2023年のプロ野球は、コロナ禍の影響により自粛が続いていた声を出しての応援が3年ぶりに解禁され、スタジアムがかつての賑わいを取り戻した。各球団がイベントを再開する中で、斬新なアイディアでファンの注目を集めたのが、横浜DeNAベイスターズ(以下、横浜DeNA)のイベントだ。

 今季は初の交流戦優勝を成し遂げるなど、セ・リーグのペナントレースを盛り上げた横浜DeNAのエンタテインメント部の担当者に、その裏側について伺った。


本拠地でのオープン戦で整列し、ファンが歌う応援歌『勝利の輝き』を聴くDeNAの選手たち(c)YDB

【ファンの声援が開幕ダッシュを後押し】

 2023年の横浜DeNAは「これまでのシーズンで最も多かった」という計14の大規模イベントを開催。各部署の持ち回りで担当する中規模イベントも含めると「ホーム公式戦のほぼ全試合でイベントを行なった1年」と担当者は今季を振り返る。

 企画の花形といってもいい大規模イベントについては、毎年12月頃にエンタテインメントグループに在籍する社員の中から、各イベントを担当する5名を選出。年明け間もない1月から、ゲストへの出演オファーやスペシャルグッズのデザイン、企画内容の詳細について話し合いを進め、約半年後に本番を迎えるケースが一般的であるという。

 さまざまな企画が目白押しの横浜DeNAの主催試合は、3月4日の埼玉西武ライオンズとのオープン戦(横浜スタジアム)で幕を開けた。この日はマスク着用という制限はあったものの、3年間自粛されていた声や楽器の音を出しての応援を解禁。ベイスターズナインらが試合前のグラウンドに整列し、応援歌の『勝利の輝き』に耳を傾けるシーンは感動を誘った。

「かつてのように応援できる日常を待ち望んでいたファンのみなさんの強い思いや、その気持ちに応えようとする選手たちの高いモチベーションを感じました。特に印象的だったのは、応援団のコールに感動する山粼康晃投手の姿です。それ以外にも『応援歌は自分たちにとって特別なもの。歌と共に声援を送っていただけるのは本当にありがたい』と多くの選手に言っていただけたことは、企画を考えた僕らとしても本当に嬉しかったです」

 ファンの大声援を受けたチームは、開幕から4月末まで16勝7敗とスタートダッシュに成功。「今季は試合後のヒーローインタビューで『ファンのみなさんの声援が力になっている』と話される選手が増えたように感じていて、これもスタンドにいらっしゃる皆さんの気持ちが、選手にしっかり届いているからだと思います」と、チームの快進撃を後押しした。

【17人の牧の"影武者"が集合】

 本拠地開幕(4月4日・対巨人)ではキャプテンの佐野恵太が、バックネット裏、スタンド上部の個室観覧席の屋上にあるディスカバリーデッキからワイヤーをつたい、グラウンドのセンター定位置付近に設置されたゴンドラに到達する、派手な"飛行"パフォーマンスを披露。その後も横浜DeNAは、さまざまな工夫を凝らしたイベントでスタジアムを盛り上げた。

「たとえ難しそうな企画であっても、なんとか実現させようとする風土がある。選手のみなさんも僕らのやりたいことに耳を傾けてくださるので、本当に感謝しています」

 チーム一丸で魅力的なスタジアムを作り上げようとする姿勢は、今年3月にMLBから電撃入団したサイ・ヤング賞右腕、トレバー・バウアー投手も例外ではない。

「バウアー投手は、日頃から温かい声援を送ってくださる横浜DeNAファンに対して人一倍強い思いがあるようで、さまざまな文化の違いを受け入れながら、日本にいるファンの前でのプレーを楽しんでいるのが僕らにも伝わってくるんです。

 以前、イベントに向けた写真撮影をお願いした時も、バウアー投手は気さくに応じてくれた。時折『どんな撮影機材を使っているの?』という質問を受けたりしながら、和やかな雰囲気で撮影につき合ってもらえたので有り難かったです」

 そして、今季に実施した企画の中で、特に多くの人の注目を集めたのは「交流戦SERIES2023」(6月16日〜18日)で行なわれた『千葉ロッテびっくり大作戦』だ。

 千葉ロッテを揺動させるために、牧秀悟のそっくりさんを一般公募。「社内でも実現に向けて時間をかけて、検討を重ねた」と言うが、17人の"影武者"の応援に後押しされた"本物"の牧秀悟は、当日も4打数4安打2打点の活躍でチームの勝利に貢献。ヒーローインタビューでは影武者と共に喜びを分かち合った。


牧秀悟(前列左から2番目)のそっくりさん募集に集まったファンのみなさん(c)YDB

「ひとりでも多くの方に楽しんでもらえたらと思って企画を考えているので、僕たちも注目される環境で仕事ができるのはありがたいです」

 その後も好調を維持したチームは、交流戦で初優勝。本拠地で迎えた交流戦の最後戦(6月19日、対北海道日本ハム)は、月曜日の振替試合にも関わらず、約3万2000人のファンがスタジアムに詰めかけた。

「この日の試合は、ポストシーズンのような緊張感が漂っていて、ファンの方の凄まじい声援や熱量に僕たちも圧倒されたことを覚えています。平日にも関わらず横浜スタジアムに駆けつけてくださったファンの皆さんには本当に感謝したいです」

【ライブ中止も湘南乃風とロッカールームで大合唱→後日にリベンジ】

横浜DeNAは屋外の横浜スタジアムを本拠地としていることもあり、イベント開催に向けてさまざまなリスクが伴う。

「当日の天候や延長戦のことを考えると何もできなくなってしまうので、さまざまな状況を想定しながら準備を進めていますし、ゲストの方にも変更をお願いすることがあることはあらかじめお話しさせていただいています」

 4月27日の『BLUE☆LIGHT SERIES 2023 〜SPRING〜』(対ヤクルト)では、試合が延長戦に突入。チームはサヨナラ勝ちを収めたものの、パフォーマンスが許される時間を過ぎてしまったことから、予定されていた湘南乃風のライブが中止になるという一幕もあった。

 勝利を喜びつつも「歌いたかった」(HAN-KUN)という湘南乃風のメンバーは、ファンに向けてアカペラで『純恋歌』を披露。さらに、試合を終えた選手たちと一緒にロッカールームで『睡蓮花』を大合唱する様子は球団公式YouTubeで配信され、大きな反響を呼んだ。

 その後、7月16日の『BLUE☆LIGHT SERIES 2023 〜SUMMER〜』(対広島)で再登場した湘南乃風は、試合後の青く染まったスタジアムで3曲を披露し、リベンジを果たした。


7月16日の湘南乃風によるライブ(c)YDB

「残念ながら試合に負けてしまった(2−3)後だったので不安はありましたけど、多くの方にライブを楽しんでいただけたのではないかと思っております。

 ファンの中には『果たして球場にエンタメは必要なのか?』と疑問を抱いている方もいらっしゃるかもしれませんが、横浜スタジアムで楽しい思い出を作ってもらうことが僕らの役目でもあると考えています。他球団や他のスポーツもエンタテインメントに力を入れていますが、エンタメでも球界一、世界一を目指して、これからも頑張っていけたらと思っています」

 さまざまな感動を巻き起こしたチームはシーズンを3位で終えた。多くのファンの声援を受け、横浜DeNAは来シーズンにさらなる飛躍を目指す。