日本での導入が期待されていたBYDのスポーツセダンEV「SEAL」(以下、シール)が、6月25日ついに発表。そのシールに一足早く、公道で試乗できました。このクラスは目が肥えたユーザーが多いDセグメントに属し、それだけに高いパフォーマンスが要求されます。果たして、シールはその期待に応えられているのでしょうか。

 

■今回紹介するクルマ

BYD シール(試乗グレード:シール、シールAWD)

価格:528万円〜(税込、以下同)

 

AWDなら0→100km/hがわずか3.8秒! バッテリーは得意のリン酸鉄採用

シールは先行して発売されたATTO 3、ドルフィン(DOLPHIN)に続く、同社の日本市場向け第3弾として投入される最上位のスポーツセダンです。ワイド&ローなボディデザインからはスタイリッシュかつエレガントな雰囲気を伝えてきますが、注目はなんといっても圧倒的な走りのパフォーマンスです。

 

実は2023年秋に、筆者は中国・珠海(ズーハイ)のサーキットで開催されたメディア向け試乗会でそのパフォーマンスを体感しています。“ゼロヒャク(0→100km/h)”がわずか3.8秒という圧倒的加速性能に驚嘆した記憶はいまでも鮮明に蘇ります。それから8か月が経ち、今回やっとその実力を公道で試す機会が得られたわけです。

今春発売のBYD製セダン「シール」に中国で試乗、圧巻の速さに度肝を抜いた!

 

試乗会は御殿場を基地として、2WDとAWD(4WD)の2台に試乗する形で実施されました。あくまで公道での試乗ですので、サーキットでアクセルをベタ踏みするような走りはできませんが、周辺の箱根や東名高速道を走行してそのフィーリングを体験できました。

 

シールを簡単に紹介すると、全長4800×全幅1875×全高1460mmの堂々たるボディに、82.56kWhの大容量バッテリーを搭載。最高出力312PSのモーターで後輪を駆動する2WDモデル「シール」と、これに217PSのフロントモーターを加えてトータル529PSとしたAWDモデル「シールAWD」がラインナップされます。装備内容で両者に違いはありません。

↑BYD「シール」AWDモデル。2WDモデルと外観で違いはない

 

↑BYD「シール」2WDモデル

 

そして、バッテリーにはBYDのBEVでおなじみのリン酸鉄リチウムイオン電池を使用した「ブレードバッテリー」を採用しています。また、バッテリーユニットを車体と一体化するBYD独自のCTB(Cell to Body)技術を採用し、これが車体の剛性を高めると同時に高水準の安全性を両立いるのです。ちなみに、航続距離はシールが640km、シールAWDが575kmとしています。

 

予想を大幅に下回る価格に驚き。しかも特別キャンペーンも

6月25日の発表で驚かされたのはその価格です。シールは528万円で、シールAWDでも605万円に設定し、さらに導入キャンペーンで最初の1000台に限ってはそこから33万円安い特別価格としたのです。

 

また、8月31日までに購入を申し込めば、前後2カメラのドライブレコーダーやETC車載器、充電器(設置工事費用10万円まで)、メンテナンス費用を含んだ「BYD eパスポート」の4点がプレゼントされる特別キャンペーンも実施中です。

 

珠海で試乗した際、関係者からの取材で700万円前後を予想していましたが、それを大幅に下回る価格で発売されたことになります。これは相当に攻めた価格設定と言っていいのではないでしょうか。

 

インテリアはDセグメントにふさわしく、メーターの視認性も上々

さて、最初の試乗は最上位となるAWDからでした。実車を目の前にして感じるのは、周囲に媚びることなくひたすら美しさを追求しているデザインです。ボディは十分にワイドさを実感させるもので、その外観はスタイリッシュかつエレガント。街中でも十分に存在感を発揮しそうです。

↑海洋生物“あざらし”の髭をデザインに反映した「シール」のフロント回り

 

↑タイヤはコンチネンタル製の235/45/R19

 

