<高校バスケ>大きな挫折を味わった福岡第一のエース・崎濱秀斗。窮地を救った大先輩・河村勇輝との“電話”
12⽉23⽇(⼟)から29⽇(⾦)にかけて行われる「SoftBank ウインターカップ2023」(令和5年度 第76回全国⾼等学校バスケットボール選⼿権⼤会)。
高校バスケ冬の風物詩にして、日本一を決める最高峰の大会。昨年決勝で敗れリベンジに燃えるのが、福岡第一高等学校(福岡)だ。
“バスケ王国”福岡の超強豪にして、昨年の準優勝校。今年も当然、優勝候補の一角に挙げられているが、チームを率いるエースはこの1年、度重なる挫折を味わってきた。
◆何もできなかった昨年のウインターカップ決勝
福岡第一の3年生エース、崎濱秀斗。
同校卒業生の先輩、日本代表・河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)も「今の高校生の中でもトップ級のポイントガードだと思う。彼がいるのといないのでまったくチームは違う」と認めるこの崎濱の最大の魅力は、その名前の通り“シュート”。
176cmとバスケ選手としては決して大きくないが、強靭なフィジカルで中に切り込む高校屈指のスコアラーだ。
昨年のインターハイではそのシュート力を一躍知らしめ、決勝戦では2点ビハインドの残り5秒に逆転のスリーポイント。勝負強さで2年生ながらチームを日本一に導いた。
そして迎えた昨年のウインターカップ決勝。それまで全国の強豪を相手に二桁得点の山を築いてきた崎濱だったが、決勝ではまったくといっていいほどシュートが入らず僅か5得点。何もできず、優勝を逃してしまった。
「決勝戦だし、3年生最後の試合というのがあって、積極的になれなくて…。今日はダメだな」。試合をこう振り返った崎濱は、かつてない挫折を味わい、チームメイトの中でも最後まで涙が止まらなかった。
◆とつぜんの怪我。ウインターカップは絶望的に…
今年、最上級生となった崎濱。山口瑛司(3年)とのダブルキャプテンのひとりとして、115人という大所帯のバスケ部をまとめることになった。
「やっぱりウインターカップでの負け方は一番悔しい負けだったので、今年こそは優勝しよう」。そんな強い決意でチームをまとめていた崎濱に、さらなる試練がおそいかかる。
9月、ウインターカップまで3カ月に迫り、「U18日清食品トップリーグ2023」を戦っていた福岡第一。崎濱はその試合中、とつぜん左足を痛めてしまう。立つことすらままならず、仲間に抱えられてコートをあとにした。
診断の結果は、左足の骨折。全治は3カ月とみられ、リベンジを誓ったウインターカップの舞台に立つのは絶望的となってしまった。
崎濱:「片足が使えない状態だったので、トイレに行くにしろお風呂に行くにしろ不便な生活。バスケ以前に、歩くのがきつかったので、動きたくないなっていうのが一番ありました」
手術をすることになり、崎濱自身、「(ウインターカップは)正直無理だろう」と考えたという。
◆奮起した相棒、そして弟
この時期、崎濱が「いちばん申し訳なかった」と話すのが、ともにダブルキャプテンを務める山口瑛司。山口とは中学から同じチームで、「高校で日本一になろう」と同じ福岡第一に入学、寮の部屋も3年間ずっと一緒の相棒だ。
崎濱はウインターカップまでの復帰に一縷の望みをかけながら、山口にこんなメッセージを送った。
「えいし、頼んだぞ ごめんな迷惑かけて きついと思うけど頑張って 俺もウインター間に合うように頑張る」
そして山口は、崎濱の怪我を機に考えをあらためたという。
山口:「これまで、なんも考えずに秀斗に頼っていたみたいな意識になっていて。試合中とかきついときに秀斗にパス出していたので。自分が秀斗のぶんもやるしかないという気持ちになっています。
中学から一緒にやってきて、やっぱ最後の大会も一緒にやりたいって思ってるし、それを待ってるんですけど、やっぱいなかったら自分が秀斗のぶんもやるしかない。秀斗ができてたことを自分ができるようになって、秀斗いなくても第一は強いっていうのを実現したいなと思います」
それまで崎濱に頼りっぱなしだった山口は、エースを欠いたことであらためて部員115人の大黒柱としての自覚が芽生え、練習では大声でチームを引っ張るように。
さらに試合でも変化がみられ、それまでアシストに徹してきた山口が積極的にシュートを狙うようになり、チームの新たな得点源として急速に成長した。
また、崎濱の怪我を機にさらに奮起した1年生選手もいる。崎濱の弟である崎濱秀寿だ。
兄・秀斗と一緒に戦いたいという思いで福岡第一に入った弟・秀寿。3年生と1年生、ウインターカップを同じチームで戦えるのは今年が最初で最後だ。
