【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」<第8回>

◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第7回>>抱く罪悪感「身体にものすごく悪いことをしているのではないか」

 いよいよワールドカップのアジア2次予選が幕を開ける。11月の2試合は、ホームでのミャンマー戦と、アウェーでのシリア戦。これまで積み上げてきたチーム強化の結果が問われる。

 今年3月にスタートした第二次・森保ジャパンは右肩上がりの成長を見せている。9月の海外遠征ではドイツに4-1、トルコに4-2と、強豪国相手を圧倒する試合も演じた。ピッチに立った谷口彰悟は、日本代表の強さをどのように感じていたのか。

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谷口彰悟が守備で気をつけていることは? photo by AFLO

 いよいよ北中米3カ国で開催される2026年ワールドカップに向けた日本代表の挑戦が始まる。

 カタールワールドカップを経て、再びスタートを切った日本代表の活動に参加して感じるのは、チームメイトからひしひしと伝わってくる"自信"だった。

 日本代表は海外でプレーする選手が圧倒的に増え、新シーズンが開幕したあとの9月、10月の活動では、その自信をまざまざと感じた。特に戦うステージが変わった選手や、よりハイレベルな舞台で経験を積んでいる選手からは、わずかな期間でもプレーや雰囲気、たたずまいが「変わった」と、強く感じた。

 UEFAチャンピオンズリーグやUEFAヨーロッパリーグをはじめ、いわゆる欧州の主要リーグでプレーしている経験が、まさに自信を裏打ちしているのだろう。

 プレーはもちろん、言動や行動も含め、日々高いレベルで修練を積んでいることを見せつけられ、同時に頼もしさを感じた。クラブとは異なり、日本代表は久々に会う選手が多いからこそ、そうした変化を敏感に感じ取ることができる。

 それでもなお、彼らはおごることなく、現状に満足しない姿勢や志(こころざし)が、日本代表における激しい競争を生んでいる。限られた期間で行なわれるトレーニングにしても、試合にしても、ひとつひとつのプレーの精度と強度を追求しているところに、ここ最近の"強さ"はつながっている。

 森保一監督のもとで再びスタートを切った日本代表は、過去4年でやってきたことをベースとして継続しつつ、より自分たちからアクションを起こしていくサッカーを目指している。

 トレーニングから、自分たちでアクションを起こしていくところ、相手をどう崩していくかというところに着目し、メニューを落とし込んでくれているように、選手間でもその時々で話し合いながら、修正と発展を繰り返している。その継続により、少しずつ共通理解も深まってきた。

 自分のプレーに焦点を当てると、まず9月の欧州遠征では、ドイツ戦の後半途中からピッチに立った。

 試合前から5バックで戦うことも想定していたが、先発したメンバーで4バックから5バックに変更するのか、メンバー交代を行なって5バックにするのかは、試合の展開、状況によって変わってくるだろうとも予測していた。

 実際、ドイツ戦は後半開始からメンバー交代することなく、システムを5バックに変更し、自分は58分に(鎌田)大地に代わって途中出場した。

 センターバックとして試合途中からピッチに入る緊張感やプレッシャーは、ミスが許されないポジションだけに、より大きい。それが日本代表であれば、なおさらだ。

 そのため、ベンチに座っている時から、常にピッチ内を観察し、チームとしてどういったテンションで戦っているのか、選手ひとりひとりの表情を見たり、言動を聞いたりして、把握できるように努めている。ピッチ内の温度を敏感に感じておくことで、自分がピッチに入ったときも、すぐに同じ温度で試合に入れるようにするためだ。

 この温度、もしくはテンションが、途中出場するうえでは大切で、準備と予測、観察をしていたから、ドイツ戦もバタつくことなく試合に入ることができたと思っている。

 ドイツ戦で試みた5バックについて触れると、うしろが5枚になったことでマークする選手や対応がはっきりし、人に対して強くいける利点があった。

 一方で、うしろが5枚になると、チームの重心が後ろに重たくなり、ラインがずるずると下がりがちになる。5バックの中央で途中出場した自分は、そこを何とか踏ん張り、できるかぎり高いラインでキープしようと心掛けた。ピッチ内でも、そうした意図をみんなが理解していたから、後半を無失点で乗りきるポイントになった。

 また、カタールワールドカップのドイツ戦でも5バックで戦い、その時に感じていた反省をチームとして活かそうとした結果が、4-1という勝利につながったように思う。

 ドイツ戦のみならず、対戦相手や試合展開に応じて、可変しながら戦うことができていることも、日本代表の強みであり、ひとりひとりの能力が向上している証(あかし)でもある。

 実際にドイツ戦とカナダ戦ともに、前半と後半では状況に応じてシステム変更を行なうなどの微修正を図った。大きなシステム変更や細かいポジション変更に対応できているのは、それぞれが多種多様なサッカーに触れ、個人戦術の幅が広がり、戦術理解度も高まっていることが大きい。

 また、日本代表では常に対応力が求められるため、柔軟性を発揮できなければ試合に出られないという競争が、僕ら選手たちの能力や思考を自然と加速させている。

 実際、臨機応変に対応する力は、日本人の魅力や特徴のひとつ。今の日本代表は、それを最大限に活かしたサッカーを目指している。

 試合中は、森保監督をはじめ、ベンチから言われて戦い方を変えることもあるが、ピッチのなかにいる自分たちで状況や戦況を読み、スペースを見つけ出し、対応する場面もある。そうした状況判断力は、代表チームだけでなく、クラブレベルでも必ず求められるプレーだ。

 日本代表は、特にひとりひとりが、「こうしたらうまくいくのではないか」「こうやったらスムーズにいくのではないか」といった意見を出し合い、即時行動に移せる選手が多いから、劣勢に立たされていても巻き返し、相手にペースを握られても握り返すことができている。

 目まぐるしく戦況が変わる試合で、瞬時に意思疎通を図り、適応できることは決して容易くはないが、それが日本人ならば、日本代表ならば、優位性へと昇華させられる手応えを、今、抱いている。

◆第9回につづく>>


【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。