュームが少ないのは否めないが、無料というのが嬉しい。14時までサービスを実施しているので、おやつとしても楽しめる。


ランチメニュー。タマゴやローストビーフ、ハーブチキンなどのサンドも用意(写真:カフェヨシノ)

ちなみに通常の(?)ランチは、名古屋の喫茶店の定番、「鉄板イタリアンスパゲティ」と「ヨシノカレー」、「ヨシノ・ザ・バーガー」など。いずれもドリンク代プラス600円で、「ヨシノブレンド珈琲」のレギュラーサイズ(180ml)は480円。ランチと合わせて1080円となり「コメダ珈琲店」のランチ「昼コメプレート」よりも安い。

【写真】夜はクリームぜんざいやミニカレーが0円、アフタヌーンサービスとしてドリンクに付くわらび餅とシフォンケーキ、テレビ局で情報番組を制作していた吉野貴士社長、東海発祥喫茶チェーン初となるドライブスルー、税込100円の「こどもーにんぐ」

その場でスマホを取り出して「カフェヨシノ」を検索してみると、モーニング(7時〜11時)やランチ(11時〜14時)のほか、アフタヌーン(14時〜17時)、ファイナル(17時〜22時)と開店から閉店までずっと「0円サービス」を実施しているのである。


17時から閉店までのファイナルサービス(写真:カフェヨシノ)

そもそもドリンク代のみで何かしらのおまけが付くというのは、モーニングサービスと、一部の個人営業の店がランチ終了後に実施しているアフタヌーンサービスに限られていた。喫茶店において利益率の高いランチタイム以降の時間帯でも同様のサービスをしていては、いったいどこで儲けるというのだろうか。

また、県外の人からすれば名古屋の喫茶店のモーニングは豪華なイメージがあると思うが、メディアで紹介されている多くの店は、ドリンク代に追加料金を払うモーニングセットであり、今はそれが主流になりつつある。時代と逆行しているかのように見える「カフェヨシノ」に興味が湧き、吉野貴士社長に話を聞いてみた。

カレーとアフタヌーンサービスで勝負

「創業者で私の父である吉野實朗は、1980年から和菓子の製造卸を営んでいたのですが、それと並行してある喫茶チェーンのフランチャイジーとして喫茶店をはじめました。愛知県稲沢市の国府宮店からはじまり、宝神店(名古屋市港区)、甚目寺店(甚目寺町)、荒尾店(東海市)と展開していきました」(吉野さん)

その喫茶チェーンは、サンドイッチやトーストなどパンメニューに力を入れていて、ランチはやっていなかった。そのためモーニングが終わる11時以降は客足がぱったりと途絶えてしまうのだった。先代はFCの本部にランチメニューの提供を進言するも、聞き入れてもらえず、FC契約を打ち切り、運営していた4店舗を「カフェヨシノ」としてリニューアルオープンさせたのだった。

そこで先代が試行錯誤を重ねて生み出したのが、今でもランチで人気の「ヨシノカレー」だった。喫茶店のカレーはレトルトや缶詰と相場は決まっているが、先代が作り上げたレシピを基に各店舗で6時間かけて仕込んでいるという。


アフタヌーンサービスとしてドリンクに付くわらび餅とシフォンケーキ(筆者撮影)

「ランチタイムが終わるとまた客足が伸びないので、アフタヌーンサービスとしてドリンク代のみでシフォンケーキを付けました。このシフォンケーキは、先代の本業である和菓子製造卸部門で一から作り上げたもので、『ヨシノカレー』と同様に今でもウチの人気商品となっています」(吉野さん)

吉野さんが「カフェヨシノ」に入社したのは2014年。それまでは地元のテレビ局でディレクターとして情報番組を制作していた。マスコミに注目されるような人気店や食材の生産者もこれまで数多く取材していて、そこで培ったネットワークを新メニュー開発などで最大限に活用した。また、「カフェヨシノ」へ入ってからは7年間にわたって現場に身を置き、その視点から改善点を見いだしながらサービスやメニューを見直して、リブランディングに取り組んできた。

年末の上野・アメ横がリブランディングのヒント

その1つがビーフ100%の自家製パテを使った「ヨシノ・ザ・バーガー」である。名古屋市内の人気店を訪ねては食べ歩き、味を研究しながら試作と試食を繰り返した末にようやく完成させた吉野さんの自信作である。

