ホンダの「VTEC」無くなる? 日産は「e-POWER」どうなる? パワートレイン共通化でクルマの個性は残るのか?
VTECやe-POWERが無くなっても、クルマの個性は残るのか?
2024年8月1日に日産とホンダは、都内で会見を行い、戦略的パートナーシップの検討進捗に関する共同会見を行いました。
同年3月15日にも「戦略的パートナーシップの検討を開始していた両社ですが、どのような進展があったのでしょうか。
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「まずは、モーターとインバーターを共有します」。
日産とホンダが7月31日に開いた記者会見で、両社の社長がそう言い切りました。
しかも、サプライヤーは日立Astemoであることも明らかにしたのです。
パワートレインが共用になってしまったら、走りの個性は果たして残るのでしょうか。
ホンダのエンジンといえば、可変バルブタイミング・リフト機構「VTEC」に憧れたホンダファンが古くから現在まで多くいます。
近年ではハイブリッドシステム「e:HEV」の普及が進んでいるところです。
一方で、日産は現在のEV市場の基盤としていち早く乗用EV「リーフ」を世に送り出しました。
またエンジンを発電機として使う「e-POWER」は日本を起点に欧州やアメリカでの拡大が進んでいます。
それが、中長期的にEVシフトが進むことを想定して、ホンダと日産で同じサプライヤーからEVの主要部品を共有化して調達するというのです。
中長期的には、現行のシステムとしてのVTEC、e:HEV、e-POWERなどはなくなることを意味します。
今回の発表では、5つの領域での技術連携を紹介していますが、そのうちのひとつが「eアクスル領域」。
eアクスルとは、EVの動力機構を一体化させたものの総称です。主にモーター、インバーター、ギアで構成されています。
近年は、これら3要素に加えて各種の電子制御機能などが含まれる場合もあります。
日産とホンダは、中長期的にeアクスルの仕様を共通化を目指すことで両社は基本合意。
その第一ステップとしてeアクスルの基幹領域となるモーターとインバーターを共有する、ということです。
eアクスル領域だけではなく、駆動用のバッテリーについても仕様の共通化や相互供給を進めます。
また、ソフトウェアに関しても共有化の共同開発を進めることが決まりました。
ソフトウェアによるクルマの制御全般やユーザー向けの新しいサービスを総括的に行うSDV(ソフトウェア・ディファインド・ヴィークル)について、基礎的要素技術の共同研究の契約を交わしたのです。
ようするに、2030年代から本格的なEVシフトに備えて、日産とホンダの「クルマのベース」のかなり広い領域が共有化されることになります。
そうなると、「ブランド毎や、モデル毎での、クルマの個性は残るの?」という疑問を持つユーザーが少なくないでしょう。
こうした問いかけについては、一般論としては、「モーターは制御の考え方次第で、ガソリン車やハイブリッド車に比べて走りの個性を大きく変化させることができるから大丈夫だ」と言います。
ただし、そうした観点での量産開発は極めて難しいのが現実です。
例としては、トヨタ「bZ4X」と車体やeアクスルを共有化しているスバル「ソルテラ」
があります。
スバルの開発陣が「スバルらしい走りの個性とは何か?」を見出すことにとても悩んだ末、ソルテラが誕生したという経緯があります。
両モデルは、いわゆる兄弟車ですので、それぞれの個性をどう設定するのかが難題でした。
日産とホンダの場合、中長期的に相当するEVすべてが兄弟車になってしまうと、ブランドの存在価値が失われ兼ねません。
そうとはいえ、eアクスルやバッテリーなどEVの基幹部品の共有化することでホンダと日産の走りの個性、そしてクルマ全体としての個性がなくなってしまうとは言い切れないと思います。
ただし、ユーザーが「クルマの走り味」を連想するという観点では、少し話が違うかもしれません。
なぜならば、「走る・曲がる・止まる」というクルマの基本的な運動性能について、ユーザーが体感できるのは、市街地、郊外、高速道路など、限られた走行条件の中だけだからです。
限られた走行条件の中では、VTECやe-POWERなどの性能のごく一部を感じることしかできません。
それでも「このクルマにはこれだけのポテンシャル(実力)がある」ということを、自動車メーカーのホームページでの技術紹介や、自動車関連のウェブサイト・雑誌などを通じて知ることで、ユーザーはそのクルマを所有することの喜びを感じるものです。
だから、VTECやe-POWERに対するパワートレイン・ブランドを所有することの満足感があるのだと思います。
それほどまでに、パワートレインはクルマの中心的な役割があるのです。
時代を少し遡れば、1960年代から1970年代の高度経済成長期、自動車メーカーでの開発の花形はエンジン部門でした。自動車メーカー各社のOBが、そう証言します。
新車開発の流れは、最初にエンジンができて、それから車体、最後にデザインという考え方が一般的だったというのです。
そのため、各メーカーはエンジンが各社ブランドの象徴であり、エンジンによってクルマの個性を追求していました。
その後、走行安定性や操縦性、衝突安全、デザインなどを含めたクルマ全体としての個性が重要視されるようになっても、とくにハイパフォーマンスカーや高級車については、エンジンの機能がクルマのブランド価値を大きく左右してきたのも事実です。
部品共有性が一気に高まる、次世代EV。
2030年代に向けて、ユーザーのクルマのブランド価値の中で、eアクスルなどの動力装置に対する考え方は変わっていくのでしょうか。