大きな期待を背に再任した名将エディー・ジョーンズ率いるラグビー日本代表(世界ランキング14位)。7月21日、北海道・札幌ドームに17,411人のラグビーファンを集め、今夏のシリーズ5試合目(2試合は非テストマッチ)「リポビタンDチャレンジマッチ2024」はイタリア代表(同8位)を迎えて行なわれた。


イタリアの固い守備を超速ラグビーは打破できなかった photo by Saito Kenji

 世界と戦える日本代表チームをつくるにあたり、再任したジョーンズHC(ヘッドコーチ)が掲げたテーマは「超速ラグビー」。6月に行なった独占インタビューでも「勇気を持って全員でプレーし、どんどん相手に仕掛けていく。相手にディフェンスを迷わせるようなアタックをしていきたい」と意気込みを語っていた。

 しかし、いざフタを開けてみると、起点となる接点ではプレッシャーを受けてしまい、スクラムやラインアウトでも後手にまわる展開となり、前半はいいところなく7-24で折り返し。後半はアタックで幾度となくゴールラインに迫るも、最後まで詰めきれず14-42の大敗に終わった。

 イングランド代表戦(17-52)、ジョージア代表戦(23-25)に続き、テストマッチ3連敗。「超速ラグビー」を見せるどころか、トリプルスコアでの敗戦はまさしく「完敗」だった。

 ジョーンズHCは試合をこう振り返る。

「相手が終始、継続していいプレーをしていた。規律もよかった。私たちにもいいプレーはあったのですが、ハンドリングのミスやラインアウトを取れなかったことで結果を得られなかった。(怒っていないことに対して)痩せ我慢しているつもりはない。悔しい気持ちですが、選手の努力は賞賛すべきです」

 イタリア代表はセットプレーやフィジカルを全面に押し出し、日本代表にプレッシャーを与えて好機とみるや、BKが移動攻撃から仕掛けてトライを挙げたり、カウンターアタックを見せたり、クイックタップから攻めたり......。正直、どっちが「超速ラグビー」を標榜しているのかわからなかった。

【超速ラグビーが不発に終わった原因は?】

 イタリア代表は2023年ワールドカップ後、アルゼンチン人のゴンサロ・ケサダHCが就任。前指揮官のキアラン・クローリー(現・三重ヒートHC)が育成した若手を生かし、今年はウェールズ代表やスコットランド代表に勝利、強豪フランス代表にも引き分けている。その実力はホンモノだ。

「プレーの精度、チーム力も上がっているので、集大成として臨みたい。全員がオプションになって、全員が走って、見ていて楽しい超速ラグビーを見せたい」

 新生エディージャパンとなって5戦連続して先発に指名されたHO原田衛(ブレイブルーパス東芝)は、試合前に意気込んでいた。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 しかし、5連戦の成果を確かめる集大成のイタリア代表戦で、ファンに披露したかった「超速」はいとも簡単に封じられた。

 "第二の故郷"である札幌で凱旋試合となったキャプテンのFLリーチ マイケル(ブレイブルーパス東芝)は、超速ラグビーが展開できなかった原因を分析する。

「最初の20分で修正しきれず、点数を取られてしまった。ブレイクダウン(接点)周りでは、相手がボールキャリーを抱えたり、遅らせたり、9番がボールをさばく時に押して(反撃を)妨害された。テンポがよくないとセットプレーが安定せず、超速ラグビーができない」

 セットプレーの要である原田も悔しそうに反省点を挙げた。

「体格やフィジカルで劣勢になると厳しい面が出てきたので工夫が必要。イングランドやジョージアのスクラムは高かったのでやりやすくヒットできたが、イタリアは低くてまとまっていた。ラインアウトもシンプルにやろうとしたが、遅らされて僕らのテンポが出なかった」

 ただし、悪い点ばかりでもない。後半2分にはCTBディラン・ライリー(埼玉ワイルドナイツ)のインターセプトからトライを挙げて10点差に迫ったあとは、積極的に選手を替えながら相手ディフェンスに対応し、連続アタックを仕掛けることでペースを掴んだ。

「イタリアは固いディフェンスをしてきたので、それに適応するのに時間がかかった。でも、後半のスタッツを見ると、テリトリー76%、(ボール)ポゼッション74%と上回っていた」

 ジョーンズHCも、その流れは及第点とした。

【対戦相手のキャプテンからアドバイス】

 2023年ワールドカップで日本代表メンバーはベテランが多く選出され、再任したジョーンズHCは「若手を育成しなければならない」と語っていた。そのため、今夏の5試合では若手を積極的に起用し、イタリア代表戦でも先発15人中10人はひとケタ台のキャップ数だった。

「(87キャップ目の)リーチを除くと、ほかの選手のキャップ数を全部合わせてもトータルで120くらいしかない。成長のプロセスだと、今はまだまだ幼稚園生のようなチーム。才能のある選手はたくさんいるが、まだ経験値は足らない。経験、知識を蓄積し、連携を深めていくことが大事です。最低でもそれぞれがテストマッチで戦えるレベルの基準となる20キャップを得なければなりません」

 まだ若手の経験が足らない現状に、ジョーンズHCは理解を求めた。

 若手をあまり育成してこなかったジェイミー・ジョセフ体制時代の「ツケ」がまわってきているのは事実である。しかし、ホームでテストマッチ3連敗という現実から目を背けることはできない。まずは勝利を手にすることで、選手が自信をつけて成長する場合もあろう。

 一方、日本代表と対戦した相手は「超速ラグビー」をどう受け止めたのか。イタリア代表のキャプテンFLミケーレ・ラマーロはこう語った。

「私たちも2〜3年前、(日本代表のように)とても速いプレーをしたかった。だが、ビッグマッチでは速いプレーをしすぎて(ボールを)失うこともある。だから、正しい瞬間に、正しくプレーすることのバランスを見つける必要がある。それが非常に重要です」

 どのエリアで、どのタイミングや時間帯で、超速ラグビーを見せるのか──。日本代表が世界と戦ううえで、それは今後の大きなテーマになりそうだ。

 8月末から日本代表はパシフィックネーションズカップに臨む。カナダ代表、アメリカ代表と予選プールで対戦し、順位決定戦ではフィジー代表、トンガ代表、サモア代表と激突する可能性がある。

 順位決定戦は日本で行なわれるだけに(準決勝=東京・秩父宮、決勝=大阪・花園)、ぜひとも全勝で優勝を手にしたいところだろう。このまま若手の成長を促(うなが)しながら超速ラグビーを貫き通すのか、それとも戦術やメンバーに少し修正を加えるのか──。ジョーンズHCの手腕の見せどころとなりそうだ。