久保建英は、レアル・ソシエダのチャンピオンズリーグ20年ぶりの決勝トーナメント進出を決める活躍。そして直近のラ・リーガ、アルメリア戦でもCKから勝利に貢献した。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、過去から現在までチームの骨格をなす役割を果たしてきた、"レフティ"をテーマに寄稿してもらった。

【久保建英の左足が決定的な役割を果たした】

 チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第4節ベンフィカ戦、予想どおり右ウイングで先発した久保建英は、かつて欧州王者に輝いた経歴を持つ名門クラブを前半のうちに粉砕し、チームが歴史的勝利を収める一役を担った。


久保建英(左)とブライス・メンデス(右)のコンビに注目。レアル・ソシエダの躍進は左利きが支えてきた photo by Getty Images

 相手が3バックで臨んできたなか、久保は足元とスペースの両方でボールを受け、ベンフィカ守備陣にダメージを与える絶好のゾーンを見つけ出していった。なかでも記憶に残るのは、先制点の起点となったシーンだ。右サイドでアンデル・バレネチェアと連係したあと、3人に囲まれながら出したリターンパスは絶品だった。

 久保はさらにバレネチェアが3−0にしたゴラッソでも大きく貢献。危険な香りを漂わせながらドリブルで中に入り、DFを釘づけにして絶妙のタイミングでペナルティエリア手前のミケル・メリーノにボールを渡したのだ。これ以外にもキーパス(シュートチャンスにつながるパス)を3本出し、ラウンド16進出を決めるすばらしい試合となった。

 CLの幸福感や興奮冷めやらぬうちに迎えたラ・リーガ第13節アルメリア戦で、イマノル・アルグアシル監督はW杯予選でアジアへの長旅を控えていたからか、それとも単なるローテーションかは明かさなかったが、久保をベンチに置いた。ミケル・オヤルサバルを右ウイングで起用したがチームが機能しなかったため、指揮官は久保をハーフタイムに投入した。

 重大なコントロールミスが失点につながった久保にとって、今季最低の試合のひとつだったかもしれないが、最終的に彼の左足が決定的な役割を果たしたことも事実だ。ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)が3−1で勝利したのは3本のCKのおかげだった。久保はそのうち2本を正確に蹴り、1本を直接ゴールにつなげ、もう1本でPKを誘発し、勝利を呼び込んだ。

【レアル・ソシエダでは左利きの実力者が常に特別な存在】

 アルメリア戦のパフォーマンスは良くなかったが、久保がその華麗な左足で幾度となく試合を決めてきたことでも証明されているように、レアル・ソシエダではこれまで違いを生み出す左利きの選手が鍵を握る活躍をしてきた。

 ラ・レアルを代表するレフティと言えば、まず1980年代の歴史的なチャンピオンチームの大黒柱ロベルト・ロペス・ウファルテが思い出される。"ル・プティ・ディアブル(小さな悪魔)"の愛称で親しまれ、ボールを持つ姿はエレガントだった。巧みで素早く、相手に致命傷を与えることができ、ウイングにもかかわらずクラブ史上2番目に多い129ゴールを記録している。

 ラ・リーガ(1980−81、1981−82)で2回、国王杯(1986−87)とスペイン・スーパーカップ(1983)で1回優勝。さらに1982−83シーズンのチャンピオンズカップ(CL前身の大会)準決勝進出の原動力になるなど、世界的なスター選手であった。

 そのすばらしい時代から20年後、ラ・レアルは2002−03シーズンにラ・リーガ準優勝を果たしてCL出場権を手に入れ、再びサポーターを熱狂させた。この要因のひとつは、スペイン代表にも選出されたサイドバックのアグスティン・アランサバル、ウイングのハビエル・デ・ペドロで形成された左サイドにあった。

 破壊力抜群のダルコ・コヴァチェヴィッチとニハト・カフヴェジの2トップに合わせるふたりのクロスは高性能で、スペインサッカー史に残るものだ。なかでもCKやFKから直接ゴールを決めることもできたデ・ペドロは、時代を代表する選手のひとりだった。

 そのチームにはまた、ワン・クラブ・マン(1つのクラブだけでプレーした選手)のミケル・アランブルという左利きのMFもいた。"永遠のキャプテン"は公式戦427試合に出場し、CL出場から2007年の2部降格、2010年の1部復帰という激動の時代を過ごした。

