高木豊の現役ドラフト総括

パ・リーグ編

(セ・リーグ編:「12球団で一番いい選手を獲った」チームは?>>)

 高木豊氏に聞く現役ドラフト総括のパ・リーグ編。「現役ドラフトに出すとは思わなかった」という選手など、6球団が獲得した選手の評価を聞いた。


ロッテが獲得した元西武の愛斗 photo by Sankei Visual

【放出が「意外だった」選手は?】

――まずオリックスですが、中日から2017年のドラフト1位・鈴木博志投手(26歳)を獲得。今季は9試合の登板(先発3試合)にとどまりました。

高木豊(以下:高木) 持っているものは素晴らしいと思います。ただ、ポテンシャルを発揮できていない感があるので、オリックスの厳しいピッチャー陣の中で目覚めるかどうか。球に力があるので、それをどう生かしていくかを学ぶ上でオリックスは最高の環境だと思います。中日のピッチャー陣もいいのですが、オリックスは優勝争いをしながらのチーム内の競争なので、より厳しくなります。

――ここ数年は先発に挑戦もしています。昨季の交流戦では、オリックス相手に5回無失点の好投も見せていました。

高木 球種が少ないので先発のタイプではないと思います(投球割合の約50%がツーシーム、約40%がカットボール)。それと、オリックスは山本由伸や山粼福也が抜けても、曽谷龍平や椋木蓮など先発候補がゴロゴロいます。なので、中継ぎでなんとか食い込んでいければいいですね。

――ロッテは、攻守で思い切りのいいプレーを見せる愛斗選手(26歳)を西武から獲得しました。今シーズン序盤はトップバッターとしていい働きを見せていましたが、5月以降に打率を落とすなど好不調の波が大きい印象です。

高木 西武が愛斗を出すとは思いませんでした。蛭間拓哉は将来首位打者を狙える逸材だと思いますし、鈴木将平や岸潤一郎らも頑張っていますが、西武の外野はレギュラーといえる選手がいません。愛斗はそんな外野手の中で、最も打席数が多くチャンスを与えられていましたし、意外でしたね。

――ロッテの若い外野手たちには刺激になる?

高木 山口航輝、藤原恭大、和田康士朗らと年齢が近いですし、いい刺激になるんじゃないですか。来年は、ケガなどで離脱していた郄部瑛斗も戻ってくると思いますし、激しい競争がきっかけでブレイクする選手が出てくるかもしれません。いつまでもベテランの荻野貴司や角中勝也に頼ってばかりではいけませんしね。

 愛斗は時々目立つ活躍を見せますし、ガッツもあるし、シーズン途中のトレードで獲得した石川慎吾みたいな活躍を期待しているんでしょう。ここ3年は一軍の試合にもけっこう出ていますし、試合慣れしていることもいい。守備力は石川よりも愛斗のほうが上ですし、同じ右バッターの岡大海らと併用していくことになりそうですね。

【DeNAから楽天に移籍の櫻井は「化ける可能性がある」】

――ソフトバンクは、日本ハムから長谷川威展投手(24歳)を獲得。スライダーが得意な変則左腕ですが、どう見ていますか?1年目は2試合、2年目の今季は9試合と出場機会を得られていませんでした。

高木 嘉弥真新也を戦力外にし、同じ変則左腕を獲ったことを考えると、長谷川の若さに目をつけたのかなと。変則投手で大事なのは、コントロールより打ちにくさ。ただ、日本ハムが"宮西尚生2世"として育てようとしていたのに出したということは、何か理由があるのかなと。 

―― 一軍での登板は少なかったものの、今季はイースタン・リーグで8勝を挙げ、最多勝を獲得しています。

高木 長谷川自体の問題ではなく、日本ハムは先発にもリリーフにも左ピッチャーが多いので、そこで溢れてしまったのかもしれませんね。阪神の大竹耕太郎や中日の細川成也みたいに"大化け"する感じではないですが、嘉弥真のように常にブルペンに入って、ポイントで使われるようなピッチャーになる可能性を秘めていますよね。

――楽天はDeNAの櫻井周斗投手(24歳)を獲得しました。楽天は左ピッチャーが不足しているので、活躍の場が得られそうでしょうか。

高木 左の藤井聖が先発になるのかリリーフになるのかはわかりませんが、基本的に左のリリーフは鈴木翔天ぐらいしかいないので、貴重な存在になるかもしれません。まだ若いので化ける可能性もあると思いますし、環境が変わったことでうまくいくといいですね。

 課題は制球です。先発にしてもリリーフにしても、制球に課題があるピッチャーは不安を抱えながら登板させなければいけません。特に、リリーフがいきなりフォアボールを出すと苦しくなりますし、まずは制球力を磨くことですね。

 DeNAから楽天へ移籍といえば、昨季トレードで加入した伊藤裕季也がいて、今季は交流戦以降の夏にけっこう打っていました。かつては藤田一也がそうでしたし、DeNAから楽天へ移籍した選手が活躍する流れができるといいですね。

【"マエケン2世"はラストチャンス】

――近年、ピッチャー陣が充実してきた西武は、広島から中村祐太投手(28歳)を獲得。どう見ていますか?

高木 "マエケン2世"とも呼ばれて球種が豊富なのですが、まとまりがない。一生懸命に投げているという感じで、ピッチングを組み立てるまでに至っていないというか......。

 ただ、今季にリリーフになってからはファームでいい成績を残しています(28試合登板、2勝1敗1セーブ、防御率1.08)。西武は先発陣はいいですが、リリーフ陣が少し弱ってきているので、リリーフでチャンスを与えられる時があるかもしれません。年齢的にもラストチャンスだと思いますし、環境を変えたことで好転するといいですね。

――日本ハムは、ソフトバンクの水谷瞬選手(22歳)を獲得。プロ5年間で一軍での出場はありませんが、193cm、99kgと体格に恵まれ、パワーと俊足が光る外野手です。

高木 これは将来の可能性に期待しての獲得でしょうね。日本ハムの外野は万波中正が育って、松本剛がいて、センターには五十幡亮汰ら足の速い選手に守らせています。水谷も足はそこそこ速いですが、課題はバッティング。今年の夏ぐらいからノーステップに変え、少しずつ結果が出てきていたので今後が楽しみです。

 新庄剛志監督だったら必ずチャンスを与えると思うので、そのチャンスを掴めるかどうか。一軍の試合に出たことは1回もないですが、使ってみたら面白いかもしれません。新庄監督の場合、「ファームで成績を残したら一軍に上げる」のではなく、「一軍でどういうパフォーマンスを見せてくれるか」を必ず見るので。

 体格がかなりいいですし、秘めているパワーも相当なものがあるはず。新庄監督の"魔法の言葉"が活躍のきっかけを作ってくれるかもしれません。

――今回の現役ドラフトで指名された選手の中から、第二の大竹耕太郎投手、細川成也選手が生まれる可能性もある?

高木 十分にあると思います。チャンスは多少なりとももらえるはずですから、どのぐらい準備ができていて、いいパフォーマンスを見せられるのかどうか。それがすべてだと思います。見切られてしまうのも早いと思うので、与えられたチャンスを死にものぐるいでモノにしてほしいですね。

(現役ドラフトに感じた球団による温度差 開催時期変更も提言「選手ファーストに」>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。