スマホで調べものをする人

写真拡大 (全3枚)

体の不調にはどう対応すればいいか。順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんは「『病は気から』という言葉があるが、まさにその通りだ。体の調子が悪いから、原因を自分で調べようとインターネットで検索をして、不安になるような病名がずらっと並んでいるのを見て、自律神経が乱れて本当にメンタルの病気になってしまうこともある。まずは深呼吸をする、整理整頓をする、食生活を見直すといった、できることから始めて、負のスパイラルを終わらせることだ」という――。

※本稿は、小林弘幸、毛利啓銘『自律神経を整えれば「食いしばり・歯ぎしり」は解決する』(宝島社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SDI Productions

■バランスの良い食事を「おいしく」楽しんで食べる重要性

私は30年以上にわたり、自律神経について研究をしてきました。

そして、心と体の健康を保ち、パフォーマンスを上げるためには、自律神経の働きがきわめて重要であると確信を持つようになりました。

ポイントになるのは、交感神経と副交感神経のバランスです。そして、自律神経のバランスを整えるためには、人間のライフラインともいえる、「食事」と「呼吸」が大事なのです。

「食事」は、栄養を取り入れて生命活動を維持するだけでなく、自律神経のバランスを高いレベルで整えることができるものです。

朝、昼、夕、一日3回、規則正しく、バランスの良い食事を「おいしく」楽しんで食べることが、自律神経のバランスを安定させることにつながります。体に必要な栄養素やカロリーがただとれればいい、ということではないのです。

特に朝食は、すっきりとした一日のスタートを切るには重要です。食欲があまりないという人でも、バナナだけでもよいので食べるようにしましょう。朝食をとることで、腸が活発に動き、副交感神経の働きも上がります。

発酵食品や食物繊維なども、一日の食事の中で意識してとるように心がけてください。

■緊張時に大きく深呼吸すると気持ちが落ち着く理由

そして、もう一つの鍵となる「呼吸」。

自律神経は内臓器官のすべて、とりわけ血管をコントロールしている重要度の高い神経ですが、人間の生命活動に欠かせない「呼吸」も、実は自律神経がコントロールしています。しかも呼吸は、自律神経=血流の良し悪(あ)しに密接に関係しているのです。

内臓や血管の働きは自分の意思ではコントロールできませんが、呼吸の速い・遅いは、自分の意思でコントロールすることができます。

呼吸が速く浅くなると、自律神経が乱れ、血流が悪くなります。その結果、腸内環境が悪化するなど、体のさまざまな部分に影響が出ます。メンタルの不調につながることもあります。

逆に、ゆっくり深い呼吸は、自律神経を整え、血流を良くし、腸内の動きを良くして、メンタルを安定させてくれます。

緊張しているときに大きく深呼吸すると気持ちが落ち着くのは、交感神経が優位で興奮していた状態だったのが、呼吸をすることで副交感神経が優位になり、自律神経のバランスが安定したためです。

とはいえ、四六時中呼吸に意識を向けることは現実的ではありません。常に呼吸を意識するほどストイックになる必要はなく、朝起きたときや夜眠る前、さらに不安や恐怖に襲われそうになったときだけでも、ゆっくり深い呼吸を意識してみてください。そのちょっとしたことが、悪いサイクルから抜け出せる、大きな違いにつながります。

私たちが生きていくうえで必要不可欠な「食事」と「呼吸」。自律神経を整えるためにも、もっと意識を向けることが大切です。

■恐怖心で自律神経が乱れ、免疫力が低下する

2020年春に新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃、外来診療を行っていると、「熱がある」「呼吸が苦しい」と訴える患者さんを多く見るようになりました。

けれども、患者さんの熱を測ってみると平熱の36.5℃。呼吸もパルスオキシメータで動脈血液の酸素飽和度を測ると、99%とまったくの正常値なのです。

ウイルスに感染する前の段階で、メンタルに先に異常が出てしまっていたのです。

写真=iStock.com/eggeeggjiew
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eggeeggjiew

「不安」や「恐怖」は、自律神経を乱します。特に、目に見えない未知のウイルスの流行という事態に対しては、これまで体験してきたことのない出来事でもあり、その恐怖心から多くの人が心の健康を損なってしまったと考えられます。

やみくもに恐怖心を抱いているだけでは自律神経が乱れ、免疫力が低下し、感染しやすい体となってしまうだけ。感染を恐れるあまり免疫力が低下するなど、本末転倒の状態ですが、仕方がありません。

ただでさえ、多忙な仕事、雇用への不安、老後の心配といったストレスが多い日本で、感染症の恐怖や社会情勢の悪化まで重なり、心の安定を維持することは難しいことでした。

コロナ禍から3年以上が経ち、一見今までの日常を取り戻しているかのように見えます。しかし、まだまだ「元通り」とはいかない状況であると思っています。3年は長いようで短いです。蓄積された心身の不調はそんなに簡単に解消されないのです。

■「病は気から」も馬鹿にできない

以前よりも「なんとなく調子が悪い」という人も増えています。頭痛や肩こり、疲れ、だるさなど、病院に行くほどではないけれど、ちょっと心身の調子が上がらない、なんだかやる気が出ない、という人がたくさんいます。

「病は気から」という言葉がありますが、まさにその通り。

小林弘幸、毛利啓銘『自律神経を整えれば「食いしばり・歯ぎしり」は解決する』(宝島社)

体の調子が悪いから、原因を自分で調べようとインターネットで検索をして、不安になるような病名がずらっと並んでいるのを見て、「もしかしたらこの病気かもしれない」と、より不安になってしまい、本当にメンタルの病気になってしまう、ということも起こっています。

ただでさえ自律神経のバランスが崩れているのに、さらに自律神経を乱す原因をみすみすつくり出しています。この悪循環は、どこかで断ち切らねばなりません。

まずは冷静に、インターネット上の情報に頼りすぎず、自分の置かれている状況や、ストレスの度合いを把握して、気持ちを落ち着かせてください。深呼吸をする、整理整頓をする、食生活を見直す、といった、できることから始めて、負のスパイラルを終わらせましょう。

----------
小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
----------

----------
毛利 啓銘(もうり・けいめい)
歯科医師
モウリデンタルクリニック院長。1971年生まれ。歯科治療の矛盾や誤った常識を明確に説明し、基礎医学に基づいた論理的な治療を提供している。形骸的な治療ではなく、予知性が高く、治療後の予防管理を重視した治療を行っている。歯の根本的な問題を解決するため、約15年前から患者の食事や生活習慣の改善指導も行う。
----------

(順天堂大学医学部教授 小林 弘幸、歯科医師 毛利 啓銘)