「1ゴール1アシストで、"必殺バージョン"の久保が戻ってきた。終始、ディテールの違いを見せていた」

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)が0−3と敵地で勝利したビジャレアル戦後、スペイン大手スポーツ紙『アス』は久保建英(22歳)のプレーを高く評価した。

 ラ・レアルの久保は3得点、すべてに絡んでいる。ラ・リーガでは9月30日、アスレティック・ビルバオとのバスクダービー以来のゴール。8試合ぶり6得点目で、納得のゲームMVP受賞だ。

 あらためて久保はその力を示している。


ビジャレアル戦で1ゴール1アシストの活躍を見せた久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Nakashima Daisuke

 12月9日、ラ・リーガ第16節。ラ・レアルの久保は4−3−3の右アタッカーとして先発している。かつて(2020年)の古巣であるビジャレアルに"凱旋"した形だ。

 その気負いか、あるいは単純にミケル・オヤルサバルやアンデル・バレネチェアの欠場でコンビネーションにズレがあったか。序盤、味方の援護が手薄でリズムを生み出せず、単発にクロスを狙うが通らない。しかし焦らずにじっくりと右サイドで構えると、キーラン・ティアニーやアルセン・ザハリャンのサイドチェンジを受けられるようになり、徐々にアジャストさせていった。エースの風格だ。

 そして38分、久保は右CKから、ニアに飛び込むミケル・メリーノの頭に合わせ、先制点をアシストしている。危険な軌道で、速い弾道。触るだけで脅威となる球だった。

 続く41分にも、久保は再び右CKを任されると、今度はショートを選択。リターンを受けて複数の相手を引きつけた後、フリーになったザハリャンに戻す。ザハリャンが右足を思いきり振ると、そのボールをゴール前のマルティン・スビメンディがコースを変えて2点目。サインプレーで、久保のボールはアシストがついてもおかしくないほど、ゴールの道筋をつけていた。

「Determinante」(決定的)

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は端的にそう表している。

「3得点すべてに関与するなど、生産的なものをすべて具現化した。試合序盤はやや迷いがあって利己主義になりかけていたが、コーナーキックからメリーノの先制点をアシスト。さらにショートコーナーから一度マークを自分に引きつけた後、ザハリャンのシュートをお膳立てして2点目に導き、3得点目を自ら決めた......」

【周囲との連係向上も好材料】

 久保はほとんど10分で試合を決した。

 前半アディショナルタイム、左サイドでザハリャンのプレスがはまって奪い返したボールを、久保は右サイドで待って呼び込む。左足で敵センターバックが追いつけないところまでボールを運び、GK との1対1を右足でニアを抜いて決めた。冷静で抜け目がなく、果断なストライカー的ゴールだった。

 後半はホームのビジャレアルが戦意を上げ、リードしたラ・レアルがやや構えたことで、久保も地味な仕事ぶりになった。たとえば素早く帰陣し、相手のサイドバックの動きにフタをする。あるいは自陣でボールを収め、ファウルを受けて時間を作る。それらは"戦いの流れを与えない"重要な任務だった。それをやってのけられるからこそ、フルタイムでピッチに立ち続けたと言える。

 ビジャレアルの選手たちは時間を追うごとに苛立ちが目立つようになり、アレックス・レミーロの好守でゴールネットを揺らせない。相手のセンターバック、ホルヘ・クエンカは形勢逆転を狙って、ボールをキープする久保に襲いかかってきたが、くるりとしたターンで簡単に交わされ、シャツを引っ張って止めるしかなかった。それもやがて失速した。

 久保は久しぶりのゴールを決めたわけだが、そのプレーレベルは開幕から上がり続けている。

 ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)を抑えて9月の月間MVPを受賞し、マークが厳しくなることは当然だった。包囲網が作られるなか、手荒いディフェンスも増えた。そこで、久保が複数の敵選手を引きつけることにより味方を生かす、新たな形が作り上げられていった。そのプロセスを経て、久保自身も久しぶりに得点を決めた。

 ひとつのサイクルを巡ったことで、次のサイクルで再び進撃が始まる予感がある。

 開幕直前のダビド・シルバの引退以来、ラ・レアルは断続的にケガ人が出て、厳しい状況だったが、そのたびに久保は周りの選手との連係を高めてきた。たとえばウマル・サディクのように単独のパワーとスピードで押しまくる選手には、あまり近寄らず、遠隔操作のようにその良さを生かしている。コンビネーションにおける適応力が突出して高いのだ。

 ビジャレアル戦も、久保はザハリャンの天才性、ティアニーのサッカーIQの高さとリンクしていた。これは後半戦に向けての好材料だろう。国王杯で得点を記録して復活を遂げつつあるポルトガル代表FWアンドレ・シルバは、昨シーズンまで久保がコンビを組んでいたアレクサンダー・セルロート(ビジャレアル)に近いと言われるだけに、期待が持てる。

 この日、ラ・レアルはラ・リーガで暫定5位に浮上した。チャンピオンズリーグ(CL)でベスト16を決めながら、リーグ戦でも安定した強さを見せている。次戦は昨季CLファイナリストであるインテルと、グループリーグ1位突破をかけての決戦だ。