読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

 

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

【今回の相談】ゴミを出し忘れて、家にゴミがたまってしまう…

ゴミの日にゴミを出し忘れて、家にゴミがたまってしまいます。(PN.ともきんすさん)

【作者さんの回答】そんな場所で、かつてのわたしたちは生きていた

男は荒れ果てた森に立ち尽くしていた。森の一部がすっかり禿げていて、焼け跡になっている。草木が燃え尽きて、まだ煙の匂いがするような気がする。

「ひどいな」

「ああ、落雷で燃え上がったんだ。見ろ、動物が焼け死んでいる」

仲間が指さしたさきには、森で暮らしていたであろう動物が無惨な姿で横たわっている。その光景に、男は思わずこう言った。

「おい、この動物はどうする?」

「どうするって、そのままにするだけだよ」

ふしぎそうな顔で男を見る。

「いや、このままでいいのかなって思って」

「なにを言っているんだ? 放っておけば、土に還る」

言われてみれば、そうだった。動物は朽ちてやがて土へと還る。それが繰り返される。

「なぁ、いいものが見たいか」

「いいものって?」

「ちょっとついてこい」

男に背を向けて歩き出す。連れてこられたのは、切り立った崖の下だった。そして、そこに大きな穴があいている。洞穴だ。男が追う背中は穴のなかへと入っていく。

「これだ」

仲間に連れられて入った洞穴には…

指さされた壁を見て、男は驚いた。そこには牛のような生きものが描かれている。壁一面にさまざまな動物のすがたが刻まれていた。

「すごいな。どうやって描いたんだ、これは?」

「こうやって尖った石を使って、壁を削るんだ。そうすると、それが線になって絵が描けるんだ」

そう言って、足もとにあった石を拾い上げると壁を切りつけた。すると、土が削り落ちて、線ができあがる。狩りをする人間を描き足していった。

「すごいな、お前にこんな秘密があったなんて」

「ああ、誰にも言うんじゃないぞ」

絵を描き終わると、使っていた石を足もとに捨てた。

「お、おい、この石はどうするんだ」

「どうするって、なにを言っているんだ?」

「片づけないのか」

「石なんて、そこらへんに転がってるだろ」

そう言われてあたりを見ると、たしかにそこら中に石が転がっていた。さっき使っていた石も、もはやどれかわからない。

男が洞窟から出ようとすると、ぽつぽつと水滴が身体に当たるのを感じた。ふと見上げると、空を雲が覆っている。雨だ。このままこの洞窟で過ごそう。男はそう思った。気温が下がり、寒気を覚える。こんなときに身体を暖めるものがあればいいのに。そう、森を燃やした火のようなものが──。

「なにを考えているんだ?」

仲間の声にはっと我に返る。

「いいや、なにも」

男は首を横に振った。

雨を降らす雲はどこまでも流れていく。どこに流れても、その下には土や植物がある。そして、海も。建物はひとつもない。

そんな場所で、かつてのわたしたちはただ生きていた。

【編集部より】

古代の生活に戻れば、ゴミという概念もなくなるということでしょうか?

たしかにそうかもしれませんが、タイムマシンでも発明されない限りそんなことはできません。

ゴミ出しの日はスマホにリマインドが送られるようにするなどの工夫をすると、忘れることも減るかもしれません。

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。