関西大・金丸夢斗は2024年ドラフト戦線の主役になる逸材 敵将たちも「モノが違う」と大絶賛
そのキャッチボールは、マジックを見ているようだった。金丸夢斗(かねまる・ゆめと/関西大3年)が極めて軽い力感で左腕を振り、ボールをリリースする。スピードはなく、はじめは誰でも投げられそうなボールに見える。ところが、ボールは低い軌道を保ったまま、数十メートル先の相手のグラブに収まる。まるで金丸がキャッチボールする空間だけ、重力など存在しないかのように。
大学日本代表強化合宿では来年のドラフト1位候補の明治大・宗山塁から三振を奪った関西大・金丸夢斗 photo by Kikuchi Takahiro
なぜ、こんなキャッチボールができるのか。本人に尋ねると、金丸は苦笑を浮かべながら"極意"を語ってくれた。
「『力感がない』とはよく言われます。自分のなかでは、リリース以外は脱力しているイメージなんです。体全体の力をしっかりと使えていれば、力感がなくてもボールがいくなと感じます」
この日、金丸は大学日本代表候補強化合宿に参加していた。全国から18名の好投手が愛媛県松山市に集い、候補選手同士で行なわれた紅白戦では坊っちゃんスタジアムのスコアボードに150キロ台の球速が次々に表示された。
そんななか、筆者の目にもっとも速く映ったのが金丸のボールだった。数字のうえでは152キロが最速だったが、体感スピードはこの日マウンドに上がった誰よりも速く見えた。
金丸は2024年ドラフト戦線で主役になる可能性を秘めた大器である。身長177センチ、体重77キロと体格的には平凡な部類で、凄みがあるわけではない。
だが、金丸のしなやかな左腕から放たれるボールは捕手に向かって加速し、ミットで止めなければどこまでも飛んでいきそうな勢いがある。この日の金丸は約1カ月ぶりの実戦マウンドで、失策絡みで2失点を喫している。だが、本調子ではなくても本人が「真っすぐはアピールできた」と語ったように、ストレートのキレは抜群だった。
宗山塁(明治大3年)から三振を奪った151キロのストレートを目の当たりにした瞬間、スタンドで「ぷっ」と吹き出してしまった。人間は本当に凄いものを見た時、笑いが込み上げてくるとあらためて実感した。
【今秋リーグ戦で無双のピッチング】今秋の関西学生リーグで、金丸は「無双」と言っていい投球を見せている。6試合に登板して6勝0敗。51イニングを投げ、被安打32、奪三振74、失点2。防御率は0.35。1年時からリーグ内の監督たちが「金丸だけはモノが違う」と口を揃えていたが、いよいよ本格化した感がある。
金丸が進化した背景を探っていると、本人の口から「重心を理解して体を動かせるようになった」という言葉が飛び出した。にわかには理解しがたい内容だったため、掘り下げて聞いてみた。
「3年の春に右ヒザをケガしてから、『体のどこかに負担がくる投げ方なんだな』と考えて、フォームや練習のやり方を変えたんです。それまでは重心がバラついて、力む原因になっていました。重心の感じ方は日によって違うので、キャッチボールの前に重心を定める作業をするようにしました」
重心を定める作業。耳慣れない言葉だが、どんなことをするのか。そう尋ねると、金丸は「呼吸」を挙げた。
「呼吸をしっかりと一定にして、エクササイズをします。ピッチャーはマウンドのように傾斜のある不安定な場所で投げるので、ブリッジや逆立ちをしながら呼吸して重心を確かめています」
まるで仙人にでも話を聞いている気分になった。極めて難解な作業に思えるが、金丸は「最後は自分の感覚です」と笑った。重心を理解できるようになると、今までにない感覚が芽生えたという。
「動作の再現性が上がっています。リリースの瞬間に100パーセントに持っていきやすくなりました」
コントロールに難がある左投手も多いが、金丸は正確に打者のインコースを突ける制球力も武器にしている。
大きな故障でもしない限り、来年の大学日本代表は金丸が投手陣の中心になるだろう。とはいえ、同学年には佐藤柳之介(富士大)や徳山一翔(環太平洋大)といった逸材左腕もいる。その点について触れると、金丸は「本当にレベルが高いですね」と苦笑した。
口ぶりとは裏腹に表情は明るく、いい意味で余裕が感じられる。金丸は「今年は(最上級生のため)敬語を使わなくていいしやりやすいです」と笑った。
紅白戦では「引き出しを増やそう」と新球・カーブを試投するシーンも見られた。武器のスプリット、チェンジアップ、スライダーに緩いカーブが加われば、金丸のストレートはさらに効力を増すに違いない。
2024年夏、プラハベースボールウィーク2024がチェコで、そしてハーレム・ベースボールウィークがオランダで開催される。大学日本代表として金丸夢斗のストレートに世界が驚くのはその時だ。