(イラスト:すぎやままり)

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令和4年に厚生労働省が発表した人口動態統計特殊報告によると、離婚する人の中でも同居期間が20年以上の割合が上昇傾向にあるそうで、令和2年には全体の21.5%になったとのこと。長年にわたり夫に尽くしてきたけれど、もう耐えられない……。田中伸子さん(仮名・神奈川県・主婦・70歳)は、定年後も自分のことしか考えない夫に対して、ついに愛想を尽かしたそうで――。(イラスト=すぎやままり)

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ドケチなのに計画性はない

夫とは私が19歳の時、あるパーティで出会った。あがり症の私に、「気にしない、気にしない」と緊張を和らげてくれる人だった。

ところが交際が始まると、怒りっぽくてわがままで、人の話を聞かない。何より驚いたのはケチで細かいところだった。外食するにも二軒三軒と回って一番安いところを選ぶ。しかも、自分の好物の店にしか連れていかない自己中心ぶり。

おかげでラーメンばかり食べさせられた。ストレスのあまり付き合って1年で10キロ痩せてしまった。そんな相手なのに私が結婚を決めてしまったのは、彼の安定した収入が大きな理由だった。

けれど、実際の結婚生活はお金をめぐってのもめごとばかり。給料はすべて私に渡すので、管理するようにと言われた。当初、家計を預かることは、私にとってもお金を自由に動かせるという安心感があっていいと思っていた。

ところが夫は月のお小遣いに10万円を要求。しかも「必需品だ」と言って何台も車を買い替えるのだ。車検も待たずに……。

家族での外食、旅行も多く、楽しくはあったものの、「家計のやりくりはお前に任せる」というスタンスで計画性もなくお金を使う夫に、常に不安でいっぱいだった。

「俺の金だ」と言う夫

今はなんとかなっているが、夫が退職したらどうすればいいのか。しかし何か言おうものなら「俺が稼いだ俺の金だ」と機嫌を損ねる。

なんのことはない、実際に私が自由に動かせるお金などなかったのだ。そんな生活だから、きちんと給与は入るのに、いつも家計は苦しかった。

そしてついに迎えた夫の定年退職。かろうじて貯めていた少しばかりの預貯金はあるものの、決して贅沢できる額ではない。今後の収入は年金だけだ。

2人分の年金から夫に渡す小遣いを引いて、食費、固定費、雑費、交際費、車の維持費、保険料……を払えば何も残らない。

そんな私に向かって、「俺はこれまで給料の全額をお前に渡してきた。俺にはお金がない。だから退職金は俺のものにする」と宣言して、退職金のすべてが夫の手元におさまった。小遣いやらボーナスやらを私に隠れてコツコツ貯めているに違いないのに。

夫に合わせるのはもうやめる

夫の退職から10年経った2021年のある日、天井から雨漏りがした。数年前からところどころガタがきて修理が必要になっていたが、屋根はおおごとだ。業者に相談すると、なんと費用は100万円。それなのに夫はあっさりと承諾し、前金30万円を「すぐにでも振り込みます」と約束。

まあいいか。なんだかんだお金を蓄えている夫が払うのだろうと放っておいた。ところが振込締切期日になって、「お金はお前が出してくれよな。俺は出せないから」と言うのだ。私はガーンと頭と心を打たれた気がした。

まただ。怒りがこみ上げてくる。「私、お金なんてない」。口論すると胃痛がひどくなっていやなのだ。だから夫を怒らせないように、いつもいつも私は夫に合わせてきた。

しかしこの日、「通帳を見せろ。家計簿を見せろ。俺の金をどうしたんだ! 騙したのか!」と怒鳴る夫に、私はついに耐えられなくなった。そして、ハッと気がついた。もう終わりでいいんじゃないか、と。

夫は定年以降、仕事もしていないのに家のことも自分のことも私にやらせる。手を伸ばせば取れるものさえ取ろうとしない。「そのくらいやってよ」と繰り返しても聞かない。

電子レンジ、IH調理器、洗濯機を使えないのはもちろん、お風呂に湯を溜めることすらできない。唯一やってくれるゴミ出しも、何度説明しても分別を覚えないから、私がまとめたものを運搬するだけだ。

捨て身の思いが私を強くする

子どもは独立している。とうの昔に親も看取って送った。もう自分は一人になっていいのだ。私の年金は7万円ちょっとだが、夫の年金分割も少しはあるだろうし、それをもらって私は家を出よう。古いアパートでも借りて、好きに自由に、幸せに過ごして死のう。

「そんなにわかってもらえないならいい。私別れて出ていくから!」。ついに私は夫に叫んだ。こんな大きな声を出したのは初めてだ。

すると私の剣幕に驚いたのか夫は、「金は明日、俺が振り込んでくるよ」と言い残して自分の部屋へ去っていった。その後、無事に修理費用は夫から振り込まれたようだ。

夫のケチはまだまだ続くと思う。夫といる限り私は一生、「今日もお金がない」と言い続けるだろう。でも、これからの私には覚悟がある。今まで耐えてきた分の強さもある。もういいという捨て身の思いがある。

死ぬまで夫に合わせるのが当たり前で、それが結婚だと思ってきたが、70を超えた今、いつでも一人になれると思うと勇気が湧いてくる。

離婚のことで悩んだら

田中さん(仮名)は、一人でも生きていく覚悟を持ちながら、夫婦生活を続ける道を選びました。中には、耐えきれずに離婚を考えている方もいるのではないでしょうか。

勢いで離婚する前に、考えるべきことやできる準備があります。

法務省の公式HPでは、離婚を考えている方へ向けた、離婚をする時に考えておくべきことのまとめがあります。相談する場所を知っておくことで、1人で苦しむ前に対策ができるかもしれません。

法務省「離婚を考えている方へ〜離婚をするときに考えておくべきこと〜」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00011.html

他にも、まだ子どもが独立していない場合は、養育費などで悩む方も多いのではないでしょうか。政府広報オンラインでは、離婚するとき、こどもの将来のために必要なことのまとめもあります。

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611/1.html

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