崎濱の怪我には当然ショックを受けたというが、「(兄が)あういう大怪我をして、本当にやってやるぞっていう気持ちがさらに強くなりました」と奮起。「お兄ちゃんがいないってのは得点力がやっぱ下がると思うので、ディフェンスも思いきりやりつつ、得点力をもっと上げたいなって思います」と自らに課して練習に取り組むようになった。
ダブルキャプテンの相棒、弟、そしてチームメイトたちのため、なんとしてもウインターカップまでに怪我のリハビリから復帰したいと思った崎濱は、藁をもつかむ思いで大先輩に連絡をする。
◆先輩・河村勇輝のアドバイス
その大先輩は、この夏のワールドカップでの大活躍も記憶に新しい河村勇輝。2019年にウインターカップ2連覇を果たしている、崎濱にとって憧れの存在だ。
崎濱:「河村勇輝さんと少し連絡をさせてもらって。河村選手もワールドカップ前に怪我してるっていうの聞いて、1カ月くらいの間でコートに戻ってきて。ニュージーランド代表との強化試合で別人かのように進化して帰ってきてたので、その1カ月の間どういったリハビリだったりどういった時間を過ごしてたのかなっていうのを聞かせてもらいました」
河村は、母校の後輩からの切実な連絡に快く応え、電話でじっくりアドバイスをおくったという。
河村:「リハビリをする時間じゃなくて、他の睡眠だったり食生活とか、当たり前のことをどれだけ自分に課してやれるか。後悔しないための律し方というか、そういったことが大切なんじゃないかなとお伝えしました」
河村からこのアドバイスをもらう前は、動くことができないからと「ずっとベッドでだらだらしていた」という崎濱だが、アドバイスの後は自分に今なにができるかを考えるようになった。
崎濱:「朝は絶対に5時半に起きてシューティングとかトレーニングして、昼から近くの体育館に行ってリハビリをして。河村選手からアドバイスをもらう前は動くこともできなかった。あのアドバイスなしで今の自分はないと思うので、感謝しかないです。
世界でも活躍してる選手が自分にアドバイスをくださったので、言ってること間違いないだろうと思って、それを信じて思いっきり全て変えてやりました」
先輩の助言で心身ともに生まれ変わった崎濱は、ここから見違えるほどの回復を果たすこととなる。
◆「最後は115人全員笑顔で終われるように」
12月5日。福岡第一の体育館には、崎濱の姿があった。
「ウインターカップの本番間に合わないかと思いましたよ」と問われると、崎濱は力強く「大丈夫です!」と答える。
崎濱:「正直、怪我したときは復帰するのは厳しいだろうと思ったんですけど、みんなが頑張ってる姿を見て自分もなるべく早くチームに戻ろうっていう意識でリハビリとかトレーニングできて、最終的に早く完治してこうやって復帰できたので嬉しいです」
この日崎濱は、2カ月半ぶりに本格的な実践練習に合流したが、懸命なリハビリとトレーニングにより以前より動きにはキレが増していた。
久しぶりに崎濱のプレーを見た山口は、「(スピードが)速くなって帰ってきたから、自分も速く動いて合わせないといけない。やばいっすね。マジ怪物です!」と驚く。
弟・秀寿も、「練習の雰囲気が、お兄ちゃんがいるときといないときで本当に違う。一個一個のメニューのスピードもめちゃくちゃ早くなりましたし、対人でもお兄ちゃんが帰ってきてめちゃくちゃハードになってますね」と話し、「またお兄ちゃんと敵として対戦できるのが、本当に毎回の練習の楽しみになってきます」と喜んでいた。
崎濱:「この2、3カ月の間、バスケットができなかった。自分のバスケ人生の中でもあまり経験したことのないことだったので、こうやって長い離脱の後またバスケできるのは嬉しいし、3年間やってきた仲間たちとまた最後バスケできるのも嬉しい。最後は115人全員笑顔で終われるように頑張りたいです。
帰ってきていちばん思ったのは、いろんな方々に支えられているということ。“感謝”っていう言葉をこれまで深く考えることはなかったんですけど、両親はじめチームメイト、大先輩である河村勇輝選手などのアドバイスもあって、こうやって支えられてきて今の自分もあるし、復帰できている。本当に感謝っていう言葉がこの2カ月にあたる言葉かなと思います」
度重なる挫折を乗り越え帰ってきたエースを擁する福岡第一は、リベンジに燃えるこの「SoftBank ウインターカップ2023」の舞台、初戦で八村塁の母校でもある強豪・仙台大学附属明成高等学校(宮城)と対戦する。
大会屈指の初戦好カード、そしてエース・崎濱の復活劇の行方から目が離せない。
(取材:青木美詠子)