から好し、唐揚げ店なのに「そば」がある一体なぜ

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唐揚げがウリのお店なのに、「から好し」にそばがある理由とは?(筆者撮影)

「このメニュー、そこまで有名ではないけど自分は好きだなあ」「定番や看板ではないかもしれないけど、好きな人は結構多いと思うんだよな……」――外食チェーンに足を運ぶと、そう思ってしまうメニューが少なからずあります。店側はどんな思いで開発し、提供しているのでしょうか。

人気外食チェーン店のすごさを「いぶし銀メニュー」から見る連載。今回は、から揚げ専門店・から好しの「そば」を取り上げます。

飲食チェーンには「代名詞」「定番」というべきメニュー以外にも、知られざる企業努力・工夫を凝らされたものが数多く存在します。本連載では、そうした各チェーンで定番に隠れがちながら、根強い人気のある“いぶし銀”のようなメニューを紹介していきます。


「から揚げ専門店」でありながら、そばや親子丼も人気を博している「から好し」(筆者撮影)

ガストとの併設店では食べられないメニュー

今回のテーマは、から好しの「そば」です。から好しといえば、その名の通りから揚げが代名詞ですが、脇を固めるメニューもあなどれません。

すかいらーくホールディングスの久保木稔さん(マーケティング本部 SP開発グループ ディレクター)によると、から好しでお客さんが注文するメニュー割合はから揚げが7割ほどで断トツながら、残りの3割をそばと親子丼が占めており「この3種類が、から好しの3大メニューです」と話します。

最近は街中で見かけるガストがから好しを併設していることも増えたため、名前や看板自体を目にしたことのある人は多いはず。

ただ、併設店とはいえ食べられるのはから好しのから揚げのみにとどまり、そばや親子丼はから好しそのもののお店に行かないと食べられません。

実際に、併設店ではない、単独店舗へと足を運んでみました。

実食、から揚げ専門店の「そば」

自宅の近くにガストとから好しの併設店はあるものの、から好し単独店はない筆者。郊外を車で走ること20数分、から好しにたどり着きました。

いつも併設店の看板で店名・ロゴは見ているものの、から好しの店舗外観を見たことがなかったので、新鮮に感じます。


併設店ばかり見ていると新鮮に感じる、から好し単体の店舗(筆者撮影)

中に入ると、まずレジの近くのショーケースに入った食品サンプルに驚かされました。から揚げはテイクアウト需要も高い商品のため、パッと来て注文できるようにわかりやすい仕掛けだと感じます。

タッチパネルで商品を選び、10分弱ほど待つと、商品が到着。そばを見る前に、まずは定番中の定番である「から好し定食」から見ていきましょう。注文したのはから揚げ4個入りのもの。メニューには3個入りから6個入りまでがありました。


1個1個がかなり大きく食べ応えがありそうなから揚げ(筆者撮影)

レモンを絞り、まずは一口。から揚げ専門店というだけあって、衣はカリッと、肉汁がしっかりとお手本通りのから揚げです。

衣はクリスピーな軽い感じというよりは、そのものにしっかり存在感があり、かつ肉と程よく一体化しています。肉の味付けは濃すぎず薄すぎず、飽きずに食べ続けられる仕上がりです。

から揚げ1つが大きくご飯が進む味付けのため、一口かじってはご飯、さらに一口かじってはご飯……と、いくらご飯があっても足りないほど。小皿で添えられている胡麻にんにくダレを付けると、よりご飯が進む凶暴な味わいになります。

さて、から揚げはここまでにしておき、そばへと話を移しましょう。注文したのは「もり蕎麦」。シンプルに蕎麦とつゆ、そこにわさびとネギが別皿で添えられています。


から好しの「もり蕎麦」。シンプルで潔いですね(筆者撮影)

そばをひとつかみして、つゆを絡ませて一口。から揚げを食べている最中の脂っこい口の中が一気に洗われるかのような、さっぱりとした空気で満たされるのを感じます。

最初は「から揚げにそば?」と若干の違和感を抱いていましたが、これは結構な好相性かもしれません。


そこそこのボリュームがあるそば(筆者撮影)

そもそも、そばは天ぷらと食べることも多いメニューです。から揚げと天ぷらでは同じ揚げ物といえど違いはありますが、広く揚げ物と見れば同じ仲間。そう考えると、特に違和感のない組み合わせかもしれません。

から揚げに対するご飯は、から揚げの余韻を楽しみつつ、それを残して味わう組み合わせですが、から揚げに対するそばは、さっぱり感でご飯以上にから揚げを飽きずに食べ続けられるかもしれない、そんな可能性を感じました。

ここであらためて、から好しの紹介です。すかいらーくホールディングスが展開しているから好しは、2017年に誕生。2023年12月末時点で店舗数は67を数えます。

から好しが誕生したきっかけの一つが、軽減税率制度でした。2019年に消費税が10%へと引き上げられるとともに、軽減税率制度が開始。それに先立ち、イートインとは違って軽減税率の対象となるテイクアウトに着目したそうです。

