どのような握手会になるのか(AdoのXより)

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Ado、10月に開催を発表

 顔出しをしないことで知られる歌い手のAdoが、10月に握手会を開催すると電撃発表したことで、音楽業界に波紋が広がっている。今月10日発売の2ndオリジナルアルバム「残夢」に封入されるシリアルナンバーから応募が可能で、2日間で合計1000人のファンが招かれるという。

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 音楽ライターがこう話す。

「覆面歌手のAdoが握手会を行うというのは超異例です。公開された握手会のイメージ図によると、箱の中に入ったAdoが小窓から手を差し込んだファンの手を握るというスタイルになっています。ただ、ネットでは『パチンコの景品交換所か』『本人か分からない』『いつまで素顔を隠して活動するつもりなのか』『撮影禁止にして素顔またはマスクすればファンは安心』などといったアンチの声が多数上がっています」

どのような握手会になるのか(AdoのXより)

 前代未聞の握手会についてAdoは「ついに私がずっとやりたかったイタリアにある真実の口方式での握手会の実現です!」「本当に私が箱の中に入ります!信じて貰えるように頑張ります!信じて応募してください!!」と必ず本人が箱の中に入ることを強調した。一方で、なぜ急に握手会の開催を決めたのかという疑問も浮上している。

 それを探るためには、Adoの歴史を振り返る必要があるだろう。中学生時代の自身について陰キャだったと語るAdoが、活動をスタートさせたのは2017年。初音ミクに影響されたボーカロイドや歌い手が集まる「ニコニコ動画」が舞台だった。歌の収録は自宅のクローゼットを改造。顔出しも本名の公開もしたくなかったAdoにとっては居心地に良い空間だっただろう。

 2020年に著名ボーカロイド・プロデューサー(ボカロP)であるjon-YAKITORYの作品「シカバネーゼ」に、歌い手としてフィーチャリング参加すると、Spotifyバイラルチャート1位になり“Ado沼”にハマるファンが続出。こうしてAdoは一気に知名度を上げていった。

 さらに2020年10月には、ボカロPでシンガー・ソングライターのsyudou作詞作曲「うっせぇわ」で鮮烈なメジャーデビューを果たす。社会と大人に対する攻撃的で過激な歌詞と破壊力の強い歌声で一躍注目を集め、翌年3月にBillboard Japanチャートのストリーミング累計再生回数1億回を突破する大記録を打ち立てた。

劇場版アニメと大型コラボ

 ここまではAdoの前史にあたるキャリアだ。現実社会から逃避し、オンラインの世界に活路を求めたAdoにとっては願い通りの道だったはずだ。ところが、レーベル側はさらなる展開をAdoにもちかける。それが劇場版アニメ「ONE PIECE FILM RED」(2022年8月6日公開)との大型コラボレーションだった。

 Adoはメインキャラクター「ウタ」の歌声を担当。主題歌「新時代」は中田ヤスタカ、「私は最強」はMrs. GREEN APPLEの大森元貴、「逆行」はVaundy、「風のゆくえ」は秦基博が担当。Adoはオンラインの世界から飛び出しリアルな現場で、J-POP界の大物ミュージシャンとタッグを組み商業的に大成功を収めた。

 実は同映画の公開半年前(2022年2月)にある“事件”が起こった。Adoは日本テレビ系「マツコ会議」に出演し、マツコ・デラックスとスタッフにだけ素顔を見せてトークを行った。Adoは「どうやったら自分のことを好きになれますかね?」と質問すると、マツコは「血反吐が出るくらい自分のことが嫌い」「好きにはなれないけど労わってあげたくなってくる」「だから嫌いなままで全然大丈夫よ」と、マツコらしい言葉遣いで温かく助言した。

 音楽ライターは「マツコのこの言葉がAdo背中を押したのは間違いありません。オンラインの世界に逃避していたAdoが、大人との交渉が必要な現実の商業社会に進出できたのは、彼女自身の内面に大きな変化があったからでしょう。まさにAdoにとって“新時代”が到来したというわけです」と分析する。

 こうしてAdoは「マツコ会議」放送後の2022年4月に、初のワンマンライブを都内で開催。全国ツアーに続いて、今年2月からは初の世界ツアーを展開した。さらに、4月には東京・国立競技場での単独ライブを、女性ソロアーティストとして初めて成功させる。Adoはメジャーデビューからわずか3年半で、日本の音楽シーンのトップランナーに加わったのだ。

 前出の音楽ライターがこう明かす。

「国立競技場のステージでは、ボックスに入って歌唱するいつものスタイルを守り、照明を後ろから強く当てることで観客席に顔が見えないようにしていました。しかし、前列の客は、Adoがステージを移動する際、うっすらと顔が見えていたようです。多少、顔がバレても問題なし、という覚悟がすでに芽生えていたのかもしれません」

ファンから直接的な承認獲得へ

 Adoは覆面シンガーとして活動を続ける中、ニコニコ動画を舞台にした第1段階、大ヒットアニメ映画との協業をきっかけとした商業的展開の大成功という第2段階を経て、ファンからの直接的な承認獲得という第3段階へ移行しようとしているようだ。

「握手は挨拶や承認の行為として社会的な意味を持ちます。ファンとの肌と肌の接触を通じて得られる肯定的なフィードバックがAdoの自己評価に好影響を与える可能性は大きいです。自己嫌悪に悩んでいたAdoですが、今回の握手会を機にこれまで保持してきた匿名性というバリアを超え、ファンと身体的、感情的なつながりをもっと持ちたいと思うようになっても不思議ではありません」(エンタメ誌編集者)。

 実際、Adoは7日放送のTBS系「日曜日の初耳学」に3年ぶりに出演し、今後の目標について「必ずグラミー賞を獲りたい」「海外で大きくなった上で、まだ日本のアーティスト、歌い手さんがやったことのない規模の世界ツアーを行う」と明かしたうえで、「しゃべりが苦手でコミュニケーション能力がなくコンプレックスだったが、今になって解消できるんじゃないか。無理と思うことほどやった方がいいと思った」と心境の変化を語った。

 この発言はかなり重大だ。なぜなら彼女のコンプレックが素顔を見せないステージングに繋がり、それが人気の源泉となっていたのに、そのスタイルを転換して“顔出し”する可能性を示唆したからだ。目標に掲げたグラミー賞の授賞式にシルエット出演というのはあり得ないだろう。

 Adoは覆面シンガーとしてのミステリアスな魅力が大きな特徴だ。この覆面性が彼女のファンベースを形成しているため、顔を公開するとAdoのミステリー性が薄れイメージダウンにつながるリスクは大きい。また、一部ファンがこの変化を受け入れず失望することも予想される。今回の握手会はまさに“諸刃の剣”と言えそうだ。

デイリー新潮編集部