ドジャースの大谷翔平選手の通訳、水原一平氏が球団から解雇され、現地では水原氏には違法なスポーツ賭博に絡んで多額の借金があったと報じられている。アメリカで急成長しているスポーツ賭博の現状について専門家に聞いた。

【映像】スポーツ賭博市場はなぜ急成長したのか?

 国際的なスポーツ法務を取り扱う加藤志郎弁護士によると、アメリカでは今スポーツ賭博の市場が急拡大しているという。

 「今のスポーツベッティング(賭博)は試合の勝敗のような大きなものだけではなく、『この回に点が入る』『このバッターがアウトになるか』という一つひとつのアクションに賭けることができる」

 インターネットで手軽にスポーツ賭博ができるアメリカだが、急激に拡大したのは最近のことだという。

 「これまでアメリカではスポーツ賭博は違法であったが、2018年にアメリカの連邦の最高裁で全米一律に『スポーツベッティングを禁止するのは憲法違反』という判断が示された。背景の一つには、スポーツベッティングが非常に蔓延しており、未成年がオンラインなど違法なベッティングに手を出してしまう状況があった。それならば、むしろ合法化して、適法なスポーツベッティングを取り扱う業者にライセンスを与えることで積極的にコントロールしたほうが、透明性高く適切なスポーツベッティングがなされるのではないか、と判断されたようだ」

 2018年の時点ではほとんどの州で違法だったスポーツ賭博。現在は38の州で合法化されている。しかしカリフォルニア州では2年前に合法化を問う住民投票が行われて、7割が反対。今も違法のままだ。

 その一方で、なぜ多くの州で積極的に合法化されたのか? その背景には、スポーツ賭博による大きな経済効果があるという。

 「ベッティングの対象となることで、より多くのファンがより深くスポーツに興味を持つようになる。加えて、(勝敗を予想するためには)最新方式のデータが必要となり、そのライセンス料はリーグやチームの資金源になっている。スポーツを頻繁に視聴しなかった方でもベッティングを入り口にして、より長く多くの試合を見るようになるという効果もある」

 スポーツコンテンツの視聴時間が増える、またチームやスポーツのデータを分析するビジネスが盛んになる、という経済効果が見込まれるという。

 「スポーツベッティングを取り扱うブックメーカーからスポンサーシップのような形でスポーツ団体に料金が支払われたりなど競争も激しく、各ブックメーカーがかなり積極的にCMなどを流して顧客を獲得している」

 ブックメーカーがスポーツ団体の後援についたり、多くの広告を出すことも経済効果の要因に。

 米ゲーミング協会によると、2023年のスポーツ賭博の収益は、およそ109億ドル、前年比44.5%増と急成長している。さらにブックメーカーの売り上げが増えれば、自治体の税金収入もアップする。

 しかしその一方で、懸念点も多く指摘されている。もっとも問題とされるのが、ギャンブル依存症だ。

 「スポーツ賭博に限らず、賭博一般の影響として、ギャンブル依存症の方が増えたり、賭博が絡むことで関連する犯罪が発生するリスクがある。また、反社会的勢力などの資金源になったりマネーロンダリングに使われることもあり得ると言われている。メリットもたくさんあるものの様々な懸念点があるため、各関係者の中でしっかりと検討していく必要がある」

 THE HEADLINE編集長の石田健氏はアメリカでスポーツ賭博が人気となっている要因について、「一つはテクノロジーの力だ。例えば最近だと将棋においても『70対30で先手が優勢』といったAIの評価がリアルタイムで見られるなど我々の観戦スタイルも多様化し、エンタメ性が上がっている。この『興奮』と『賭博』が結びつきやすくなっていることも懸念点だ。また、ベッティングを扱う会社が上場してことも背景にある。上場しているという安心感、そして合法化された州も出てきたこともあり、ある種『社会的に認められた』という空気が出来上がっていることも後押ししているだろう」と指摘した。

 さらに石田氏は依存症の問題について「広告の影響も大きい。以前はカジノに行かなければ賭けることはできなかったが、今は広告を見た瞬間にスマホで簡単にできてしまう。そのため、スポーツベッティングに関する広告を無尽蔵に流し続けていいのかという議論は必要だ。また、リアルタイムで変動する賭け率などを伝えられるようになったテクノロジーの進化によって、『テクノロジーが我々の心をコントロールできる状態』が果たして適切なのか考える必要がある」と警鐘を鳴らした。
(『ABEMAヒルズ』より)