先日のGIジャパンCを圧勝して有終の美を飾ったイクイノックスは、2歳秋時点でGII東京スポーツ杯2歳S(東京・芝1800m)を無傷の2連勝で制して、2年前の同じ時期の当ランキングでも断トツの1位の評価を得ていた。その評価どおり、3歳春のクラシックでも、GI皐月賞(中山・芝2000m)、GI日本ダービー(東京・芝2400m)と、いずれも2着という好成績を残した。

 翻(ひるがえ)って、昨年の当ランキングは大混戦。まさに"本命なき状態"にあった。そして実際、それを裏づけるかのように、今年のクラシックを勝った皐月賞馬のソールオリエンス、ダービー馬のタスティエーラ、菊花賞馬のドゥレッツァと、それぞれ2歳時にはランキング圏外。新馬、もしくは未勝利を勝っただけの1勝馬だった。

 はたして、今年はどうか。昨年同様、かなりの混戦状態と言える。

 それでも、将来有望な若駒が早くから次々にデビュー。来春のクラシックで"主役"となり得る存在が、すでにオープンや重賞レースで結果を出して脚光を浴びている。


京都2歳Sを制したシンエンペラー。photo by Eiichi Yamane/AFLO

 重賞戦線を見れば、"出世レース"である東スポ杯2歳S(11月18日)は、シュトラウス(牡2歳/父モーリス)が好位から抜け出して快勝。GIII京都2歳S(11月25日/京都・芝2000m)では、シンエンペラー(牡2歳/父シユーニ)が好メンバー相手に馬群を割って勝利した。

 マイル重賞では、GIIIサウジアラビアロイヤルC(10月7日/東京・芝1600m)をゴンバデカーブース(牡2歳/父ブリックスアンドモルタル)が勝って、GIIデイリー杯2歳S(11月11日/京都・芝1600m)はジャンタルマンタル(牡2歳/父パレスマリス)が最内から突き抜けた。

 これらの他、オープンや1勝クラスでも素質馬が躍動。ハイレベルな群雄割拠の様相となっている。ここから、2歳GIの朝日杯フューチュリティS(12月17日/阪神・芝1600m)、ホープフルS(12月28日/中山・芝2000m)を経て、どのような勢力図となっていくのか――。まずはその前に、現時点での2歳牡馬の「『Sportivaオリジナル番付(※)』を発表したい。
※『Sportivaオリジナル番付』とは、デイリー馬三郎の吉田順一記者、日刊スポーツの木南友輔記者、JRAのホームページでも重賞データ分析を寄稿する競馬評論家の伊吹雅也氏、フリーライターの土屋真光氏、Sportiva編集部競馬班の5者それぞれが、来春のクラシックを目指す2歳牡馬の、現時点における実力・能力を分析しランクづけ。さらに、そのランキングの1位を5点、2位を4点、3位を3点、4位を2点、5位を1点として、総合ポイントを集計したもの。


 ランキング上位は、やはり重賞勝ち馬となったが、驚くべきは1位、2位となった馬に、選者の誰ひとりとして1位の評価をしていないこと。結果、目下の混戦模様を表わすようなランキングとなった。

 1位は、京都2歳Sの覇者シンエンペラー。全兄が(2020年の)凱旋門賞馬のソットサスという超良血で、そうした血統背景に違わぬ結果を出していることが、選者全員からの好評価につながったのだろう。

吉田順一氏(デイリー馬三郎)
「京都2歳Sのパドックでは集中力が続かず、かなりハミをかんで暴れるシーンがあり、実戦では発馬が決まらずに苦しい立ち回り。まだ頭が上ずった走りで、口向きにも課題があって、反応にも物足りなさを感じました。

 それでいて、短い直線でライバルたちをまとめて蹴散らしてトップでゴール板を通過。その爆発力は世代トップクラスでしょう。

 月日の経過と鍛錬により、トモ腰がもう少し強化され、頭が上がりすぎることなくフォームが定まってくれば、パフォーマンスはまだまだ上がりそう。加えて、気性面の成長が追いついてくれば、クラシック戦線でも活躍できる素材。今後の伸びしろが楽しみです」

木南友輔氏(日刊スポーツ)
「凱旋門賞馬ソットサスの全弟。昨夏、フランスのマイルGIジャックルマロワ賞当日に行なわれたアルカナ社のセールで、矢作芳人調教師(栗東)が落札しました。矢作師は、バンデ、ユニコーンライオンといった欧州の血統馬を中距離で活躍させた実績があり、その点は大きな強みになると思います」

 2位に入ったのは、サウジアラビアロイヤルCを勝ったゴンバデカーブース。新種牡馬ブリックスアンドモルタルの初年度産駒で、同産駒として重賞勝ち馬第1号となった。

土屋真光氏(フリーライター)
「父ブリックスアンドモルタルは、脚の手術などで4歳時の1年をほぼ棒に振ったため、活躍が5歳時に集中していますが、もともと3歳のデビュー時に4連勝。早くから素質の片鱗を見せていました。

