ヤマトは国交省から協力会社に対する違反につながる行為が多数あったと勧告を受けた。組織風土改革も経営課題になりそうだ(撮影:今井康一)

宅配便の巨人が、成長軌道に戻れずもがいている。ヤマトホールディングスは2月5日、2024年3月期の通期業績予想を下方修正した。営業収益は前期比2%減の1兆7650億円、営業利益は同33%減の400億円となる見通しだ。これで3期連続の営業減益となる。

前回予想からは営業収益で200億円、営業利益は250億円を引き下げた。ヤマトは2023年11月に発表した中間決算(4〜9月期)でもそれぞれ350億円、150億円の下方修正をしたばかり。わずか3カ月後に再度見直すこととなった「誤算」はどこにあったのか。

盛り上がらなかった年末需要

今回は最盛期に宅配需要が落ち込んだことが大きな要因だ。出足となる2023年10月の数量は前年を上回った。総務省の基準見直しに伴うふるさと納税の駆け込み需要が続き、ECのセールなども貢献した。

ただ11月初旬に入ると、10月の反動減に加えてECのセール前の買い控えが発生。後半にかけて盛り上がったが、12月は再びセール後の反動減の影響と、年末商戦の不振が重なった。10〜12月の宅配便の個数は5億4620万個で、前年実績から1.1%減で着地。コト消費へ回帰したことや、あらゆる商品の値上げの影響があったようだ。


ヤマトは自社と協力会社の戦力で、宅配需要の増加に備えていた。しかし荷物量が想定を下回ったため、配送キャパシティが余剰な状態となり、結果的にコスト増となってしまった。

法人部門ではワクチン関連案件の減少や、国際輸送の運賃下落が影響した。主に法人顧客との交渉による単価上昇の効果や経費縮小、人件費の圧縮などプラス面もあったが、2023年10〜12月期の営業利益は380億円と、前年同期比103億円の減益に終わった。

2024年1〜3月期も荷物量の回復を見込むのは難しい。一方で委託費などの単価が上昇し、営業費用は想定を上回る見通しのため、ヤマトは再度、通期予想の下方修正に至った。

栗栖利蔵副社長は会見で「決算は満足のいくものではない。物量が落ちている状況でも営業力を発揮して、収益を高めることができる部分もあったのではないか」と振り返りつつ、「キャパシティを適正化する取り組み、業務量の下振れリスクへの対応をしっかりしていかなければならない」と今後の課題を語った。

国交省からの「勧告」

物量減という厳しい環境に加えて、足元は業界大手としての深刻な問題を抱えている。1月26日、国土交通省ヤマト運輸など2社に対し、貨物自動車運送事業法に基づく「勧告」を初めて行った。

問題視されたのは、協力会社に対して長時間の荷待ちや契約にない業務をさせたこと、運賃を不当に据え置いたこと、過積載の運行の指示、そのほか無理な運行依頼など複数にわたる。法令違反につながる行為が多数あったとして勧告し、公表するに至った。国交省は早急の是正と改善計画の提出を指示している。

国交省は2022年11月にもヤマトに対し、下請け会社に過積載の運行の指示をしたとして、是正するよう「要請」を行っていた。しかし、その後も改善はなされず多数の違反につながる行為が確認された。そこで今回、勧告と社名公表に至ったという経緯だ。

ヤマトも運送を担う会社であり、顧客である荷主に厳しい条件を突きつけられたら苦しいことはわかっているはずだ。宅配便のネットワークを維持するには、配達や長距離輸送を担う協力会社の存在なくして成り立たない。それなのにパワハラまがいの取引を強いていたことは、業界大手として実に残念なことだ。

経営課題は山積み

栗栖副社長は国交省の勧告について「パートナーの皆様や関係者にお詫びを申し上げる。範囲としては全国的という話を聞いている。真摯に受け止めて対策を講じていく。ただやっていくのではなく、仕組み化してモニタリングもできるようにしなければならない」と再発防止に向けた考えを説明した。

ヤマトは協力会社と相談し、コスト高が進む中で単価の上乗せや経営支援などを進めてきたが、条件の見直しだけで十分だったのか。協力会社に対して抜本的な関係や契約の見直し、さらに企業風土の改革も必須となりそうだ。

荷物量の回復が鈍る厳しい事業環境の中、法人顧客との運賃交渉や配送網などの現場改革、日本郵便への一部業務移管など、経営課題は山積している。そこに企業体質の改善という問題も、新たに加わった。業界の盟主としての姿勢が問われている。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)