ヴィッセル神戸は敗れても「問題なし」 選手たちが選んだプレーモデルにこだわる
柏レイソル戦では無得点に終わった大迫勇也(ヴィッセル神戸)photo by J.LEAGUE/J.LEAGUE via Getty Image
――攻撃が大迫勇也の一辺倒になっていることが、今日の敗因のひとつでしょうか? 彼が潰された場合、新たな選択肢を探るのも......。
取材エリアでのひとりの記者の質問に対し、ヴィッセル神戸のDF酒井高徳は皮肉混じりに答えている。
「メディアの人たちはそうなるんでしょうけど......自分たちにとっては、ここで新しい取り組みをするよりも、継続と追求が必要で、(負けたが)チャンスを作る、チャンスが多かった、というのが大事だと思っています。相手も『神戸のサッカーをさせない』と対策してきているなか、やるって決めていたことがやれていたか。はたから見たら関係ないと思えるかもしれないですが、"声かけ"のところとか、そういうのが勝負では大切になってくると思います」
酒井の言葉は確信に満ちていた。たとえ間違っていたとしても、その選択を正解にする。それだけの力強さがあった――。
3月2日、神戸。昨シーズンのJ1リーグ王者、ヴィッセル神戸はホームでの開幕戦に柏レイソルを迎えたが、0−1と敗れている。
神戸は昨季、ハイプレスとロングボールを駆使し、昨年MVPの大迫を軸に、敵を次々とノックアウトしてきた。「戦術・大迫」と言えるほど、高い強度。彼が作ったスペースを味方が使い、波状攻撃を生み出すことで、相手が対応する余裕を与えないのが持ち味だ。だが......。
「相手が研究し、対策をしてきていた」
試合後、神戸の選手が口をそろえたように、勝負を左右したカギははっきりしている。
「相手はセンターバックから長いボールを斜めに入れてくることが多く、前線のパワーに対しては、準備してきました。大迫がストロングポイントになっているので、たとえひとつ目で負けても、セカンドでカバーに行けるようにトレーニングから意識して」(柏/井原正巳監督)
「去年から負けてない相手だけに、いいイメージで勝つことしか考えていませんでした。(ロングボールを狙ってくるので)前からプレッシャーにいって、そこで制限をかけて、それが自分たちの戦いにつながったのかなと」(柏/FW細谷真大)
【終盤は押し込んでパワープレーに】
柏にとっては、講じた策が的中した形と言えるだろう。もっとも、神戸陣営も十分に勝つ算段はできていたという。
「前半から対応はされていましたが、ボディブローのように効いてくるだろうな、と思っていました」
そう語ったのは酒井だ。
「前半(の出来)はそれほど問題視していなくて、後半になったら相手が疲れてチャンスが増えてくるだろうな、と思っていました。実際、作ったチャンスは少なくなかったですし、"やり方が問題ではなかった"と思っています」
後半に入ると、神戸は交代カードを切るたび、優位に立った。右サイドで酒井が張り出し、交代出場の武藤嘉紀が危険なスペースに飛び込み、山口蛍がセカンドを狙う。力の差を見せつけつつあった。しかし、そこでスキが生じる。
後半38分、敵のロングボールに対し、神戸の選手はふわっとヘディングで競りにいったが、相手と交錯して触れない。また、もうひとりは左サイドでラインを出そうなボールを追ったが、柏の選手が執念で残したプレーに抗えなかった。そして右からのクロスに、木下康介にフリーで走り込まれてしまい、決勝点を叩き込まれた。
「どっちに転ぶかの勝負っていうところですね」
酒井はそう振り返ったが、歴戦の選手らしかった。
「たとえばボールを跳ねさせるかどうか、とか、ひとり行ったら2人、3人が連動しているか、とか。(ラインからボールを)出さない、追いかける、寄せるという最後の1メートル(の差で)で、(相手に)少ないチャンスで決められたと思います。自分たちに慢心はないけど、たとえば相手のセンターフォワードはすごい勢いでブロックに来ていました。自分たちが先手を取るには、"ルーズボールでいいか"とかではなくて、当たり前にやってきたことを当たり前にやることで......」
最後の10分、神戸はたて続けに決定機を作っていた。大迫、武藤、宮代大聖、ジュアン・パトリキ、大迫。少なくとも4回、5回とゴールに迫った。押し込んでのパワープレーは、Jリーグでも出色だ。
もし早い時間で同点に追いついていたら、その勢いを駆って逆転まで持ち込めたのではないか。神戸は不調だったわけでも、スタイルで限界を露呈したわけでもない。これぞ神戸、という戦い方をして、勝ったか、負けたか、の差しかないだろう。
昨シーズン、神戸は大迫など有力選手のパワーを生かす戦いを選択し、アンドレス・イニエスタを中心に押し進めていた「バルサ化」と完全に決別した。ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督時代、現在の主力選手たちが率先して選び取ったプレーモデルである。今さら、"もう少しうしろからパスをつなげて"という後戻りはできない。何より、彼らはそうやって勝ち点を積み重ね、Jリーグ王者になったのだ。
ただし、相手は手ぐすねを引いて待っている。次戦は3月9日、神戸は敵地でFC東京と戦う。