 とはいえ、2歳のこの時期から活躍馬が出ているのは、ちょっと意外でした。そういう意味では、今後のゴンバデカーブースのさらなる成長が期待できます。

 新馬戦で破った馬たちも続々と勝ち上がっており、レベルの高かった一戦を制したことは評価すべきでしょう。続くサウジアラビアロイヤルCで下した相手も強かったので、このまま突き進んでもおかしくありません」

本誌競馬班
「新馬戦を逃げきって勝ったあと、2戦目のサウジアラビアロイヤルCでは最後方からの差しきり勝ち。どんな競馬にも対応できそうで、2歳牝馬トップクラスのボンドガール、のちに東スポ杯2歳Sを勝ったシュトラウスをあっさり退けた走りは、素直に評価していいと思います」


 3位には、1勝クラスの葉牡丹賞(12月2日/中山・芝2000m)を勝ったトロヴァトーレ(牡2歳/父レイデオロ)がランクインした。こちらも新種牡馬のレイデオロ産駒で、無傷の2連勝中。2戦ともメンバー最速の上がりを繰り出しての完勝だった。

木南氏
「レイデオロ初年度産駒の大物候補。東スポ杯2歳S2着のシュバルツクーゲル、GIII札幌2歳S(9月2日/札幌・芝1800m)を勝ったセットアップなど、2歳世代も活躍馬が多い鹿戸雄一厩舎(美浦)ですが、この馬が一番、クラシックに近い雰囲気です。

 東京の新馬戦→葉牡丹賞だった父に対して、こちらは中山の新馬戦→葉牡丹賞という違いはありますが、ウィリアム・ビュイック騎手が絶賛したことに加え、近親に秋華賞馬のディアドラ、ダービー馬のロジユニヴァースなどがいる名牝ソニックレディの牝系という血統背景を考えても、来年が楽しみな馬です」

 4位は、リステッド競走のアイビーS(10月21日/東京・芝1800m)を勝ったダノンエアズロック(牡2歳/父モーリス)。同馬もデビュー2戦2勝と負けなし。母モシーンはオーストラリアのGIを4勝した名牝で、半姉には重賞3勝のプリモシーンがいる良血馬だ。

吉田氏
「父モーリス同様、爪が4本とも白く、筋肉が緩まないタイプです。前走のアイビーSは20kg増での出走となりましたが、すべてが成長分。それでもまだ、トモはペタッとしています。来年のクラシックに向けては、もう10kg〜20kgぐらい増えてもいいぐらい。

 アイビーSでは、最後まで大きいストライドを駆使。11秒2−10秒9−11秒0というラスト3ハロンのレースラップを2番手から抜け出す芸当を披露しました。スタートセンスも上々で、中身の濃い勝ちっぷりでの2連勝でした。

 ノーズバンドを装着し、口向きやハミ受けを矯正しながらの状況にありますが、レースではしっかりと我慢が利いて、ポジションも取れる馬。少しかき込みの利いたフットワークと大きめの完歩から、距離は不問でしょう。

 爪の弱さもあり、ケアしながらのローテーションとなりそうですが、一戦必勝態勢でしっかりと間隔を取って結果を出せれば、クラシック戦線をにぎわす一頭になりそうです」

 5位には、同ポイントでシュトラウス、ジャンタルマンタル、ヴェロキラプトル(牡2歳/父スワーヴリチャード)の3頭がランク入りした。

伊吹雅也氏(競馬評論家)
「シュトラウスは、12月3日終了時点の本賞金が5350万円で、JRAに所属する現2歳世代の牡馬としては単独トップ。ジャンタルマンタルは同単独2位で、一走あたり賞金は2260万円と、牝馬を含めてもトップとなります。

 シュトラウスの母ブルーメンブラットは、現役時代にGIマイルCSを制しているうえ、産駒の大半がJRAで勝ち上がりを果たすなど、繁殖牝馬としても優秀な成績を収めています。

 そんな優れた血筋のシュトラウスは、先行力の高さを生かしたいタイプ。朝日杯FSは傾向的に合わないのですが、別のレースでなら積極的に狙いに行きたいところです。

 一方のジャンタルマンタルは、"着順が1着、かつ上がり3ハロンタイム順位が2位以内"となった経験のある馬は2018年以降、5勝、2着5回、3着5回、着外16回(3着内率48.4%)という堅実なデータから、朝日杯FSでも素直に信頼してよさそう。

 コース替わりもまったく問題ないはず。連勝はもうしばらく続くかもしれません」

土屋氏
「負かした10頭のうち6頭がその後に勝ち上がっている、高レベルの新馬戦を逃げ切り勝ちしたヴェロキラプトル。2戦目のオープン特別・野路菊S(9月23日/阪神・芝1800m)は、超高速馬場での開催だったので、時計面はそのまま鵜呑みにできませんが、3〜4番手で流れに乗って、直線早め先頭から押しきり勝ち。その内容から、相手が強化されても通用すると感じました。

 まだ素質だけで走っている感があるので、これからしっかりと身が入り、フワフワしたところも落ちつけば、上を狙える器だと思います」

 ランク入りしなかった馬にも多くの馬名が並び、選者各人の評価は大きく割れている。ふたつの2歳GIを終えたところでどう評価が動くのか。激戦の2歳牡馬戦線の行方に注目である。