また、当時はアメリカで「ファストカジュアル」と呼ばれる、専門店の味を気軽に楽しめるような業態に人気が集まっていました。

軽減税率と合わせて、日本でもこうした業態が人気になるのではないかと考え、これまでファミリーレストランで培ってきたノウハウやスケールメリットを生かせる「から揚げ」に目をつけました。

もともとガストなどでもから揚げは提供していましたが、から好しの立ち上げに当たって“聖地”ともいえる、大分県中津市での現地調査を実施。そこで、特にから揚げで重要な要素として「漬け込み」と「粉付け」の2つを発見したそうです。

そのため、から好しのから揚げでは漬け込みと粉付けに特にこだわっているといいます。漬け込みでは、にんにくとしょうがを使わずしょうゆベースにすることで、毎日食べても胃もたれせず、またランチタイムでも気軽に食べられるようにしました。

漬け込みをした肉は、冷凍せずに店舗へ配送し、各店舗で粉付けを行っています。ポイントは、粉を付けたあとに少し肉を寝かせること。寝かせることで粉と肉がなじみ「外カリ中ジュワ」の理想的なから揚げに仕上がるそうです。

こうして工夫を凝らしたから揚げを軸に、から好しはコロナ禍のテイクアウト需要にマッチ。2020年度以降はガスト全店でから好しのから揚げを展開し、導入した店舗では未導入の店舗と比較して、売り上げが7%、中でもテイクアウトの売り上げは57%も向上したそうです。


ガストとの併設店で、コロナ禍の需要の受け皿となってきました(画像はすかいらーくホールディングスの2020年度通期決算資料をキャプチャ)

市場激化でメニューを拡充

ただ、から揚げは比較的参入障壁が低い業態であることから、市場の取り合いが激化。日本唐揚協会の発表によると、2012年には450店舗だったところ、年々増加を続けて2021年には3000店舗を突破、さらに2022年には4000店舗を突破するなど猛烈な勢いで増えてきました。

その中でから揚げ以外のメニューも拡充しようと開発したのが、今や3大メニューとなったそばであり、親子丼です。

このうちそばについては、もともとすかいらーくグループ内の藍屋や夢庵で提供していたことから「そばのニーズの高さには確信を持っていた」と久保木さん。

同じ麺類のうどんやラーメンと比較して、ロードサイドでそば店を見かけることが少なく、参入障壁がそこまで高くないと考えたのも、目をつけた理由の一つでした。

そうしてから好しのメニューラインアップに加わったそば。麺はそば粉と小麦粉の割合が3対7の石臼挽きそばを使っており、つゆは関東風とのこと。

冷たい麺で食べることを想定しており、丼メニューなどに加えて「もうちょっと食べたいというニーズ」(久保木さん)や、夏場にさっぱり食事したいニーズを狙っているそうです。

あくまでメインとなるメニューはから揚げ。そのため、あくまでシンプルかつオーソドックスなメニューという立ち位置です。ただ、2022年6月に発売した当初はもり蕎麦しかなかったところ、その後に開発した親子丼用の肉を使った「鶏つけ汁そば」や、季節に応じた限定メニューなどラインアップを拡充しています。

中でもユニークなのが、2023年1月に発売した「野菜増し盛りつけ汁そば(好し郎)」です。当初は期間限定メニューでしたが、同年3月13日に同じく期間限定メニューとして登場した「野菜あんかけ定食(好し次郎)」とともに、4月20日からグランドメニュー化。

まるで二郎系ラーメンのような見た目のメニューとして、SNSでも話題となりました(その後、好し次郎は同年9月28日に、好し郎は2024年2月22日にグランドメニューから廃止)。


どこかで見たことのある、インパクトある見た目とネーミングで話題になった「好し郎」と「好し次郎」(提供:すかいらーくホールディングス)/外部サイトでは写真をすべて見られない場合があります。本サイト(東洋経済オンライン)内でご覧ください

「イートインでは30〜50代男性のお客さまが多く、ボリュームとスタミナがたっぷりのメニューができないかと開発に至りました。その中で、やはりインパクトがあるのは野菜盛りではないかと考えてどんどんと野菜を盛り、から揚げを載せた結果、最終的なネーミングも思い付き、話題になりました」(久保木さん)

厳しい時代の中で、どう生き残るか

コロナ禍のテイクアウトブームもあり、かつ参入者が増えたことで激化したから揚げ業界でしたが、昨今は淘汰も進んでいます。帝国データバンクによると、2023年は11月までに、前年比で7倍規模となる22件の倒産が発生。年間では初めて10件を超えるなど、厳しい状況です。

この点は久保木さんも認識しており「支持いただいているから揚げとともに、そばと親子丼という看板メニューをいかに進化させられるか。この点に今後も注力していきます」と話します。

から揚げをメインにしつつ、差別化要素としてそばや親子丼を展開し、見事に育ててきたから好し。ガストとの併設店では、から揚げと定食しか食べられないのが惜しいばかりです。

今回新たに発見したから揚げとそばの相性の良さを多くの人に知ってもらうためにも、併設店ではない単独店舗が増えることを期待します。


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(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)