Amazonの食料品店テクノロジーへの野望は再び大きく揺れ動いている。

同社は4月初頭、レジをなくすことを目的とした同社の店内決済システムである「ジャストウォークアウト(Just Walk Out)」を新たな食料品店には導入しないことを明らかにした。この詳細について最初に報じたのはジ・インフォメーション(The Information)である。その代わりにAmazonは現在、新しい食料品店では「ダッシュカート(Amazon Dash Cart)」というスマートカートテクノロジーを導入するとしている。

Amazonは何年もかけて食料品店の戦略について練り直し、消費者と小売業者の両者にジャストウォークアウトの可能性をアピールしようとしてきた。だが、いずれも大きな課題に直面している。まず食料品店の面では、Amazonはまだ大衆向け食品店に対する適切な戦略を見つけることができていない。昨年、同社の食料品店である「Amazonフレッシュ(Amazon Fresh)」の従業員を多数解雇し、さまざまな食料品事業をひとつの部門に統合する計画を発表した。

ジャストウォークアウト機能は小売業者にほとんど浸透せず



一方そのあいだ、Amazonはジャストウォークアウト技術をさらに成長させようとしてきた。買い物客に入店した際に支払い情報を入力させ、カメラやそのほかの技術を使って人々が手に取った商品を追跡することで、レジを通さずに買い物を済ませることができるというこのシステムは、2020年に初めて導入された。ジャストウォークアウトはまず同社のコンビニエンスストア「ゴー(Go)」で導入され、その後Amazon以外の店舗でも導入されはじめた。Amazonの最初のパートナーの1社はハドソン(Hudson)で、一部の空港の小売店でジャストウォークアウトを試している。

Amazonは時間をかけて、ジャストウォークアウトが導入できるほかの小売スペースを見つけようとしてきた。とりわけ同社は、価値ある食料品店への投資に値するものとしてジャストウォークアウトを売り込もうとしていた。昨年、ジャストウォークアウトは40店以上のAmazonフレッシュの店舗とホールフーズ(Whole Foods)の数店舗で導入されている。しかし、ほかの小売業者にはまったく受け入れられなかったようだ。

現在、Amazonは2つのシステムを切り離し、両方の戦略を再考しているようだ。「我々は昨年、Amazonフレッシュ店舗の再設計に多くの時間を費やし、よりお得で便利、そして豊富な品揃えによって、全般的によりよいショッピング体験を提供してきた。これまでのところ、顧客の買い物の満足度スコアは向上し、購入数も増加するなど、好ましい結果が得られている」とAmazonの広報担当者であるジェシカ・マーティン氏は書面による声明で話した。

「またジャストウォークアウトでレジに並ばずに済むというメリットを享受する一方で、顧客からは、近くの商品やお得な商品を簡単に探せるサービスや、店内で買い物しながらレシートを確認できたり、どれだけ節約できたかを把握できたりするサービスがほしいという声も寄せられている。顧客にさらなる利便性を提供するため、当社のスマートショッピングカートであるダッシュカートを導入することになった。これによってレジに並ぶ手間を省く以外に、上述のすべてのサービスを受けることができる」。

スタートから成功の見込みはなかった?



アナリストによれば、多くの点でジャストウォークアウトは大衆向け食料品店という環境ではほとんど機能する可能性がなかったという。コンフルエンサーコマース(Confluencer Commerce)の創業者兼CEOを務めるブライアン・ギルデンバーグ氏は、「ジャストウォークアウトの問題は、食料品店で必要とされる商品の売り方が(この技術の仕組みとは)正反対だということだ」と語った。

この技術は主にカメラに依存しており、買い物客を追跡し、どの商品をカゴに入れたかを識別するとされている。しかしギルデンバーグ氏によれば、食料品店には商品がぎっしり並んでいる。「お買い得商品もあれば見切り品もある」と同氏は話し、「カメラは商品棚を見ることができないため」、その追跡は困難だと続けた。

ギルデンバーグ氏によると、このような技術が有効なのはもっと小規模であまり混雑していない場所だという。「空港のギフトショップならあまり問題にならないだろう」。

多くの点で、ジャストウォークアウトが提供したサービスは食料品店での買い物客が求めているものとは必ずしも一致していなかった。カンター(Kantar)の小売インサイト担当シニアアナリストであるアンナ・ブレナン氏は「食料品店には向いていなかった」と話す。主な理由のひとつは顧客体験だ。コンビニや空港、娯楽施設など、ちょっとした買い物を目的とした環境では、「それは画期的で楽しい」とブレナン氏は指摘した。

だが食料品店での買い物は、また違ったタイプの体験である。「その場所にいるのには理由があるのだ」とブレナン氏は言う。つまり、できるだけお金をかけずに、できるだけ多くの食料品を買うためだ。その点では、レジでの会計作業をなくすことは何の役にも立たない。

さらに、ジャストウォークアウトは新たな難題を増やした。食料品テクノロジー企業のスウィフトリー(Swiftly)共同創業者兼チーフイノベーションオフィサーであるショーン・ターナー氏は、「この技術は、実際には入店する際の障壁となる摩擦を生み出した」と話す。「従来の小売業について考えるなら、障壁はできるだけ低くしたいし、なるべく摩擦は減らしたい」。

このようにレジをなくすことは、プロセスの早い段階でボトルネックとなり、ターナー氏はこれが一部の顧客を遠ざけたと語った。「興味深い技術であり機能の集まりだったが、結局のところ、こうしたものはすべて消費者と関わらなければ意味がない」。

今後の展開



ジャストウォークアウトの衰退により、Amazonの食料品店テクノロジーの野望は依然として不透明だ。このサービスは当初から、ほかの小売業者向けサービスとして売り出されていた。しかしAmazonが新たな店舗との提携を発表し続けている現在でも、どのような大手小売業者がAmazonと協力する気があるのかは不明である。

「Amazonは技術を提供するある種の素晴らしいサプライヤーだと思うかと聞かれたら、もちろんだと答える」とギルデンバーグ氏は言う。しかし、eコマースのトップに自社の売上に関するデータを提供するようなサービスに、ほかの小売業者はお金を払いたいと思うだろうか。「それについては何とも言えない」と同氏は続けた。一方、他社も同様のサービスを提供している。たとえばインスタカート(Instacart)には、ここ数年試験的に導入している、スマートカートのような独自の店舗内小売技術がある。ギルデンバーグ氏によると、「インスタカートは小売業者にとって脅威ではない」という。

実際Amazonでさえ、食料品店はこのようなサービスに適した場所ではないと認めているようだ。同社は現在、スタジアム、空港、大学、医療施設、その他コンビニエンスストアなど、ジャストウォークアウトが有用だと判明しているほかの場所を売りにしている。

そのため、現在は2つの事業を切り離すことに注力しているようだ。ジャストウォークアウトはより小規模な店舗の展開に重点を置いている。そしてAmazonは基本に立ち返り、顧客を監視するような高価なハイテク機器を使わずに、大衆向け食料品店に参入できる最善策を見つけ出そうとしている。

「Amazonは食料品店を変えたかったのかもしれない」とカンターのブレナン氏は話す。「しかし消費者は食料品店が変わることを望まなかったのだ」。

[原文:Amazon Briefing: Why Just Walk Out wasn’t the right fit for grocery]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)