東海道・山陽新幹線をはじめJR4社の新幹線は軒並み好調が続く(写真:TETSUYA氏/PIXTA)

JR上場4社(JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州)の2024年3月期第2四半期決算が相次いで発表された。新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い人の動きが回復して鉄道利用が増えたことから、各社とも前期比で利益が大きく増えた。むしろ気になるのはコロナ禍前の状態にどのくらい近づいたかである。前期ではなくコロナ禍前と比較しないと、各社の業績が本当に回復したかどうかはわからない。そのような観点から、各社の決算と今後の業績予想についてみていく。

東海道新幹線の好調続くJR東海

まずJR4社の中で最も早く10月30日に決算を発表したJR東海から。

JR東海の2024年3月期第2四半期決算は売上高が前年同期比128.9%の8175億円、営業利益が同181.5%の3120億円だった。今期の運輸収入の想定はコロナ禍前となる2019年3月期比で上期が85%、下期が90%、通期にならすと87.5%となっている。ふたを開けてみると4〜6月が91%、7〜9月が93%、上期全体で92%だった。つまり想定よりも7ポイント上振れしたわけだ。

屋台骨である東海道新幹線の利用状況は観光需要の多い土休日の利用が好調で、6カ月のうちコロナ前を上回る100%超えとなった月が3回あった。一方、出張客が多く利用する平日の利用状況は4月にはコロナ禍前と比べて82%と出遅れていたが、じわじわと上昇し9月には87%まで回復した。

好調な第2四半期決算を踏まえ、JR東海は2024年3月期の業績予想を上方修正した。当初の予想は売上高1兆5660億円、営業利益4300億円だったが、売上高を1兆6270億円、営業利益を5020億円に引き上げた。上期の運輸収入が想定よりも7ポイント上振れしたことが主な理由だ。

ただ、下期の想定は2019年3月期比90%のまま変えていない。しかし、10月の新幹線の利用状況は平日92%、土休日99%、合計97%と想定を上回っている。11月の利用状況(11月15日時点)はさらに伸びて平日93%、土休日108%、合計100%とコロナ前の状況に戻っている。下期90%という想定は保守的かもしれない。このペースが続くとしたら、売上高と営業利益にはさらに上振れる余地がある。

JR西日本はインバウンドが貢献

続いて、10月31日に決算を発表したJR西日本とJR東日本である。

JR西日本の2024年3月期第2四半期決算は売上高が前年同期比124.8%の7699億円、営業利益が同314.0%の1062億円だった。運輸収入の想定を山陽新幹線と近畿圏在来線を例にとって説明すると、山陽新幹線は期初に2019年3月期比84%でスタートして、夏場から回復基調に入り期末に90%に達する、近畿圏在来線は年度を通じて92%で変わらずというものだ。実際には山陽新幹線は4〜6月が87%、7〜9月が89%と、上期の段階で90%にほぼ近づいた。好調の理由はレジャー・観光需要の回復によるものだが、とりわけインバウンドの貢献が大きいという。

一方で、近畿圏は、定期客は想定どおりで推移したが、定期外客は想定をやや下回り、定期・定期外を合算すると4〜6月、7〜9月ともに90%で、92%という想定には届かなかった。近畿圏の定期外はなぜ伸び悩んだのか。この点について、JR西日本は、「近距離圏はコロナ禍の時期から引き続きマイカーで移動する人が多い」とみている。


JR西日本の近畿圏は定期外客がやや伸び悩んだ(写真:うわじま6号/PIXTA)

ただ、近畿圏の伸び悩みを新幹線の好調が上回ったほか、電力料金が当初の見通しほど増えず、結果としてモビリティ業の営業利益は705億円となった。同事業の当初の通期計画は720億円なので、第2四半期時点で年間計画をほぼ達成したことになる。また、流通、不動産、旅行などの非鉄道事業も好調だった。

通期の業績予想は期初に発表した売上高1兆5120億円から1兆5850億円に、営業利益は1150億円から1400億円に引き上げられた。モビリティ業の営業利益予想は720億円から890億円へと170億円引き上げられた。そのほかの事業の営業利益予想も180億円増加した。JR西日本は「上期の好決算をそのまま業績予想に上乗せしたイメージ」という。

下期は期初計画どおりに推移するとみているとのことだが、上期に705億円を達成したモビリティ業の営業利益は本当に下期に170億円しか増やせないのだろうか。下期には修繕費が増えるなど鉄道事業特有の事情があったにしても、山陽新幹線の10月の利用状況は上期を上回る好調ぶり。加えて、下期の電力料金も上期並みだと考えれば、営業利益のもう一段の上昇余地はありそうだ。

JR東日本は定期客回復が想定超

JR東日本の2024年3月期第2四半期決算は売上高が前年同期比116.6%の1兆2998億円、営業利益が同287.5%の1917億円だった。運輸収入の想定は期初に2019年3月期比88%からスタートし、第2四半期90%、第3四半期91%、第4四半期93%と、徐々に上昇していくというもの。通期では90%である。もう少し詳しくみていくと、定期は2024年4月に約8割、新幹線(定期外)は2023年12月に約9割、在来線(定期外)は2023年12月にほぼコロナ前の状態に戻るという想定だ。

