高木豊の現役ドラフト総括

セ・リーグ編

 出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化することが目的の「現役ドラフト」。その第2回が12月8日に非公開で開催され、12人の指名選手が決まった。セ・リーグの各球団に移籍した選手について、かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に聞いた。


オフに自主トレをする、阪神から巨人への移籍が決まった馬場皐輔 photo by Sankei Visual

【阪神が獲得の漆原はポテンシャルに魅力】

――日本一になった阪神には、オリックスの漆原大晟投手(27歳)が移籍。今季は一軍での登板が16試合にとどまりましたが、「将来のクローザー候補」と期待されていた時期もありました。

高木豊(以下:高木) 今季のファームの成績を見ると、防御率があまりよくないんです(32試合登板、3勝0敗、防御率4.31)。不振の原因がコンディションなのか技術面なのかはわからないのでなんとも言えないのですが、そのあたりは阪神とオリックスの間で情報交換があり、了承した上で獲得したんでしょう。

 力のある真っ直ぐとフォークボールもいいですし、阪神は漆原のポテンシャルに魅力を感じているんでしょうね。環境を変えてコロっと変わる可能性は十分にあります。阪神のリリーフ陣もオリックス同様に層が厚いですが、チャンスをもらえた時にいいアピールをして食い込んでいってほしいですね。

――続いて、広島が獲得したのは楽天の内間拓馬投手(25歳)。プロ1年目は11試合に登板(勝ち負け無し、防御率5.91)しましたが、昨季は1試合、今季は一軍での登板がありませんでした。タイプ的にはストレートで押していくパワーピッチャーです。

高木 投げっぷりがよくて球威があるのですが、コントロールが課題です。しかし、まだ25歳と若いですし、制球力はこれから改善していければいいのかなと。それと、広島は亜細亜大出身の選手が多いので、広島のスカウトが亜細亜大時代の内間をリストアップしていた可能性もありますね。

【巨人が獲った馬場は活躍の可能性大】

――DeNAはロッテの佐々木千隼投手(29歳)を獲得。他のチームにいけば活躍ができる選手として、高木さんは以前から名前を挙げられていましたね。

高木 ロッテは西村天裕、坂本光士郎、澤田圭佑ら他のチームから来たリリーバーが自分の地位を築き始めていて、佐々木の登板機会はほとんどありませんでした。ただ、一昨年のシーズンは、佐々木が投げるとチームが逆転したり、勝ち運を持っていた時期もありましたよね(2021年/54試合登板、8勝1敗26ホールド1セーブ、防御率1.26)。そういうことも含め、環境を変えればまだやれると思いますよ。

――先発の可能性もゼロではないですが、おそらくセットアッパーでの起用の可能性が高いと思います。DeNAのリリーフ陣に割って入っていけそうですか?

高木 DeNAは名前と実績はありながら結果が伴っていないピッチャーが増えつつあるので、チャンスはなくはないと思います。それと、佐々木が桜美林大時代に、元横浜(現DeNA)の野村弘樹が同大学の硬式野球部の特別コーチに就任して佐々木を指導していた時期があるんです。またアドバイスを受ける機会もあると思いますし、いい感覚を取り戻したり、再起のきっかけになればいいですね。

――巨人は、やはり高木さんが名前を挙げていた阪神の馬場皐輔投手(28歳)を獲得。阪神のリリーフ陣は層が厚く、ここ2年は登板機会が多くありませんでした。それでも今季は19試合に登板し、2勝1敗3ホールド、防御率2.45という成績でした。

高木 12球団を見ても、巨人が一番いい選手を獲ったなと思います。馬場はイニング数と同じ数の三振を取っていますよね(奪三振率9.00)。三振が取れるピッチャーはそれなりのテクニック、力もあるということを考えると、十分に戦力になります。

 巨人は今オフ、ソフトバンクとのトレードで泉圭輔、オリックスからは金銭トレードで近藤大亮などリリーバー候補を何人か補強していますが、彼らはまだ投げてみないとわからない状態です。その点、馬場の場合は何の心配もなくすぐに使えます。車に例えるなら「あとはナンバーをつけるだけで、すぐに走り出せる」状態。「ちょっとオイル漏れしているぞ」ということはないと思います。巨人はリリーフ陣を再建中ですし、馬場の補強は大きいです。

――馬場投手のいい部分は?

高木 力のある真っ直ぐと三振を取れるフォークですね。阪神で優勝争いを経験できていることも大きいですし、レベルの高いピッチャー陣の中で揉まれて育ってきたのも魅力です。ましてや、阪神から巨人への移籍はあまりないこと。巨人もメディアが多くプレッシャーのかかる環境ですが、同様にプレッシャーがかかる阪神にいたことで慣れているでしょうし、そういう面も含めて期待できます。

【ヤクルトは元巨人の北村をサードに?】

――ヤクルトは、巨人から北村拓己選手(28歳)を獲得しました。パンチ力が魅力のバッターですが、ここ数年は出場機会が減っていました。

高木 長打力を秘めているバッターだと思いますが、チャンスがありませんでしたからね。タイプ的には代打ではないし、リズムを作って試合に臨んでいくような選手だと思うんです。ある程度我慢して使ってもらえたり、「こういう試合では必ず使ってくれる」といったチャンスを与えるといいと思うのですが、ヤクルトはそうしてくれると思いますよ。

――ヤクルトのほうがチャンスがある?

高木 長岡秀樹、武岡龍世、宮本丈らはまだ不安が残りますし、門脇誠の活躍で内野陣が固まった巨人よりはチャンスがあるんじゃないかと。それと、将来的なメジャー移籍を踏まえて、村上宗隆をサードじゃなくてレフトへ持っていく可能性もあると思っていて。それは僕の勝手な構想なのですが、もしそうなった場合にはサードで誰かを育てなきゃいけません。

 その1番手が山田哲人のサードへのコンバートとなれば、空いたセカンドに武岡を入れるのか。そうでなければ、武岡と北村をサードで併用するとか、左が先発だったら北村を使ったり。そういう感じで内野を試していく過程でチャンスをもらえると思うんです。北村の守備力を考えると二遊間はちょっと厳しいので、使うならサードかなと。

――どういった理由から、村上選手をレフトで起用する可能性を感じたんですか?

高木 村上のサードの守備は不安な部分があるので、ポスティングでメジャー移籍をする際に価値が高くなるのは外野のほうだと思うんです。コンバートする時期を考えると、そろそろリミットかなと。チームが勝つためにもそうしたほうがいいと思いますし、ヤクルトは比較的にレフトが空いている。そうなった場合、北村にサードを守らせることも一考です。

――中日は、ヤクルトから梅野雄吾投手(24歳)を獲得。今季は5試合の登板にとどまりましたが、通算216試合に登板するなどセットアッパーとして実績があります。

高木 梅野はバッターに向かっていくピッチャーですよね。その分、一発を打たれる確率は上がってしまうのですが、広いバンテリンドームだとホームランを打たれる心配が減ります。より腕が振れるようになって、バッターにより向かっていけるんじゃないですか。実績もあって、投げっぷりもいいですし、バンテリンドームを味方につけて活躍すると思います。

清水達也、勝野昌慶ら強力なリリーフ陣に加わっていく力は十分あると思います。経験を生かしたピッチングができるかどうかですね。

(パ・リーグ編:「まさか出すとは思わなかった」と驚いた選手は?>>)

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。