「家賃4100円の畳が腐ってる長屋で、母ちゃんは“死にたい”って泣いてるような暮らしで育ったけど、くらいガキじゃなかった」日本のゲットー地区、西成のラッパーSHINGO★西成が児童施設にクリスマスケーキを届けるワケ

日雇い労働者の街として知られる大阪市西成区の釜ケ崎(あいりん地域)。大阪、いや日本でも最もディープな地域と呼ばれる、ここ西成で生まれ育ち、その地名を自身のアーティスト名にするラッパー、SHINGO★西成。クリスマスが近づくこの時期、西成地区の児童施設などにクリスマスケーキを届ける活動を続けて今年で16年目になる。物価上昇や長引く不況で、ともすると心まで冷たく貧しい時代になりつつあるいま、SHINGO★西成の“分け分け精神”について聞いた。

「キレイゴトちゃうねん。“売名行為でしょ”って言われたこともあるけど」

ラッパー・SHINGO★西成

2007年に活動開始した、西成の保育園や児童施設にクリスマスケーキを配り歩く活動。最初はたった一人で始めた。そこから2014年に出資メンバーが集って「SHINGO★西成と100人のサンタ」というプロジェクトに生まれ変わり、一人1000円の参加費でサンタを募り西成地区にある4つの施設にホールケーキを届けるようになる。

ケーキを届ける活動を始めたきっかけは同年代のラッパー、TERRY THE AKI-06の死だった。 写真提供/Shingo★西成

「喧嘩するくらい仲がよかったTERRY(ラッパーのTERRY THE AKI-06)が2007年8月に亡くなって。昨日まで一緒にいた仲間とある日突然、もう二度と会えなくなる経験が初めてだったんで、その寂しさ、喪失感を何か行動で埋めたかった。人がいなくなった寂しさを、人から喜ばれる行動に変えたかった。

それでちょうど、俺自身もお世話になった西成の児童施設『こどもの里』で出会った女の子が“丸いホールケーキを切ったことがない”って言ってたのを聞いて、俺もひとりっ子でガキのころ、ワンホールのケーキに憧れてたから、誰の子どもとか関係なく、目の前の子どもを笑顔にしたい思いから、この活動を始めました」

初めた当初は自分のギャラから持ち出しでやっていた

「当時の俺のギャラなんて1回のライブで5000円とかで、出ても2万円とか。それで5万円出してケーキ買うのはとても大きかったですよ。キレイゴトちゃうねん。人から“それ、売名行為でしょ”って言われたこともあるけど、そんなん考えたこともない。俺が通った保育園にケーキ届けるの、俺がやらなきゃ誰がやるって気持ちだった」

ときには前日のライブの打ち上げが終わってから、その足でケーキを届けたこともある。

「ライブでお客さんを最高潮にまで盛り上げて、現実に戻ってこの活動を続けてきた。それも情熱ひとつです。『いまできるコトを、いまできるヒトが』の精神で地元でやってる」

畳の腐った家賃4100円の長屋で憧れたクリスマスケーキ

最初はひとりで考えてそばにいてくれた仲間と始めた活動も、地元のいつも歩く道にある目の前の保育園にケーキを届ける姿を見た地元企業の社長らが「ええやん!」と寄付をしてくれるようになり、2014年からは支援活動も行う細見篤史氏や地元の街づくり活動を長年積極的に継続されているニチダイが活動に加わり、現在のプロジェクトへと発展した。

美しい建造物だ

「今のような募金のスタイルにしたのは、俺や寄付してくれる社長らと同じ意見を持つみんなにも参加してもらいたかったから。俺は友達の死をきっかけに思い立った行動やったけど、ケーキ届けに行って子供たちの騒がしい声や喜ぶ顔見たら、元気もらったし。寂しい気持ちをバネにしたらうれしい気持ちになって返ってきた。この感情の循環が、生き甲斐やなあと思うんです」

「西成という街でちっちゃい子もおばちゃんもおっちゃんもニコニコしてほしいから」とSHINGOは言う。

「ガキのころからワケありの人が入って来ても排除されないこの街で育って、食べ物を分け合ったり困ってる人が助け合ったりするのを見てきたんです。西成で育って一番学んだのは“分け分け精神”。それをみんなにも知ってほしくて、それに共感してくれる人だけ募金に参加してくれたらって思ってる。“俺もできる、おまえもできる、俺らにもできる”というのを伝えていきたくて」

