「胃がんの検査」はどんなことをするの?前日の食事についても解説!【医師監修】
胃がんは日本人に多いがんの1つで、厚生労働省の調べによると2019年の罹患者数は男性3位・女性4位です。高齢化とともに罹患者数は増えていますが死亡率は低下傾向にあり、早期発見・早期治療が進んでいるためだといえるでしょう。
胃がんの早期発見には適切な検査を受けることが欠かせません。それが早期治療を始める重要なポイントなのです。
この記事では胃がんの場合に必要な検査を紹介します。胃カメラ検査では、流れや検診の間隔についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
胃がんとは?
胃の壁は、内側から順に粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜という5層構造です。胃がんが最初にできるのは粘膜上で、さまざまな原因で発生したがんは無秩序に増殖します。
成長するにつれて外側に広がり、粘膜下層までにとどまるのが早期胃がんで、固有筋層から漿膜に達したのが進行がんです。
漿膜に達した後は、近隣の臓器に浸み出すように広がり(浸潤)ます。また、腹腔を覆う腹膜にがん細胞が散らばる腹膜播種や、リンパ・血液を介し離れた部位に飛ぶ遠隔転移などで進行を続けます。
胃がんにはどのような検査が必要?
胃がんの検査では、がんがあることを確定する検査と、治療方法を決めるためにがんの状態を調べる検査とがあります。
確定のための検査はバリウム・内視鏡・病理検査などで、状態を調べる検査はCT・MRI・PET検査などです。それぞれ個別に解説します。
バリウム検査
胃がんの有無・位置を特定するために最初に行われる検査です。
胃や大腸などの消化管や尿路などは、通常造影剤のバリウムを使う検査を受けます。胃に付着したバリウムはX線を通さないため、胃の形や胃壁のしわ・ヒダなどがはっきりわかります。
がんや潰瘍では異常なへこみや隆起が見られるので、病変の存在位置と形の確認が可能です。所要時間は5分程度で終わる手軽な検査で、幅広く実施されます。
内視鏡検査(胃カメラ検査)
口または鼻から内視鏡を胃の内部に入れ、胃の粘膜をモニターで見て検査する方法です。
粘膜表面をライトで照らしながら、しわを伸ばしてくまなく調べます。
がんなどの病変があれば広がりや深さを観察し、併せてほかにも病変がないか胃の中を詳しく調べ、かかる時間は10~15分程度です。同時に画像撮影も行い、記録として保存します。
病理検査
内視鏡検査などで胃がんが疑わしい病変を見つけても、外見だけでは実体を判断できないこともよくあります。
そのような時に、病変の一部を採取し顕微鏡などで詳しく観察して、胃がんかそうでないかの診断を下すのが病理検査です。採取した検体から標本を作り、異常な細胞を探します。
がん細胞が見つかれば、悪性度の判断や浸潤の様子の判断も病理検査の役割です。
CT検査・MRI検査
胃がんが進行した場合、近隣の臓器や離れた部位・リンパ節などへの転移が疑われます。
そのような場合に、他臓器への浸潤・転移の状況を調べるための検査です。CTはX線・MRIは磁気を使い、身体の全周から照射して断面を連続的な画像にします。
どちらも広い範囲の撮影ができ、ほぼすべてのがんに対して撮影が可能です。CTはX線の透過度をコンピュータで処理して画像にします。時間は10~15分程度と短時間です。
MRIは強力な磁力と電波を使って画像を作る装置で、やわらかい組織の撮影に適しています。
PET検査
この検査はFDG(放射性フッソ付加のブドウ糖)を注射し、がん細胞が取り込んだFDGの様子を画像にします。
がんの形ではなく、活動状態を調べる検査です。検査では30分程度の時間をかけて、ほぼ全身の画像が撮影できます。
PET検査はCT・MRIとの組み合わせもでき、がんの位置や大きさ・広がり方を郄精度な画像にできる検査です。なお、早期胃がんでは保険適用外で、費用は自己負担になります。
注腸検査・大腸内視鏡検査
胃の近くには大腸の横行結腸が通っています。胃がんが進行して漿膜に達した場合や、腹膜播種でも大腸に浸潤・転移する可能性があり、大腸の検査が必要です。
注腸検査では肛門からバリウムと空気を注入し、X線で撮影して腸粘膜の状態や細くなった部位がないかを検査します。胃がんのバリウム検査と同じ目的です。
大腸内視鏡検査では、肛門から挿入した内視鏡で粘膜に病変がないか検査します。
審査腹腔鏡
胃がんが進行して腹膜播種が疑われる場合、CT・MRIなどの画像では確認が難しい状況です。
そこで行われるのが審査腹腔鏡検査で、状況を把握して病期を確定させるために行われます。腹部に小さな穴を開け、腹腔鏡を入れて腹腔内をよく観察する検査です。
画像ではわかりにくい小さな病変を探し、腹水を調べる細胞診・生検を行います。検査で状況がわかれば、有効な治療法への早期対応が可能になるのです。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーはがん細胞か関連細胞が作る、各種のがんそれぞれに特徴的なタンパク質です。
がん診断の参考や病状の推移・治療効果の判断などに使われます。胃がんの場合はCEA・CA19-9などがあり、血液検査で数値が示されます。
