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 会社や役所、駅、学校のトイレで清掃員を見かける。小便、大便を体から出すのは人が生きていくうえで極めて大切で、最も基本的なこと。だが、新聞やテレビ、雑誌ではその最前線にいる清掃員を大きく報じることは少ない。
 そこで今回は、有名私立大学で清掃員として働く女性にスポットを当てる。彼女への取材をもとに職場の様子や働く人たち、仕事の内容、仕事をするうえでの思いに迫ってみた。

◆夏の女子トイレは、汚物のニオイが充満

 6月上旬の午前5時50分、都内中心にある有名私立大学のキャンパス。偏差値は、ここ30年で大きく伸びた。35年程前に建てられた校舎の地下2階の一室に清掃員25人がいる。中心に、40代の所長と30代の副所長が立つ。中堅の清掃会社の正社員であるこの2人が、注意事項を話す。55分に23人のパート社員がそれぞれぞれの担当エリアに一斉に向かう。各教室と廊下、トイレ、階段、食堂、図書館、ホール、講堂、会議室だ。

 所長は、よく言う。「ここの学生は、リテラシーが高い。自分が10年程前に担当していた私立大学よりも偏差値がはるかに高い。優秀な学生が多いから、トイレの使い方も比較的きれい。多少汚かったとしても、こらえてほしい」

 今回話を聞いた小林なつみさん(仮名・48歳)が担当するのは6階と7階の男子、女子トイレ。中学生と高校生の2人の子どもの学費を捻出するために3年前から週6日(月〜土)、午前6時から9時まで働く。時給は、1250円。1か月で8万円前後の収入となる。50代の夫は、零細中小企業に勤務する。

◆子供の学費のために仕事を辞められない

 パート社員23人の平均年齢は、73歳。ミャンマーからの留学生を除き、ほとんどが年金暮らしで「孫にお小遣いをあげるために働いている」と誇らしげに語る。生活費を稼ぐために働くのは、数人しかいない。その1人が、小林だ。

 14人が女性で、そのうちの10人が1階から13階までのトイレを担当する。小林はほかと比べて若いこともあり、担当するトイレは多い。時給は小遣い稼ぎに来ている70代の怠慢なパート社員と同じだ。小林の1つの不満は、ここにある。

 6〜8月は、女子トイレは臭いが充満する。汚物入れに使い捨ての生理用品があり、臭いが小林の髪の毛や皮膚にしみつく。まして、教職員や学生が来る8時半までは大学は経費削減と称して冷房をつけない。トイレ担当のパートの女性社員たちは口をそろえて「暑くて、くさくて死にそう」と言う。仕事はキツイ。しかも賃金が低いから2〜3年で辞めていく。小林も辞めたいが、そうはいかない。子どもの学費をつくらないといけない。

◆ウンチがついたトイレットペーパーが散乱

 最も困るのは、6階の女子トイレだ。特に汚物入れにトイレットペーパーにウンチがついたものがつっこまれている時。清掃の所長によると、「多くはアジアやアフリカからの留学生」らしい。アジアやアフリカのある国々の留学生がよく利用する階のトイレで目立つのだという。ほかの階のトイレでは少ない。

 15年程前からこの大学への留学生が増え、現在は全学生の約3割になっている。6〜8割はアジアやアフリカ諸国だ。大学の職員が清掃の所長に話したところでは、アジアやアフリカからの一部の留学生の母国の下水道事情は日本に比べると問題が多く、トイレに流すとペーパーがつっかえるらしい。そこで、汚物入れにつっこんでいるようだ。

 汚物入れは、血をたんまりと吸い込んだ生理用品とウンチがついたトイレットペーパーであふれかえり、周辺に散乱する日もある。小林は「留学生なりに気を使い、汚物入れに入れているのかもしれないが、生理用品とウンチの臭いと暑さで、気が変になりそう」とこぼす。四つん這いになり、ビニール手袋でつかんだスポンジでウンチがついたタイルをふく。タイルを傷つけないようにしながら、ウンチをとるのが大切なのだという。