「私自身、ドリンク代のみのモーニングやアフタヌーンのサービスに対して、どちらかといえば否定的だったんです。専門店にも負けないようなレベルの商品を作れば、おのずと売り上げも伸びるだろうと」(吉野さん)


カフェヨシノの吉野貴士社長(筆者撮影)

ハンバーガーの販売が始まると、瞬く間に人気となったものの、予想に反してハンバーガーだけを注文する客が増えた。ドリンクを付けると1000円を超えてしまうため二の足を踏んでしまうのだ。グルメバーガーの専門店であれば、ハンバーガーだけで1000円以上するものもあるが、喫茶店ではハードルが高かったのである。

「カフェヨシノ」のリブランディングという課題を残したままコロナ禍へ。外出自粛により経営に大きな打撃を受けた。

「年末にぼんやりとテレビを見ていると、買い物客でにぎわう東京・上野のアメ横から中継をしていました。年末恒例の1コマですよね。店の人はただでさえお値打ちなものをどんどん安くしていくと、飛ぶように売れるんです。あらためて安さの力というものを見直しましたね」(吉野さん)


中島店のドライブスルーで注文する様子(筆者撮影)

吉野さんは2023年10月に社長となり、翌11月に「カフェヨシノ」の旗艦店となる中島店をオープンさせ、リブランドへの第一歩を踏み出した。

中島店の特徴は、冒頭で触れた全時間帯の「0円サービス」。さらに「コメダ珈琲店」をはじめとする東海発祥喫茶チェーン初となるドライブスルーの併設である。しかも、店内価格より130円安い350円でコーヒーを販売し、店内での飲食と同様に全時間帯で0円サービスを実施している。

ひと昔前、名古屋では多くの人々が朝、喫茶店でモーニングを食べて、昼食後も喫茶店でコーヒーを飲むことが習慣となっていた。しかし、コンビニでコーヒーが販売されるようになり、喫茶店は大きな打撃を受けた。

100円「こどもーにんぐ」は未来への投資

とはいえ、コンビニで朝食を済ませようと、パンやサンドイッチなどとコーヒーを買うと、金額的に喫茶店のモーニングと変わらない場合もある。ドライブスルーの350円のコーヒーと「0円サービス」は、喫茶店にとって最大の競合になるコンビニを意識してのことだった。コンビニよりも美味しいコーヒーと、手作りにこだわったパンやスイーツは十分勝算があるように思える。


ドライブスルーでテイクアウトしたモーニング。コーヒーとトーストで350円(写真:カフェヨシノ)

「おかげさまで朝の通勤時にドライブスルーを利用してくださるお客様が多いです。ランチとファイナルサービスは、今のところ中島店と山王店、小牧店、長久手店のみですが、順次全店へと展開してまいります」(吉野さん)

さらに、7月19日から10歳以下の子どもを対象に、午前7時〜11時のモーニングタイムにドリンクとパンをセットにして税込100円で提供する「こどもーにんぐ」を全店でスタートさせた。

「こどもーにんぐ」は、小学生の子どもを育てているスタッフからの提案がきっかけだったそうで、子どもに100円でラーメンを提供する店があり、わが子がそこへ行きたがることから着想を得たという。


「こどもーにんぐ」。生こっぺサンド(チョコバナナホイップサンドまたはタマゴサラダ)とドリンク(ミルクまたはオレンジジュースまたはカルピス)で税込100円(筆者撮影)

利益はほとんど出ないが、店へ足を運ぶきっかけとなるだけではなく、未来への投資でもある。子どもたちが大人になったときに「カフェヨシノ」でモーニングを食べたことを思い出して、親子2代にわたって来店してもらえるようにとの願いが込められているのだ。

喫茶店のモーニングは、愛知県一宮市で朝早くから来てくださるお客様へのおもてなしが原点といわれています。愛知県の喫茶文化の根底にあるのは、お客様とお店との間に形成された愛のあるコミュニケーションであり、それを発信し続けていきたいと思っています」(吉野さん)

0円サービスやドライブスルー、こどもーにんぐは、単なるシステムといえばそれまでだが、昔から地元で営業している個人店のような温もりを感じるのは筆者だけではあるまい。今度はノートPCを持参して、のんびりと原稿を書きながらコーヒーを楽しもうと思っている。

(永谷 正樹 : フードライター、フォトグラファー)