車内に乗り込むと、黒を基調とした上質な空間が広がっていました。パワー機構付きのシートはナッパレザーによって手触り感に優れ、この素材感がインテリア全体にまで及んでいます。前席シートにはベンチレーション機能が組み込まれ、さらにステアリングにはヒーターも装備される快適仕様。車内は十分プレミアム感に包まれています。

 

【インテリアをギャラリーでチェック】(画像をタップすると閲覧できます)

 

その中で少し違和感を覚えたのは、センターに据えられた15.6インチのディスプレイです。スイッチひとつでタテ置きにもなるギミックな機構を備えていますが、ナビゲーションの表示がディスプレイの解像度に追いついていません。そのため、方面案内や分岐点リストなどのフォントが荒れた状態となっていたのです。Dセグメントに相当する車格を考えれば、このあたりはきちんと対応すべきなのではないかと思いました。

↑センターディスプレイをタテ表示にしてナビゲーションを展開した状態

 

↑Apple CarPlay/Android Autoにも対応。写真はCarPlay

 

“ハイウェイクルーザー”として十分なパフォーマンスを発揮!

さて、いよいよ走行です。センターコンソールにあるスタートボタンを押し、その先にあるシフトスイッチを操作すると運転準備は完了。すぐにエアコンなどのシステムが動き出し、アクセルを踏むと2tを超える車体が滑るようにスムーズに走り出しました。

 

アクセルは踏み込みに応じてリニアに反応し、コントロールはとてもしやすい印象です。2段階で設定できる回生ブレーキも自然なもので、効果が強く出る“ハイ”に設定しても、その適度な減速感が扱いやすさを感じさせてくれました。

 

一方で、加速はきわめて力強いもので、高速道路本線への流入でその実力をいかんなく発揮してくれました。少し強めにアクセルを踏み込めば、529PSもの圧倒的ハイパワーを4輪がしっかり路面に伝え、あっという間に周囲をリードする速度域に達します。

↑529PSのビッグパワーがもたらす圧倒的な加速力を示したシール「AWDモデル」

 

アクセルはどこからでも俊敏に反応するので、速度差のある他車線への移動も楽々。加えてドッシリとした乗り味は高速走行時のフラット感があり、路面の段差も突き上げ感をほとんど感じさせません。AWDモデルは、“ハイウェイクルーザー”としての役割を十分果たしてくれそうだと実感しました。

 

一方で続く2WDモデルではAWDモデルとのパワー差を否応なしに感じることになりました。AWDと比べてスペック上でも217PSもの差があるわけで、これは当然と言えば当然。絶対的なパフォーマンスや乗り心地ではAWDモデルに軍配が上がるのは間違いありません。

 

とはいえ、2WDモデルが力不足というわけではなく、ほとんどの人がこの走りに十分なパワーを感じるレベル。むしろ、ハンドリングでは2WDモデルの方が軽快で、普通使いでの扱いやすさは2WDモデルに分があるようにも感じたほどです。

 

日本ではミニバンやSUVに人気が集まる中で、シールはファストバックスタイルながら、完全な4ドアセダンとして登場しました。それでいて圧倒的なパフォーマンスを示すシールは十分に魅力的です。ただ、どこまで支持を得られるかは現時点では未知数。とはいえシールは価格の上でも魅力的と感じる人は少なくないはず。その意味でも同クラスのライバルを凌駕しているのは間違いないでしょう。デリバリーは今秋からを予定しているそうですが、その登場がいまから楽しみです。

 

SPEC【シールAWD】●全長×全幅×全高:4800×1875×1460mm●車両重量:2210kg●パワーユニット:かご形三相誘導モーター(フロント)+永久磁石同期モーター(リア)●最高出力:529PS●最大トルク:670Nm●WLTCモード燃費:165Wh/km

SPEC【シール】●全長×全幅×全高:4800×1875×1460mm●車両重量:2100kg●パワーユニット:永久磁石同期モーター(リア)●最高出力:312PS●最大トルク:360Nm●WLTCモード燃費:148Wh/km

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)

 

撮影/松川 忍