8月26日に運行開始した宇都宮のLRT(筆者撮影)

宇都宮市・芳賀町の新しい公共交通機関である宇都宮ライトライン。8月26日に開業して以来、多くの人に注目されている。利用者数は、想定を大幅に上回る数字をたたき出し、開業1年目で1日あたりの平日はおよそ1万2800人と予想していたものが、実際に蓋を開けてみると、1万5000人の利用があった日もあるという。

すべてのドアから乗降可能

通勤客の利用定着に加えて、通学利用や保育園、幼稚園の通園など幅広い利用が促進されたことが大きく影響している。このことは地元民自体がライトラインの開業を待ち望んでいたことにほかならない。

筆者も休日に現地を訪れたが、昼間の宇都宮駅東口は、ほぼ満員状態で発車する列車ばかりだ。1本やり過ごし、ようやく座ることができた。動き出すと加速がよく、さすが最新の超低床電車である。あっという間に次の停留場に到着した。

運賃は対キロ区間制。整理券が発行され、現金での支払いも可能だが、ライトラインはICカードの利用を推奨している。ICカードを利用すれば、整理券を取る必要がなく、わざわざ運転士近くのドアを使わなくても、すべてのドアから乗車も降車も可能である。

すべてのドアにはICカードの読み取り端末が設置されており、乗車用は外側に向いて低く、降車用は内側に向いて高い位置に設置されているのだ。この配慮によって、乗車も降車もストレスなくタッチすることができ、実に利用者目線で設置された設備だと感じた。

列車も日中は約12分間隔で運行されているが、遅延した場合に臨時便を増発することもあり、アクティブな運行がされている。宇都宮ライトレールの担当者によると、沿線の学校の生徒の中には、「ライトラインを利用する予定はなかったが、友人が使い始めてあまりにも便利だというので定期を購入したという人もいた」と話す。また、「土日については遠方からわざわざ乗りに来てくださるお客様も多く、計画を大幅に上回る利用者数となっている」とのこと。

9月だけで車両事故が3件

明るい話題がある一方、自動車などとの事故も発生している。まずは9月1日に発生した、清原地区市民センター前停留場付近で発生した事故。現場は並行する敷地内に向かうための道路が軌道内を横切っており、右折して進入しようとした自動車と同停留場を発車した列車が衝突した。

またその4日後の9月5日には、赤信号を見落とした自動車と進行してきた列車が衝突。さらに9月17日にも、軌道すぐ横のゼブラゾーンに停車中の自動車と列車が接触する事故も起きている。9月だけでも車両事故が3件起きている。いずれも、路面電車の動きに不慣れなドライバーが主に引き起こしている事故だ。

ライトラインの軌道ルート(宇都宮駅東口―芳賀・高根沢工業団地間)は、全線が道路上に敷設されており、すべての区間が併用軌道である。自動車などと並走するため、誤って自動車が誤進入してしまう可能性がある。特に開業直後から自動車との事故について、今後はどのような対策をしているのか。

この点について宇都宮ライトレールの担当者に尋ねてみた。担当者によると、「ライトラインと自動車交通が交差する交通信号はほとんどが右直分離であり、交通ルールを守ればライトラインも自動車も安全。しかし車のドライバーからするとなじみのない路面電車との並走となるので、交通マナーの啓発や、軌道と車道との境目を分かりやすくするなどの対策を実施している」とのことだ。

もちろん一般の利用者やドライバーも事故防止に努めなくてはならず、そのためにはLRTの特性をよく理解し、マイカーとLRTの道路上でのすみ分けに注意が必要だ。「電車は急には停まれない」その感覚は、マイカーを運転する人に心がけてもらいたい。

快速運転の実施を検討

ライトラインの好調な利用状況を反映し、今後ダイヤ改正を行う方針だ。ラッシュ時間帯を中心に一部の列車の発車時刻変更、増備、運転区間の延長を実施する。このことについても、宇都宮ライトレールの担当者に聞いてみたところ、現金の運賃収受に時間を要すると想定し、現状は快速運転を行っていないが、路線の設備は追い越しを見越して整備しているので、今後のダイヤ改正にあわせ、快速運転の実施を検討しているとのことだった。

快速運転を行うような大規模なダイヤ改正については少々先のようだが、沿線の利便性がさらに上がることを期待したい。また路線バスとのシームレスな連携も期待される効果の1つだが、昨今のバス運転士不足という問題からも、その効果が限定的になってしまうことが懸念される。いずれにしても、公共交通機関が長く生き残るには、輸送モード同士の輪の連携も大事であり、今後宇都宮ライトラインがそれらを一つひとつ解決していくことが重要だ。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)