段々と気温が温かくなり、いよいよ春目前。春服が新調したくなるタイミングで、クローゼットの整理を考えている人も多いはず。ドラマ作品の衣装スタイリングなどを手掛けている、73歳の現役スタイリストの西ゆり子さんのクローゼットはなんと「タタミ2畳分」と小さめ。

西さんのフォトエッセイ、『Life Closet 服と共に生き、服と共に笑う』(扶桑社刊)より抜粋して、服のもち方やクローゼットについて紹介します。

【写真】西さんのクローゼットの中身

クローゼットはタタミ2畳分にオールシーズンの服を収納

「どれくらい、服を持っているんですか?」
スタイリストが、よく聞かれる質問です。スタイリストはおしゃれに気を遣っているのが当たり前。最新の流行にも敏感なので、クローゼットの中にはきっと服があふれているに違いないと思われているのでしょう。

私の場合はといえば、クローゼットの大きさは約二間。縦横の長さがタタミ約2畳分といえば、今どきの若い方にもわかっていただけるでしょうか。右側に秋冬もの、左側に春夏もの。その二間のクローゼットの中に、オールシーズンの服をすべて収納しています。シワになりやすいものはハンガーラックにかけ、ニットやTシャツなどの畳めるものは、その下に並んでいる8個の衣装ケースの中に。

70代を目前に無難な服はすべて処分

現役のスタイリストが持っている服の数としては決して多いほうではありません。むしろ、かなり少ないと言えるでしょう。もちろん、若い頃はそれこそ数えきれないほどの服を抱えていました。

「1年365日、毎日違う服に着替えられるかも」なんて笑い話をしていたくらい。でも、そんな時代はもう終わり。70代を迎えるにあたり、今の自分にとってピンとこない服や、「便利な服」「無難な服」はすべて処分したのです。
70代は、仕事や家族のしがらみからもようやく解放される年代です。せっかく自由になれるのだから、これからは自分が好きな服だけを着て、身も心も軽やかに生きていきたいなって。

本当に好きな服だけで毎日の服選びが楽しい

そうして、私のクローゼットの中は、本当に好きな服だけになりました。
自分の好きな服だけしかないクローゼットを見るたびに、「さあ、今日はどれを着よう?」と、毎日、服を選ぶのが楽しくてたまりません。自分が心底気に入っている服は、何回着てもワクワクします。好きな服はどこかに共通点があるらしく、不思議なことに、どれとどれを組み合わせてもマッチします。

今思えば「どうしたら、かっこよく見られるかしら?」ということにとらわれていた時代には、本当に自分らしいクローゼットとは言えなかったでしょう。
私にとって、クローゼットは人生そのもの。
数々の引き出しの中には、これまでの人生で経験した悲喜こもごもや、私の分身とも言える大切な服がしまってあります。理想のクローゼットにたどり着いた今、誰かに聞かれたらこう答えます。
「私のクローゼットには、好きな服しか入ってないの」って。