谷口彰悟がカタール2年目で思い返すフロンターレ時代「嘉人さんと悠さんにはだいぶ鍛えられた」
【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第11回>
◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第10回>>新監督の信頼も勝ち取ったカタール2年目「パスも否定されなくなった」
2年目のカタールで、谷口彰悟はいろんなことを学んでいるという。外国人監督とのコミュニケーション、川崎フロンターレ時代とは違う勝ち方、そして外国人チームメイトとの練習で得られる新たな刺激──。
すべてが己の新たな財産。屈強なFWが揃うカタールリーグに身を置くことで、32歳になった谷口はさらなる成長を感じている。
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谷口彰悟が語る2年目のカタール photo by 本人提供
カタール・スターズリーグが開幕して4カ月が経とうとしている。
今季からレオナルド・ジャルディム監督が指揮を執っているアル・ラーヤンSCは、開幕から4連勝して一時は首位に立つなど、上位争いに踏みとどまっている。
加入した昨季は、残留争いを強いられ、常に苦しい試合をしていた。それだけに、個人的にもそうした経験はもう二度としたくはないと、心に誓っていた。
(前回のコラムで)ジャルディム監督が目指すサッカーを「手堅い」と表現したように、自ずと守備ではリスクを冒さないことを念頭に置いてプレーするようになり、相手に隙を与えないチームに成長しつつある。
もちろん、アル・ガラファに3-4、アル・ドゥハイルに2-3と競り負けたように、上位を争う相手との試合では失点も重ねた。だがそれは、監督が常に求めているように、チームとして勝ちに行った結果だ。
実際、今季は10試合を終えて5試合をクリーンシートで終えるなど、昨季のように安易な失点を許すことはなく、簡単に崩れないチームになった。
センターバックとしてコンビを組むアンドレ・アマロは、21歳と年齢の若いポルトガル出身のDFだが、ラインコントロールの概念やチャレンジ&カバーにおける判断も近い感覚がある。そのため、試合を重ねるたびに強固な守備を作るための有効な関係性を築きつつあると感じている。
その守備がチームのベースとなり、我慢しながら戦い、相手の隙をついてゴールを奪うこともできている。
美しいサッカーや魅力的なサッカーの定義があるとすれば、手堅く、また我慢強く戦う今季のサッカーは、それとは異なるかもしれない。しかし、昨季以上の結果が出ていることもあり、自分自身も勝利するためには、いろいろな勝ち方や戦い方があることをあらためて知った。
そして、そうした日本では経験できないサッカーに触れたいという思いが、海外でプレーすることを決意した理由だっただけに、今季は新たな学びを得ている。
また、昨季と今季とではメンバーも様変わりし、チームに新しく加わった選手たちからも刺激を得ている。
大きく戦力が変わったのは、助っ人である外国人の選手たちだ。昨季のチームを知る外国人選手は自分だけで、先に紹介したアンドレ・アマロだけでなく、攻撃陣にも3人のブラジル人選手が加わった。
チアゴ・メンデスはリヨンでプレーしていたMFで、攻撃ではパスで前とうしろをつなぐ役割を担い、守備では高い強度で相手の攻撃の芽を潰してくれる。
また、攻撃で違いを見出してくれる選手としては、パルメイラスやコリンチャンスでプレーしていたロジャー・ゲデスだろう。DFとDFの間でボールを受けて、瞬時にターンをしてゴール前に侵入していく動きには目を見張るものがあり、うしろから見ていて思わず日本代表で一緒にプレーする(鎌田)大地を想起した。
さらに最前線にはバレンシアやリーズでプレーしたロドリゴがいて、彼がカウンターからゴールを決めてくれる。
自分にとって大きな財産になっているのが、今、名前を挙げた選手たちと日々の練習から対面できることだ。
思い起こすと、川崎フロンターレ時代も、能力や特徴が異なるさまざまなFWと一緒に練習をすることで、自分はDFとして成長させてもらった。
大学を卒業してプロになったばかりのころ、川崎フロンターレには(大久保)嘉人さんと(小林)悠さんという日本を代表するストライカーがいた。ふたりにはセンターバックとしても、だいぶ鍛えられた。
嘉人さんにはどこからでもシュートを狙ってくる大胆さ、悠さんなら自分の背後に走り込む動き出しの速さが特徴としてあるように、ふたりとも特徴があり、そして駆け引きが抜群にうまいストライカーだった。
日本人ならば日本人の特徴があるように、外国人選手ならば(レアンドロ・)ダミアンには高さや強さ、マルシーニョにはスピードといった武器があった。アル・ラーヤンSCに加入してロドリゴやロジャー・ゲデスといったFWとやり合っていると、ダミアンやマルシーニョと練習でマッチアップしていた日常を思い出す。
カタール・スターズリーグには、各チームに必ずといって言いほど、屈強かつ得点力のあるFWがいる。
アル・ドゥハイルには、Jリーグで得点王になった経験のある、あのマイケル・オルンガがいる(ちなみに今季の対戦でも彼に2点を奪われて悔しい思いをした)。アル・ガラファにはコートジボワールのヨアン・ボリやアルジェリアのヤシン・ブラヒミと、個の能力に長けたストライカーがいて、試合では彼らとマッチアップすることになる。
昨季途中からカタールでプレーするようになった時には、フィジカルが強いFWに背中と腕で押さえ込まれ、身動きが取れなくなり、危うく体を入れ替わられそうになる場面が多々あった。そうした経験を踏まえて、今では無理にボールを奪いにいかない、もしくはそういう状況を作られないように、相手FWに背負われる前に決着をつけるような守備を意識したり、試したりするなどして、プレーの幅も出てきている。
そうした経験は、日本代表で対戦したドイツやトルコといったチームのFWにも有効だっただけに、海外でプレーすることで自分も少しずつ成長、進化していることを実感する。
昨季は残留争いを強いられたアル・ラーヤンSCだったが、新監督と新戦力が加わり、チームは間違いなく、いい方向に変化している。近年はアルサッド、アルドゥハイルの二強に押されているが、アル・ラーヤンSCもリーグ優勝8回を誇る古豪と呼ばれるチーム。自分もチームの勝利に貢献し、今季は上位争いに食らいつき、優勝を争うような戦いを目指していきたい。
◆第12回につづく>>
【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンSCに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。