選手団は船で入場! 「前例のない」パリオリンピック開会式でNHK伊藤慶太&中山果奈アナウンサーが伝えたいこと
パリ五輪開会式の実況を担当する伊藤慶太アナ(右)と中山果奈アナ 写真/NHK提供・現地時間7月22日撮影
第33回オリンピック競技大会がフランス・パリを中心に現地時間7月26日から8月11日までの17日間、開催される(一部競技は26日以前から実施)。パリでのオリンピック開催は1900年、1924年以来、実に100年ぶり3回目のことで、本大会は32競技329種目が実施される予定だ。
そのオープニングを飾る開会式は、パリ中心部を流れるセーヌ川が舞台。今回は夏季オリンピック史上初めて競技場外、川という自然環境を中心に、カバーする範囲の広い市中において、26日(日本時間27日未明)に行なわれる。しかも、大会組織委員会は事前の全体リハーサルなしの、いわゆる"ぶっつけ本番"での実施となることを発表している。
その実況を担当するのがNHKの伊藤慶太、中山果奈の両アナウンサーである。前例のない、4年に1度の大舞台の幕開けを伝える大役について、ふたりのアナウンサーは、どのような思いで来たる日を迎えようとしているのか。
【期末テストの山張りのように(笑)、勉強しています】伊藤アナは現在、大阪放送局に在籍し、野球、ラグビー、競泳などのスポーツ実況を担当する入局29年目のベテラン。これまでオリンピックの現地実況は2008年北京、12年ロンドン、16年リオ、21年東京と4大会連続で担当してきたが、開会式の実況は初めてとのこと。指名された時は「まさか自分が......」と驚きを隠せなかったというが、これまでの経験を買われての指名だったのではないかと振り返る。
「競技実況ひと筋でやってきたので、セレモニー実況の役割を担うことは想像もしませんでした。これまでひとつの競技実況だけにとどまらない、いろんな(競技実況の)経験を買われて指名されたと思います。
ですので、自分のなかに染みついているものが、華やかな式典を目の当たりにしたとき、どういう表現として出てくるか、期待している部分はあります」
一方の中山アナは入局11年目、現在は東京のアナウンス室に所属し、平日の「正午ニュース」などを担当。そのアナウンス力は高く評価されているが、これまで報道ひと筋で、2022年北京パラリンピックの開閉式を担当した経験はあるものの、オリンピックの開会式を担当するとは思ってもみなかった。自身が指名を受けた理由については、北京パラリンピックの経験と昨今の世界情勢を鑑みた上での指名だったのではないかと捉えている。
「2年前の北京冬季オリンピックとパラリンピックの間に、ロシアのウクライナ侵攻が始まりました。オリンピックは世界最大のスポーツイベントで、選手たちはそれぞれバックグラウンドがあります。政治とスポーツは切り離せないという認識はこれまで以上に強くなっていますが、世界中の人たちにとって開会式は重要な位置付けですし、今の世界情勢があり、その中で行なわれる。世界の今を知ることのできる場だと思っています。
そういう状況のなか、選手たちがどのような表情で開会式に出てくるのか。主観を入れずに、正確に伝えていければと考えています」
事前の情報は少しずつ放送局側に入ってくるというが、伊藤アナ、中山アナはいかなる状況にも対応できるよう、大阪と東京の距離を埋めるべくチャット等を利用しながら、情報を共有している。
「フランスに関する知識が必要になってくると想定できるので、パソコン上の地図を見ながら、セーヌ川沿いの名所やフランスの歴史上の人物などについて、期末テストの山張りのように(笑)、勉強しています」(中山アナ)
伊藤アナは「勝手に想像を膨らませるしかない」と苦笑いしつつ、ベテランらしく、そうした状況にも動じることなく、臨む決意を見せる。
「想像を膨らませる時間が長いと、あれもこれもやるべきことがどんどん湧いてきますが、粛々と準備するしかありません。それも進んでいるのか進んでいないのかわからないなか、日々、本番に近づいている印象です」
【今後の新しい方向性が示される大会に】
NHK パリオリンピック・パラリンピック2024の開閉会式中継キャスターの皆さん(前列左から伊藤アナ、中山アナ、池間昌人アナ、松本真季アナ、後列左から松野靖彦アナ、中川安奈アナ、瀬田宙大アナ) 写真提供/NHK
オリンピックの開会式は、開催国・開催都市の歴史や文化を反映した内容の演出が施されることが通例である。また、今回は「地球環境に配慮した持続可能な大会」にすることも大きなテーマとして掲げられている。
「フランスの演出家の方々のやり取りを聞いていると、自分たちにしかできない前例にないものを披露しようという意気込みを感じます。我々はその意図やメッセージをくみとって、ありのままを伝えることが一番大事だと思います。
不安はありますけど、逆にプラスに考えれば、見たことのないものを観られるという、ワクワクした部分もあります。セーヌ川を舞台にどういう演出がなされるのか。それを楽しみにしながら準備しているところです」(伊藤アナ)
開会式では、選手団を乗せる船数が90隻以上と報道されているが、参加国や地域は200以上。その情報だけでもどういう入場行進(遊覧?)となるのか。想像力が膨らんでいく。複数の国が相乗りするのか、これまでと異なる順番で入ってくるのか。いろんなパターンを想像しながら、目の前で起こる事象についての対応が求められてくるが、中山アナは、「伝える」職人としての基本は貫くつもりだ。
「現地にいる感覚と、視聴者の皆さんの感覚にズレがないように心がけたいと思います。現地にいると、どうしても高揚する部分があると思いますが、それが視聴者の方に"?"と思われることがないよう、バランスは気をつけて伝えられればと考えています」
東京大会はパンデミック禍でのオリンピック開催だったため、無観客での実施となった。オリンピックに関するさまざまな問題が浮き彫りになるなか、今後のオリンピックを占ううえでも注目される大会になるのではないかと、伊藤アナは指摘する。
「今回のオリンピックは今後の新しい方向性が示される大会になると見ています。その辺りのメッセージがどのような形で開会式の演出に織り込められていくのか。サステナブルな大会と言われていますが、それが具体的な形としてどう出てくるのか。期待したいです」
中山アナは「東京の時は、無観客で選手の方々もマスクをして、なかなか表情が捉えづらい部分がありましたが、今回は、その意味でも、どういう表情で臨むのか、楽しみです」と話したうえで、オリンピックで選手たちが発する言葉も楽しみにしている。
「今回、開会式で日本の旗手を務めるフェンシングの江村美咲選手が"結果にこだわるより、過程を大事にする方が自分は強い"とコメントしていたんですね。その言葉を自分の仕事にも当てはめて考えると、例えば、読み間違いをしたくないと思ってニュースを読むのではなく、"視聴者の人にわかりやすく伝えるにはどうしたらいいのか"という視点からアプローチしたほうが、結果として"わかりやすく伝える"ことにつながるのではないかと思ったりします。
私自身は競技実況に携わりませんが、今回のオリンピックを経て、選手の皆さんがどのようなコメントを発するのか、楽しみにしています」
開会式は日本時間7月27日(土)午前2時30分からスタートする予定。伊藤アナ、中山アナがどのような実況で、日本の視聴者に前例のない、新たな開会式を伝えてくれるのか。楽しみである。