 アランブルはわずかな期間ではあるが、左利きの名手として名高いアントワーヌ・グリーズマン(現アトレティコ・マドリード)と、カルロス・ベラ(現ロサンゼルスFC)と一緒にプレーしている。

 高い得点力を備えたこのふたりはその左足で相手DFを翻弄し、何年にもわたってサポーターを楽しませた存在だった。1部復帰からわずか3年でCLに出場し、国王杯で準決勝に進出したが、もしラ・レアルが今のような状態だったら、彼らはもっと大きなことを成し遂げていたかもしれない。

【グリーズマン、ウーデゴール、ダビド・シルバ......】

 グリーズマンは2014年に5400万ユーロ(約86億4000万円)でアトレティコ・マドリードに移籍し、今や世界最高の選手のひとりとなっている。ベラはトップレベルを維持したまま2018年にアメリカに渡った。ふたりは今でもサポーターに愛情とともに記憶されているが、彼らもずっとラ・レアルに愛着を感じている。

 そして近年、新たなプレースタイルを導入したイマノル指揮下のチームで、アドナン・ヤヌザイ(現セビージャ)とマルティン・ウーデゴール(現アーセナル)という、非常にクオリティが高いワールドクラスの選手たちが活躍した。

 前者は5年間在籍し、安定性を欠くこともあったが、すばらしいサッカーを披露した。後者は目まぐるしい期限付き移籍を経たあとで1年間プレーし、トップ下でチームを指揮し、カウンターで決定的な役割を果たして本来の自分を取り戻した。

 2020年夏、ウーデゴールと入れ替わるようにダビド・シルバがやって来た。マンチェスター・シティから獲得できただけでも十分な成果だったが、ラ・レアルを別次元のレベルに引き上げるパフォーマンスを発揮するとは、誰も予想していなかった。

 年齢による衰えを感じさせず、頭の回転の速さはほかの選手の10倍で、必要に応じてタメを作り、スペースが空いた時にはミラクルなパスを出してみせた。試合を決める左足を持ち合わせたシルバは神の祝福を受けた選手であり、古参と新たな選手がミックスされた昨季のチームで、つなぎ役を果たす重要な存在となった。

【久保とブライス・メンデスのレフティコンビ】

 昨季以降ラ・レアルには、今夏退団したシルバ(引退)やアレクサンデル・セルロート(現ビジャレアル)、そしてオヤルサバル、ミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、久保、モハメド=アリ・チョ、カルロス・フェルナンデス、ジョン・アンデル・オラサガスティといった選手たちがいて、特に攻撃陣におけるレフティの割合が高くなっている。左利きは右利きより才能があるとも言われるが、現在成功を収めている理由はそこにあるのかもしれない。

 下部組織出身選手のオヤルサバルはクラブの象徴であり、チームリーダーだ。才能に溢れながらもハードワークを欠かさず、ゴールへの嗅覚に優れている。大ケガから復帰したあと、センターフォワードとして再起を図りつつ、すべての選手にとって完璧なパートナーとなり、久保のこともよく理解し、頼もしい存在となっている。

 ミケル・メリーノはわずかな選手しか持ち合わせていない試合の流れを読む力を備え、あらゆるデュエルに勝てるオールラウンダーな選手。ロングパスの能力はすさまじく、チーム全体に恩恵をもたらしている。

 久保をよく知る我々が、彼に最も合う選手を挙げるとしたらブライス・メンデスだろう。ラ・レアル加入後、飛躍的に進化し、今やスター選手になっている。久保とうまく連係して右サイドの攻撃を恐ろしいものにしている。左利き同士はお互いをよく理解し合えると言うが、このふたりのように繊細なボールタッチの選手たちとなるとなおさらだ。彼らはシンプルな足首の動きだけで、相手守備陣を破壊する能力を備えている。

 ラ・レアルは今季、シルバの後釜としてロシア代表のアルセン・ザハリャンを獲得したが、イマノルはここまで公式戦で10得点7アシストを記録しているブライス・メンデスと久保のレフティコンビに、より大きな信頼を寄せている。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)