実際には定期は会社想定を上回るペースで回復し、第1四半期の時点で81.7%、第2四半期も82.4%と上振れた。コロナ禍の最中には多くの人がテレワークや在宅勤務を行っていたが、4月以降は出社に切り替える人がJR東日本の想定よりも多かったようだ。


山手線の電車。JR東日本は定期客が想定を上回るペースで回復している(編集部撮影)

一方で、在来線(定期外)は4〜6月は93.4%でほぼ会社想定ラインだったが、7〜9月は93.2%と伸び悩んだ。猛暑の影響で近・中距離のレジャーや旅行を控える動きが出たものと思われる。なお、新幹線(定期外)はほぼ会社想定どおりのペースで推移している。長距離の移動需要は猛暑に関係なかったようだ。

通期の業績予想は、売上高2兆6960億円、営業利益2700億円の予想を変更していない。第2四半期の営業利益は通期予想の71%まで達しているのに、なぜ据え置きなのか。

この理由について、会社側は非鉄道事業、とくに流通・サービス事業と不動産・ホテル事業の進捗が遅れている点を挙げている。モビリティ業は第2四半期時点ですでに通期計画を上回る利益を上げているが、非鉄道事業の進捗率は5割に達していない。第2四半期時点で好調な運輸事業にしても下期に修繕費が大きく増えることから慎重にみているようだ。会社側は「実際の利益が通期計画から大きく乖離することはない」としている。

しかし、「大きく乖離することはない」を深読みすると「若干の乖離幅はある」と受けとめることができる。取引所の基準では新たに算出された業績予想については、売上高については直近の予想値から上下1割以内、営業利益は同3割以内であれば開示の必要がない。つまり、修正はしないものの、営業利益には最大3割以内の上振れ余地はあると考えることもできる。

JR九州、運輸業急回復でも慎重

最後に11月7日に決算を発表したJR九州である。JR九州の2024年3月期第2四半期決算は売上高が前年同期比112.1%の1907億円、営業利益が同239.8%の268億円だった。JR本州3社と比べると売上高の増加率がやや低いが、この理由は事業構造の違いによるものだ。

JR九州は不動産・ホテルなど非鉄道事業の比重が本州3社よりも高い。とくに不動産はコロナ禍の影響が比較的軽微であり、コロナ禍においても一定の収益を上げてJR九州を支えてきた。また、上期は不動産販売物件が前年同期より少ないという事情もあった。そのため、コロナ収束により運輸サービス事業が前年同期比125.1%と急回復した反面、不動産・ホテル事業の伸びが105.0%と見劣りしてしまった。


西九州新幹線の「かもめ」。JR九州は運輸サービス事業が急回復した(編集部撮影)

鉄道事業の運輸収入については、定期は年度を通じて2019年3月期比90%程度で推移するというものだったが、実際には4〜6月が92.7%、7〜9月が92.9%と想定を上回っている。定期外は2023年第4四半期の87.5%から徐々に上昇して100%に近づき、年度の平均は95%程度という見立て。実際は4〜6月が92.8%、7〜9月が94.1%と上昇基調にあるものの、やや弱含んでいる。なお、新幹線は好調だが、在来線の回復が弱いという。会社側は近畿圏、首都圏と比べると地方の人流が鈍いと考えているようだ。

通期の業績予想は売上高が4170億円、営業利益が457億円で、期初予想から変更なし。通期予想と比較した上期の営業利益の進捗率は58%で、ペースとしては上振れている。ただ、会社側は上期に計画していた修繕費が下期にずれ込む、2024年初頭に開業する長崎マリオットホテルの開業経費が20億円ほど発生するなど下期の費用増を見込んでいる。その反面、動力費が想定ほど増えていないことや、上期の修繕費が下期にずれこむにしても逆に下期の修繕費が来期にずれ込むケースもあるはずなので、会社側の想定は慎重と考えられる。

真価を問われるのは2024年度以降

以上、JR4社の決算についてまとめてみた。JR東日本とJR九州は業績予想を据え置いたが、上振れる可能性はありそうだ。JR東海とJR西日本は業績予想を上方修正したが、両社とも上期実績の好調分を織り込んだだけなので、下期に運輸収入がさらに伸びると考えれば、なお上振れ余地がある。少なくとも各社とも足元の鉄道利用状況は好調だ。

コロナ禍でどこまで赤字が膨らむか予想もつかなかった決算とは大違いだ。そうした状況と比較しての今期決算は各社とも大幅増収増益となるのは間違いない。むしろ、真価を問われるのは来期決算である。コロナ禍から完全脱却し、持続的成長路線に復帰できるか。経営者の腕の見せ所だ。


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(大坂 直樹 : 東洋経済 記者)