ベンチャーキャピタルの獲得がこれまで以上に難しくなっており、多くのD2Cブランドは収益性の高い成長の実現に注力している。

創業4年のラボグロウンジュエリーブランドであるドーシー(Dorsey)もそうした企業のひとつだ。ダイヤモンドに代わるサファイアからスタートした同ブランドは、宝石が連なったリヴィエール(Rivière)というネックレスでもっとも知られており、ホワイトサファイアを使ったネックレスはドーシーのベストセラーSKUとなった。同ブランドは現在、公式ウェブサイトでのみ商品を販売しており、当面はほかの小売店に拡大する計画はない。

2019年後半にローンチして以来、ドーシーは8桁の収益と7桁の利益率を達成している。昨年、ドーシーは170万個以上のラボグロウンストーンを販売し、ウェイティングリストは3万5000人に達した。2024年の前年比成長率は100%になると予測されている。ドーシーの創業者によれば、顧客獲得コストを低く抑え、高い維持率で忠実な顧客ベースを築くといった早期の決断が、同ブランドを黒字化の道へと導いたという。

収益性を念頭に置く



ドーシーの創業者でありCEOを務めるメグ・ストラチャン氏は米モダンリテールに対し、過去にガールフレンドコレクティブ(Girlfriend Collective)やアニン・ビン(Anine Bing)、グープ(Goop)といった新興ブランドでマーケティングに携わってきた経験から、収益性の高い成長方法を見出すことができたと語る。

「これまでの経歴の大半を、コンサルタントや社内幹部としてD2C企業の構築に費やしてきた」とストラチャン氏は話す。「その多くがD2C全盛期、つまり企業が多額の資金を調達し、それを顧客獲得のために利用することができた時代のことだ」。

当時は「収益性について語る人などいなかった」と同氏が言うように、ほとんどの企業は何としても前年比100%の成長を遂げ、イグジットを達成しようとしていた。「投資家が当初考えていたことと、現在求めていることはまったく違う。そして、舵取りの方向を変えることは非常に難しい」。

「私は会社が資金を調達できなかったために給料をもらえなかった人間であり、それによって人は変わる」とストラチャン氏は語った。

だからこそ2019年にブランドを立ち上げて資金を調達できなかったとき、ストラチャン氏は多くのD2Cブランドが行っていたキャッシュバーン(cash-burning、現金燃焼)戦術を脱する好機だと考えたのだ。早くから同氏はウェブサイトを構築し、ブランドの収益が100万ドル(約1億5000万円)に達するまでは自らフルフィルメントも管理した。当時、同氏はガールフレンドコレクティブのグロース担当バイスプレジデントもフルタイムで兼任していた。

2021年にドーシーが前年比3桁の成長を達成しはじめると、投資家たちは同ブランドに投資したいとストラチャン氏に接触しはじめた。ストラチャン氏は100万ドル(約1億5000万円)のシード資金を調達し、ついにドーシーを本格的に経営できるようになったのである。

ブランドマーケティングとパフォーマンスマーケティングの融合



ストラチャン氏は自身の経験から、過度な成長に注力するのではなく、ほとんど人の助けを借りずに無駄のないチームでブランドを運営することを選択した。ドーシーは正確な従業員数の公表は避けたものの、社内チームは「ビジネス見合った適切な成長率で成長している」という。

同氏はまた、ブランドマーケティングとパフォーマンスマーケティングの機能をひとつのチームに統合させた。以前の会社ではブランドマーケティングチームとグロースマーケティングチームがそれぞれ孤立しており、バラバラのマーケティング戦術を作ってしまっていると感じていたからだ。

ストラチャン氏のマーケティングへのアプローチにおけるもうひとつの重要な要素は、どの初回注文でも利益を上げることだ。多くのD2C新興ブランドは、顧客がまた戻ってくることを期待して初回注文で値引きをして、利益を犠牲にしてきた。特にジュエリーのような高額商品を扱う場合、そうした期待通りにはほとんどならないとストラチャン氏は指摘する。

「私たちはフルプライスのビジネスだ」とストラチャン氏は話す。ドーシーでも初期に値引きの実験はしてみたものの、今は初回割引やホリデープロモーションは一切実施していない。

