三笘薫vs冨安健洋「最強の矛と盾」が対決したらどちらが勝つ? 鄭大世が考察
スポルティーバ編集部では、12月17日のプレミアリーグ、アーセナルvsブライトンで、三笘薫と冨安健洋がマッチアップしたらどうなるのかという解説記事を準備していた。残念ながら冨安のケガにより対決は実現しなさそうだが、今の日本サッカーの最強の矛と盾が1対1の勝負をしたら? というテーマで、考察をしてみたい。お願いしたのは普段プレミアリーグ中継を解説している鄭大世氏。はたしてどちらが勝つと見たか?
今季の三笘薫選手は、序盤戦こそ昨季に続いて圧倒的なパフォーマンスを披露していて、得点やアシストという数字もついてきていました。ただ、半ばに入ってきて停滞気味であることは否めないですね。
三笘薫(左)と冨安健洋(右)が対決したらどうなるか。鄭大世氏が予想した photo by Getty Images
その背景にあるのは、ソリー・マーチやフリオ・エンシーソなど、攻撃的な主力の相次ぐケガだと思います。右サイドをやれる選手が立て続けに離脱したことで、相手の重心が三笘選手の左サイドへ傾きやすい傾向にあります。
そのおかげで右サイドではサイモン・アディングラという若手選手が活躍していて、三笘選手は潰れ役になっています。ただ、警戒されるのはそれだけ彼の力がプレミアリーグで認められていることなので、悪いことではないですよね。
そんななかでも第9節のマンチェスター・シティ戦では、カイル・ウォーカーをドリブルで振りきってゴールの起点となるクロスをあげました。あのシーンは爽快でしたね。昨季はウォーカーとの勝負に勝てなかったので、三笘選手の成長を感じられるシーンだったと思います。
今のブライトンは、三笘で突破できなければ厳しいという感じですが、これほど個の力で頼りにされる日本人選手なんて過去にいないですよね。あらためてプレミアリーグという世界最高峰の舞台で、主力としてだけでなく、チームのエースとして活躍することの凄みを感じます。
ただ、ここ最近は疲労やコンディションの低下は間違いなくあって、それはプレーからも見て取れます。それに加えてペルビス・エストゥピニャンやタリク・ランプティといったサイドバックの主力選手も負傷離脱によって、味方のサポートも得られない。
そんな状況で、ボールを持った瞬間に3人、4人に囲まれてしまえば、いくら三笘選手であっても無理です。それでも煌めくプレーはしているんですが、試合を通して影響力があるかといえばそうではないですね。
最近はゴールやアシストという数字もついてきていないので、かなり苦しんでいる状況だと思いますが、ケガ人が戻ってくればまたパフォーマンスは上がるはすです。
【冨安健洋は監督からの信頼がどんどん上がっていた】冨安健洋選手は、先日の日本代表戦の時に初めて会ったんですけど、めちゃくちゃかっこよかったですね。侍のように険しく精悍な表情で、アーセナルという競争の激しい欧州トップクラブにいる自負心をすごく感じ取りました。
僕らはアーセナルと契約しているだけで信じられないレベルですけど、彼自身からすれば昨季や今季の序盤戦は消化不良だったと思います。信頼はされているけれど、彼自身が望んでいるような出場時間は与えられていなかったと思うんですよ。
でも最近はついにベン・ホワイトやアレクサンドル・ジンチェンコのケガなどをきっかけに出場機会が増えることになってきましたよね。とくにここ数試合でミケル・アルテタ監督からの信頼はどんどん上がってきていたと思います。
以前までは、守備は相変わらずスライドは絶対にサボらないし、1対1の対人ではめっぽう強い。でも攻撃時にボールを高い位置で受けても出しどころがなくて迷っている感じがありました。それが最近は、立ち位置やパスの部分でも質が上がってきました。
攻撃のところで効果的なパスが出せて、結果までついてきたら左サイドバックは攻撃時に強みのあるジンチェンコでなくてもいいとなりますよね。ただ、これはシーズンのなかでも流れがあって、監督のなかで「今どの選手がどの選手よりも上」という序列は、ずっと入れ替わるんですよ。