ただ、この数値だけでがんの存在や進行の度合いが確定されるものではありません。初期の胃がんでは数値は上がらず、良性腫瘍でも高い数値になりえます。
胃カメラ検査の流れ
胃カメラ(内視鏡)では負担感が少ない経鼻カメラが増えてきましたが、検査の流れには経鼻も経口も大きな違いはありません。実際の検査の流れを紹介していきます。
消泡剤入りの水を服用
検査前日は21時までに消化のよい夕食を済ませ、当日は透明なお茶・水以外絶食です。
定期的な服薬は7時までに済ませてください。病院に着いたら、処置室で消泡剤入りの水を飲みます。唾液などの泡を消して、カメラの視界を確保するためです。
麻酔・鎮静剤・鎮痛剤などを使用
続いて各種の前処置です。緊張しやすい方は、希望により鎮静剤の点滴・注射をします。
経口カメラの麻酔は、麻酔液剤を喉の奥に5分程溜める方法です。経鼻カメラでは鼻の穴にスプレーで麻酔・鎮痛剤を入れます。最後はどちらも喉に麻酔を追加スプレーして前処置完了です。
内視鏡を挿入
口または鼻からカメラを挿入し、往路をモニターで目視・写真撮影しながら食道・胃を通り十二指腸まで到達したら戻ります。
復路も観察・撮影しながら戻り、約10分前後で検査終了です。途中で病変を見つけたら器具を入れてつまみ取ります。
鎮静剤や鎮痛剤を使用した場合は検査後しばらく安静にする
検査が終わったら、撮影した画像を見ながら医師の説明を受けます。鎮静剤・鎮痛剤を使った場合は1時間程安静にした後の説明です。また、病変部を採った場合は後日検査結果を聞くことになります。
検診の間隔はどのくらいが望ましい?
検診の間隔は、国立がん研究センターが行った研究があります。内視鏡による胃がん検診で対象年齢と受診間隔の適切な条件を、シミュレーションによって検証しました。
それによると、50歳から開始して75歳または80歳までの間、3年ごとに検診を実施することが費用対効果の観点から適切だとしています。
厚生労働省では上記提言をふまえ、50歳以上を対象として2年ごとに、内視鏡またはX線による検診の実施を推奨しました。なお暫定的に、X線検査に限り40歳以上で毎年の検査も可能と付記されています。
胃がんの検査についてよくある質問
ここまで胃がんの必要な検査・検査の流れ・検診の間隔などを紹介しました。ここでは「胃がんの検査」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
胃カメラは口からと鼻からどちらが検査を受けやすいですか?
中路 幸之助(医師)
経口カメラを使用する検査では、嘔吐反射が難点です。挿入時のつらさ・息苦しさが気になる方も少なくありません。嘔吐反射が気になる方は、反射源の舌根に触れない経鼻カメラの方が受けやすいでしょう。ただし、鼻腔が狭い方ではカメラが通りにくい場合があります。担当の医師と相談し、ご自身に合った方法で検査を受けることをおすすめします。
胃カメラ検査前日の食事について教えてください。
中路 幸之助(医師)
検査前日の夕食は21時までに済ませ、その後は水分(お茶・水・白湯)だけにしてください。ただし、検査の開始時間にもよりますので、禁食開始時間を担当の医師に確認しましょう。日常的に服用している薬があれば、飲み方を医師に確認しておくことも必要です。食事メニューは特に制限はありませんが、なるべく消化がよいものを心がけましょう。白米・うどんなどの主食に、やわらかく煮た脂肪や繊維質が少ない副菜を合わせてください。脂身の少ない肉・魚は問題ありませんが、生野菜・根菜・豆類・海藻・ごま・種子がある果物は消化が悪く、繊維が胃内に残ることがあるので避けましょう。
編集部まとめ
この記事では、胃がんの検査を解説しました。胃がんの診断・治療にはさまざまな検査があり、有効な治療の支えになっています。
特に詳しく解説した胃カメラ検査は、胃がんの早期発見に重要な検査となっています。
がんを見つける検診については、2年ごとの間隔での検診が推奨されています。定期的な検査を受けて、早期発見・早期治療を目指しましょう。
胃がんと関連する病気
「胃がん」と関連する病気は1個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する病気
胃炎
どの病気も発症にはピロリ菌の関与が考えられます。胃がんについても発症の特に大きな原因がピロリ菌感染とされ、感染者と非感染者の胃がん発症率の差は明らかです。
胃がんと関連する症状
「胃がん」と関連している、似ている症状は8個程あります。
各症状・原因・治療法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
胃(みぞおち)の痛み
胃の不快感・違和感
腹部の張り
胸やけ・げっぷ
吐き気食欲不振・体重減少
黒色便
貧血(めまい・ふらつき)
多くは日頃からよくある胃の不調時の症状と似ています。食べすぎ・飲みすぎによるものととらえがちですが、長引いたり繰り返したりする場合は要注意です。特に血便や貧血は放置せず、早めに受診してください。
参考文献
胃(国立がん研究センター)
胃がん 検査(国立がん研究センター)
PET検査とは(国立がん研究センター)