ドーシーはインスタグラムやアフィリエイトマーケティング、プレス、Eメール、SMSマーケティングといった従来のチャネルを通じて顧客の大部分を獲得している。「これらは時期によって変動する」と同氏は言う。

「目標とするCACに基づいて顧客を獲得している限り、どのチャネルにも予算の上限はない」とストラチャン氏は話す。マーケティング予算は前年比成長率に基づいて毎年増額される。だが現在、同ブランドはどのチャネルでも赤字を出してはいないという。

数あるD2Cジュエリーブランドのなかでドーシーが突出した存在であるために、美的センスも大きな役割を果たしている。「私たちがすることはすべて、ジュエリーを文脈化することであり、同社はファッションの観点からそれに傾倒している」とストラチャン氏は語った。ほとんどのラボグロウンダイヤモンドを扱うブランドは、いわゆるエンゲージメントリングに焦点を絞っているが、ドーシーは現在そうしたジュエリーを提供していない。(しかし、今年後半に展開する計画はある)

季節感を重視するためドーシーでは年に20〜30回の写真撮影を行っている。その写真の多くは、同ブランドアイテムの身につけ方に焦点を当てている。「私たちの最高傑作は、年に12回から20回撮影されている」とストラチャン氏は話す。ドーシーはユーザー生成コンテンツはあまり宣伝せず、その代わりにファッションに特化したクリエイターを起用している。

ブランド認知度向上への貢献でいうと、セレブリティも助けとなっている。ドーシーはセレブリティとのパートナーシップに一切投資していないが、ブランド設立初期からのファンであるスタイリストを通じて、レッドカーペットでの露出を獲得してきた。たとえばモデルのベラ・ハディッドは2022年、ファッション展覧会のオープニングイベント「メットガラ(Met Gala)」でドーシーのイヤリングを着用していたが、同ブランドがそれを知ったのはそのイベントのあとだった。そのほかのファンにはヘイリー・ビーバーやジャスティン・ビーバーがおり、ジャスティン・ビーバーは最近のツアーでドーシーのネックレスであるケイト(Kate)を着用していた。

シャネル(Chanel)やディオール(Dior)と仕事をしてきたラグジュアリーブランドアドバイザーのヴィクトリア・ブリンナー氏によると、若い買い物客にとって、ブランドイメージと知覚価値は高級品の購入決断時に大きな役割を果たすという。フォロワー数だけでなく、ソーシャルメディアでの強力なイメージと明確な商品ポジショニングは、特にオンラインジュエリーブランドがひしめくなかで、潜在顧客に信頼感を与えることができると同氏は話す。

とはいえ、「小規模なブランドであれば、セレブリティによるマーケティングは難しいだろう。ブランドを成長させるために、あまりにも多くの投資をしなければならないからだ」とブリンナー氏は指摘した。

ドーシーの今後の拡大計画



競争に勝ち残るため、ドーシーはファッション性の高いジュエリーの品揃えを拡大する計画だ。

同ブランドはラボグロウンダイヤモンドを使用した初の14Kファインジュエリーを昨年夏に発表した。これはサファイアよりもはるかに価格が高い。この商品の品揃えはまだ新しいが、ストラチャン氏はラボグロウンダイヤモンドへの関心の高まりが成長を促進させるだろうと予想している。目標はドーシーのラボグロウンサファイアの人気にあやかり、最終的に売上の50%をラボグロウンダイヤモンドにすることだ。

また昨年、ドーシーはリヴィエールのカスタムネックレスとブレスレットラインをデビューさせ、さらにはリングカテゴリーにも参入した。今年は価格設定も多様化するという。「私たちはカスタムストーンカッティングを行っており、近々さまざまな価格帯のリヴィエールのネックレスやブレスレットを作ることができるようになるだろう」。

総じて、収益性を維持することは考え方を変えることだとストラチャン氏は話す。「収益が上がるまでは、きれいなオフィスもコンブチャのドリンクサーバーも持てない。それは私たちが立ち返りつつある、だいぶ昔ながらのビジネスの原則だ」。

[原文:How DTC jewelry brand Dorsey is growing profitably]

Gabriela Barkho(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)
Image courtesy of Dorsey