石丸伸二氏

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 都知事選が終わっても“石丸旋風”は続く──。7月7日に投開票されると、現職の小池百合子氏(71)が約292万票を獲得して圧勝。小池氏との一騎打ちと見られていた蓮舫氏(56)は約128万票と伸び悩み、まさかの3位に終わった。

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【写真をみる】「あー怖かった…」可憐な元アイドルが“石丸パワハラ”被害者に 石丸氏の演説に“異様な数”の支援者が詰めかけた様子も

 約166万票を得た石丸伸二氏(41)は2位となり、改めて強い存在感を示した。“旋風”の勢いは相当なもので、その余波は意外なところにも及んだ。

 弁護士でアディーレ法律事務所の設立者である石丸幸人氏(51)も都知事選に立候補していたのだが、約10万票を獲得して8位に食い込んだのだ。

石丸伸二

 ちなみに石丸幸人氏の立候補は政治団体・NHKから国民を守る党の党首、立花孝氏(51)がサポート。その立花氏は自身のYouTubeチャンネルでこの問題に触れ、石丸伸二氏と石丸幸人氏は同じ石丸性のため、書き間違いなどで幸人氏の得票が伸びた可能性を指摘した。

 2位という石丸伸二氏の善戦が注目される一方、民放各局の取材に応じた石丸氏の発言内容や態度に批判が殺到している。例えばフジテレビの開票特番に出演した元乃木坂46の山崎怜奈(27)が石丸氏に質問したところ、「前提のくだりが全く正しくない」、「ゼロ公約と私が今回掲げた政策、どこに共通点が?」などと厳しい口調で難詰。山崎は出演後、SNSに「あー怖かった」などと投稿した。

 この騒動をデイリースポーツ(電子版)が7月8日、「フジ選挙特番で石丸伸二氏からガツン返された山崎怜奈 出演後に『あー怖かった』 緊迫展開も必死質問『色々若くてすみません』」との記事を配信すると、大きな反響が起こった。

ボランティアの大活躍

 さらに同日、「『パワハラ上司みたい』『放送事故』石丸伸二氏、都知事選後インタビューでの“悪態対応”に『国政進出』を恐れる声」(SmartFLASH)、「『パワハラ臭ぷんぷん』石丸伸二氏『本当に熟読されました?』とライターを逆質問…ラジオ番組での対応が“高圧的”と批判続出」(女性自身)との記事が配信。読者からは「昔の上司を思い出して、本当に怖かった」という声が殺到した。

 約166万票を獲得しながら、殺到する抗議──まさに賛否両論という表現がぴったりの状況だろう。当初から3位は確実視されていたとはいえ、2位の躍進には驚く声も多い。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「都知事選の最終盤、危機感を抱いた石丸陣営のボランティアが選挙戦術を修正し、それが功を奏したと見ています」と言う。

「選挙戦の序盤、ネット上では石丸さんに期待する声が圧倒的多数でしたが、徐々に批判する投稿も増えていきました。主なものは【1】安芸高田市長時代など、強権的な素顔が垣間見える、【2】市長の任期をまっとうせず、放り出してしまった、【3】あまりに経歴がエリート過ぎて共感できない──という3点だったと思います。こうした批判に対してボランティアの皆さんがXやYouTubeで『いや、石丸は違いますよ』と丁寧な説明を行っていました。これで“ネット票”を固めることができたのではないでしょうか」

「ネット選挙」への誤解

 政治ジャーナリズムの世界からは「大規模な数の有権者が、新聞やテレビの報道ではなく、ネットで投票先を決めた初めての選挙」、ネット上では「有権者がYouTubeやInstagramで投票先を決めた初めての選挙」などと、石丸氏がネットの追い風を元に票を伸ばしたとの分析が目立つ。だが井上氏は「結論は正しくとも、前提となる事実認識が間違っていることは指摘せざるを得ません」と言う。

「ネット選挙が解禁されたのは2013年で、もう10年以上の歳月が流れています。インターネットは個人レベルでも情報発信が可能なので、当初は小規模な政治団体がネット選挙に期待する傾向がありました。ところが自民党が電通や博報堂などの助言を得て本格的に資本や人材を投下すると、既存政党の中では最もネット戦略に長けた政党となりました。そのため『石丸氏が初めてネット選挙で成功を収めた』という指摘は自民党の実績を無視しており間違いです。さらに『ネットしか見ない有権者が増えた』という指摘も事実に反しています。有権者の年齢が下がるほどネットで選挙情報を集める頻度が増すのは事実ですが、彼らの大多数が新聞やテレビの報道もチェックしています。YouTubeの動画だけで投票先を決めることは誰であってもできないはずです」(同・井上氏)

