建設業では担い手育成に余念がない

写真拡大

産業界の人手不足が深刻だ。東京商工リサーチが2024年4月17日に発表した調査結果では、「正社員不足」とした企業は大企業と中小企業を合わせて69.3%で、前年度の66.5%から悪化している。

特に人手不足が顕著なのが、建設業だ。調査では「非常に不足」が20.9%、「やや不足」としたのは63.5%で8割強の企業が人手不足を感じている。しかし、建設業は取引相手が企業や行政が多く、人手不足の影響が見えにくいところがある。

「若年入職者の確保・育成が喫緊の課題」

総務省の労働力調査の推移を見ると、2014年は建設業の正社員の雇用者数が412万人なのに対して、23年は399万人と、5%程度減っている。

この中には経理事務や総務などを行う職員に加えて、建設工事を請け負うために必要な人材「主任技術者」も含まれている。主任技術者の業務は元請け・下請け工事で施工の計画立案や工事の工程管理、品質管理がある。工事の全体をまとめる重要な役割だ。主任技術者になるには「施工管理士」の資格が必要で、企業にとっては雇用している技術者の数によって請け負える工事の数が決まるため、経営上も必要な人材だ。

技術者や、工事現場で施工する「職人」を含めた建設業雇用者の年齢構成を見てみよう。55歳以上が34.3%で、30歳から49歳までが38.3%、20歳から29歳までは12.5%。55歳以上が3割を占め、高齢化が進んでいる。

国土交通省は、こう指摘している。

「60歳以上の技能者は10年後にはその大半が引退することが見込まれる。これからの建設業を支える29歳以下の割合は全体の約12%程度。若年入職者の確保・育成が喫緊の課題。担い手の処遇改善、働き方改革、生産性向上を一体として進めることが必要」

大阪万博工事の影響で人手不足の企業も

建設業界の高齢化と人手不足が市民生活に与える影響について、建設業の調査機関「助太刀総研」に取材した。

建設経済研究所による、公共工事向けの投資額を提示し、2023年度見通しは25.8兆円、24年度見通しは26兆円と堅調に推移すると説明。それだけに、高齢化で業界から技術者が減るリスクについて、「公共インフラの老朽化対応や建設が、人手不足で遅れる可能性は非常に高い」と指摘した。

一方、現在、大阪・関西万博に向けて大規模な建設工事が行われている。助太刀総研にも、万博の関連工事に人材が集中し、人手が不足しているという企業からの相談が非常に多いとの話だ。「近畿地方一円、関東地方において大規模開発が控えており、すでにいくつかの案件を断っているという企業の声も上がっています。そのため、公共工事が遅れるといった影響は十分にありえます」。

建設業には、地震や水害などによる道路への土砂流入、道路の崩落といった被害が起きた際に対応する役割もある。だが「災害復旧などの一時的な需要に、人手が足りないために企業が弾力的に対応できる余力を持つことが難しくなっていくでしょう」と答えた。