昨季は絶対的なジンチェンコだったけれど、今季は冨安選手も併用しつつという起用になっています。そこはいろんな状況が巡り巡ってそうなっているわけで、そこに冨安選手はうまく乗っかっていると思います。こういうのは川の流れのようなものなので、逆らわずにうまく身を任せるのがいいと思います。
ただ、そう思っていた矢先に冨安選手が第14節のウルヴァーハンプトン戦で、ケガで離脱というニュースが入ってきました。本当に残念ですね。
【ふたりがマッチアップしたらどうなる?】第17節のアーセナル対ブライトンで冨安選手と三笘選手のマッチアップというのは、日本のサッカーファンのみんなが期待していたと思うし、僕もめちゃくちゃ楽しみにしていました。
昨季も、ブライトンのホームでアーセナルと対戦した時に、冨安選手が途中出場で入ってきてマッチアップはしましたが、時間はかなり限られたものでしたよね。あれでは時間が短すぎて本当の勝負はわからない。時間帯も終盤だったので展開がオープンになっていて、全体がだいぶ緩かったので、それでは見応えが落ちてしまいます。
仮にふたりがマッチアップして、三笘選手が前を向いて良い形で勝負できたとしたら、冨安選手をドリブルでぶち抜くと思います。
こうした条件が揃った時に1対1の勝負で三笘選手を抑えられるのは、マンチェスター・シティのウォーカーとマンチェスター・ユナイテッドのアーロン・ワン=ビサカのふたりだけだと思います。
だから逆に冨安選手にとって真価が問われるのが、このブライトン戦だと思っていました。彼の1対1の守備が、三笘選手を相手にした時にどうなのか見てみたかったです。
個人的には、三笘選手がボールを持った時に、冨安選手がスッと寄っていってカバーに入ろうとするウィリアム・サリバやマルティン・ウーデゴールなどに「俺が止めるから寄ってこなくていい」みたいな感じで、1対1を挑むみたいなシーンが見たかったですね。
【プレミアで当たり前に活躍。信じられない時代に】実際の試合ではブライトンのビルドアップに対して、アーセナルは前から積極的にプレスをかけにいくと思いますが、それに対してボールを回してなかなかうまく剥がせないのが、今のブライトンなんですよね。
とくにここ数試合は"カイセドロス"を感じています(※モイセス・カイセド/今季チェルシーへ移籍)。パスカル・グロスがアンカーの位置まで下がってようやくボールが回るという状態で、ビリー・ギルモアやカルロス・バラバは頑張っているけど苦戦しています。マフムド・ダフードは第12節のシェフィールド・ユナイテッド戦での一発退場で3試合出場停止中でした。
今の調子のブライトンでは、アーセナルのハイプレスをくぐり抜けて前進するのにかなり苦戦すると思います。そうなると三笘選手は後ろ向きでもらってボールを戻すことしかできない感じになり、良い形でもらうというのは難しくなるかもしれないですね。ギルモアが前を向けて、三笘選手にいいパスが出てくればチャンスはあると思います。
ふたりの日本人選手がプレミアリーグで当たり前のように試合に出て、マッチアップするかもしれないという話になるのは、改めて信じられない時代になりましたよね。
今季はお互いに先発で90分のなかでの勝負が見られると思ったんですが、それは次回以降の対戦の楽しみにしたいと思います。
鄭大世
チョン・テセ/1984年3月2日生まれ。愛知県名古屋市出身。朝鮮大学校から2006年に川崎フロンターレに入団し、FWとして活躍。2010年からはドイツへ渡り、ボーフム、ケルンでプレー。その後韓国の水原三星、清水エスパルス、アルビレックス新潟、FC町田ゼルビアで活躍し、2022年シーズンを最後に現役を引退した。北朝鮮代表として2010年南アフリカW杯に出場している。J1通算181試合出場65得点、J2通算130試合出場46得点。