ネット民が喜ぶ石丸氏のロジック

 石丸氏がネット上を中心に“旋風”を巻き起こしたのは事実であり、その理由を井上氏は「ネットで情報拡散を行う際、基本のアプローチに忠実だった」ことを挙げる。

「安芸高田市長時代の石丸さんは、ごく普通に市政の可視化を行い、ネット上で共感の声を集めることに成功しました。今回の都知事選でも、石丸さんは特別な“ネット戦略”を実施したわけではありません。街頭演説を繰り返し、その動画をボランティアや一般の有権者に撮影してもらってネット上に投稿してもらい、それが拡散していくという基本に忠実なアプローチでした。ただし、基本に忠実であれば誰でも拡散に成功するわけでもありません。石丸さんがネット上で大きな支持を得ることができたのは、彼がごく自然に“ネット的な振る舞い”を行うことができるからだと思います」(同・井上氏)

 井上氏が注目するのは、街頭演説で石丸氏が何度も訴えた呼びかけだ。選挙期間中、石丸氏は「私が都政を変えます、私が都政を刷新します」とは絶対に主張しなかった。「皆さんが都政を変えて下さい。皆さんが私に投票することで当選し、皆さんの付託を受けた私が都政を刷新します」というロジックを何度も使った。

石丸氏のリーダーシップ

「このロジックはネット上で高く評価されました。石丸さんの支援層は既存政党のアプローチを嫌気する傾向が非常に強い。田中角栄さんの日本列島改造や、小泉純一郎さんの『私が自民党をぶっ潰す』といったキャッチフレーズ見られる、トップダウンのリーダーシップを旧弊として否定します。石丸さんは『皆さんの意見を募集しています。もし都知事選で当選すれば、それを元に都政を運営します』とボトムアップ型の都政参加を呼びかけました。これは正しい“ネット的な振る舞い”だったと思います。ネットは集合知を評価しますが、石丸さんは『皆さんの意見が集まれば集合知が生まれる、皆さんの集合知を元に都政を刷新する』と有権者に約束したわけです。選挙戦のテクニックとしても、具体的な政策が見えにくいことでメリットが生まれました。対立候補が政策論争などで批判しにくい状況を作り、石丸さんの刷新感あるイメージを守ることに一役買ったと思います」(同・井上氏)

 都知事選におけるネット戦略では意外なことに小池氏も“善戦”し、3人の中では蓮舫氏が最も伸び悩んでいたという。

反原発運動と蓮舫氏

「小池氏は街頭演説を絞り込むなど、意図的に抑制した選挙戦術を採り、現職としての実績をバックに逃げ切りを図りました。ならばネットでの情報発信も減りそうですが、きちんと発信すべきことは発信していました。小池さんがネット選挙の方法論を熟知しているとは思えませんので、優秀なブレーンがいたことが推察できます。一方の蓮舫さんですが、確かに熱狂的な支持者がXなどに多数の投稿を行っていました。ただ、『反原発運動を連想した』という指摘が多かったことは注目に値します。反原発の主張も頷ける部分があるのは事実ですが、彼らは『でも電力がなくなったらどうなるの?』という根源的な疑問には答えません。蓮舫さんの支持層も『反自民党・反小池』は精力的に訴えました。小池さんの都政に納得していない有権者も多いでしょう。とはいえ、蓮舫さんも蓮舫さんの支持者も『蓮舫さんに一票を投じたら、都政はどう変わるの?』という根源的な疑問には答えてくれませんでした。確かに反原発運動と蓮舫さんの選挙戦は似通ったところが多かったと思います」(同・井上氏)

 石丸氏のマスコミ対応に関して批判が殺到しているのは事実だが、「あれで正しい」と応援する声や、「馬鹿な質問ばかりしていたから、胸がすっとした」と溜飲を下げた有権者が多いのも事実だ。

マスコミはマスゴミ

「石丸さんは自然に“ネット的な振る舞い”ができるところが強さだと指摘しましたが、マスコミ対応も同じです。石丸さんは世代的に見てもマスコミではなく“マスゴミ”というイメージを共有しているはずですし、実際に安芸高田市長の時は地元ブロック紙の中国新聞とバトルを演じて世論を味方に付けたという成功体験もあります。過去の政治家でも、石原慎太郎さんや橋下徹さんは朝日新聞など特定のメディアを徹底的に攻撃することで高い支持率を得ていました。今の石丸さんはマスコミに敵対的なほうが支持を得られると計算しているはずです。もし選挙で当選して公人になれば、きちんと記者会見には応じ、是々非々の“大人の対応”に切り替えればいい、と考えているのではないでしょうか」(同・井上氏)

 ある意味では3位のほうがよかったのかもしれない。2位となって大きな注目が集まる石丸氏の「次の一手」が早くも取り沙汰されているのはご存知の通りだ。

「とにかく色々な人が石丸さんに接近を図っているはずで、その応対だけでも大変でしょう。ただ『次の一手』でしくじってしまうと、致命的な失敗につながってしまうという危機感はお持ちなのではないでしょうか。むしろ都知事選の選挙期間中より、次の一手を今、どう決めるかというほうが、はるかに難しいと思います」(同・井上氏)

デイリー新潮編集部