年間支出が全国平均より「3割」も高い都市は…

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 今や生活必需品となった携帯電話。老若男女問わず、スマホで電話やメール、SNSを使い、コミュニケーションから買い物までを済ませている。

 “インフラ”となり、固定費と化した携帯電話通信費は家計にのしかかる。いかに値段を抑えるか躍起になっている人も多いだろう。

 かねて、日本の携帯料金は高いと言われてきたが、現在の状況に至るまでは40年ほどの歴史がある。以下、ざっと振り返っておこう。

【グラフで見る】「携帯電話通信料」支出ランキング ほか

3社によって市場が固定化

 1985年の日本電信電話公社の民営化と、それに伴って施行されたNTT法により、電話事業へ民間企業の参入が可能になった。これにより、市場での競争が促され、結果的にau、ソフトバンク、ドコモの3強が生き残った。しかし、3社によって市場が固定化し、料金が高止まりしていたのである。

年間支出が全国平均より「3割」も高い都市は…

 この拮抗を崩したのが、2020年に誕生した菅義偉政権だ。「携帯料金は4割程度下げる余地がある」と発言した菅前首相は、各社に価格の引き下げプレッシャーをかけ、そして楽天モバイルの新規参入を促した。カンフル剤によって価格引き下げを断行したのだ。これによって、携帯キャリア各社は2000円台の新プラン(月20GBなど条件あり)や格安ブランドなどを開始し、大幅に携帯料金が引き下げられたのである。

 実際、総務省の電気通信サービスに係る内外価格差調査(令和3年度)を見れば、その効果は抜群だったと言えよう。

 世界主要6都市(東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウル)のなかで、東京の月額料金は8175円(2019年度、月20GBなどの条件)でトップだったが、2020年度は2973円、2021年度は2972円と大幅に減少。ちなみに、2021年度、最も高いのはデュッセルドルフの7929円で、ニューヨークが7480円と続いている。

 一連の携帯料金の値下げは菅政権の大きな成果であり、現在の物価高を鑑みれば、この政策がなければ国民生活はさらに圧迫されていただろう。賛否あった菅政権だが、筆者は携帯料金の値下げこそ、最大の功績であり、もっと評価されてもいいと思っている。
 
 しかし、この値下げの恩恵は、全国ですべからく波及しているとは限らない。

全国平均より3割も高い都市が

 総務省が発表している2023年度家計調査結果によると、年間の携帯電話通信料の支出額が最も高いのは高知市で14万9435円。これは全国平均の129%、つまり3割も高い。高知市に続くのは、富山市13万4504円、松江市13万3392円だ。

 同調査は、2人以上の世帯を対象としているため、単純にひとりぶんの金額を出すことは難しいが、最下位の神戸市8万5185円と比較するとその歴然とした差がわかるだろう。

 高知市の2023年の年間総支出額は353万8471円であり、携帯料金はそのうち約4.2%を占めていることになる。一方の神戸市は、年間総支出額335万8572円に占める携帯料金の割合は約2.5%だ。

価格差のワケは…

 このような価格格差が発生する理由は、なぜなのか。スマホ・ケータイジャーナリストの石川温氏はこう指摘する。

「端的に言えば、地方では未だに高いプランに入っているということです。プランの切り替えができない高齢者に、販売側は『らくらくスマホ』をすすめたり、さらに大してスマホを使わないシニアにデータ使い放題プランを契約させたり、iPhoneなのに非対応のSDカードをセットに売ったりなど不必要なオプションをつけているのが現状です。携帯料金が大幅に引き下げられた今、そのような不要なオプションやプランを払う高齢者によって大手キャリアは支えられています」

 物価高が収まる兆しもなく、爆発的な賃上げも期待できない現在の日本。そのなかで生き延びるためには、いかに固定費を下げるかが必要だ。令和おじさんの置き土産をフルに活用してほしい。

渡辺広明(わたなべ・ひろあき)
消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。

デイリー新潮編集部