子どもたちにもらったSHINGOの似顔絵

ワンホールケーキに憧れたSHINGO自身の幼少期のクリスマスケーキの思い出も聞いた。

「家賃4100円の畳が腐ってる長屋で、母ちゃんは毎日のように暗い部屋で“死にたい”って泣いてるような暮らしでした。だからってただくらいガキだったわけじゃなく、ないモノをほしがるんじゃなくて、あるモノをどう使って楽しむかを考えてた。

晩ごはんは隣のおばさんとおかずを分け合って毎日のようにみんなで食べてたから大家族みたいだった。クリスマスケーキも“ウチ買うたから真悟くんも食べや”って一緒に食べてたから、ひとり息子のクリスマスも寂しいことはなかったです」

「一番は挨拶。挨拶は人と人とを繋ぐ接着剤」

SHINGO自身にも小学3年生になる息子がいる。一番大事にしている子育て論とは?

「子供相手だからって上からも下からもなく、等身大で自然体でぶつかる。俺も等身大、自然体というのを前提に冷静に、やっぱ、そこは今言うべきやな!ってところは言うし。一番は挨拶ですね。挨拶は人と人とを繋ぐ接着剤。

おはよーって挨拶はファの音程で、そういう日々の声掛け的な挨拶以外の、もっと深い意味での挨拶、人と話をしたり付き合うときの“私はあなたの敵じゃないですよ”という表明の仕方、そういう価値観は、息子も小学3年生になってきたから、ところどころで話してます。挨拶の積み重ねが信頼の積み重ねなんやでって」

「自分の子ども時代と今の子どもを見て何か変化を感じるか」と問うと、意外な言葉が返ってきた。

「子どもの本質は何ら変わってない。変わらなきゃいけないのは大人やないですか。近所の公園で、スマホ片手に画面見ながら自分の子どもに“そっち行ったら危ないよ”って言ってるお父さん、お母さん、大っ嫌いですわ。正直、寂しいですねと思います。

片手間で子どもに危ないって言って達成感を感じてる親も、それが当たり前と思って何も感じない子どもも、ほんまもったいない。一度、スマホを手放して子ども見てみぃと思います。親が子どもをちゃんと見たら、世の中で問題視されてるようなOD(オーバードーズ)して緊急搬送される子も減るんやないですか」

ガキがガキらしくいられる居場所を

この12月にも東京、目黒区の小学校で児童2名がODで緊急搬送された。子供のODは全国的にも深刻な問題だ。東京では“トー横”がその震源地とされてきたが、大阪・道頓堀のグリコサインの下の“グリ下”でも子どもがたむろする現象が起きている。SHINGOにグリ下キッズについても聞いてみた。

「グリ下には近所にクラブがあって、もう7、8年前から見るからに自暴自棄の子どもたちがぎょーさんいてました。でも、そこに溜まってたら何が悪いの? 繁華街でみんなの目がまだあるからいいんとちゃいますか。あそこから発信してるんでしょう、何か。そこ塞いだって解決にはならんでしょう。それとは別にOD問題は根深い。

子どもらと時間をかけて信頼を築き、信じれる大人、頼れる大人がいると気づいてもらうことやないですか。今まさに、次の新しいアルバム作ってて。曲名で『居場所』っていうのも作ってるんですけど。みんな居場所を探してるんじゃないですか? 見えない居場所よりも見える居場所でいいんじゃないですか」

12月20日、ケーキを保育園に配り終えたSHINGO氏からメールが届いた。

〈保育園はいつもこどもたちが自由で苦戦しますが

今年はこどもたちを集合させてまとめるのに声潰れました!

ガキのパワー! 恐るべし!〉

誰の子でもなく目の前の子どもの笑顔を。ガキがガキらしくいられる居場所作りを。SHINGO★西成からのクリスマスケーキを受け取った子どもたちの笑顔は、それは元気に溢れているのだろう。SHINGOの新曲「居場所」のリリースも楽しみだ。

取材・文/河合桃子 撮影/高木陽春