11月8日、サンセバスチャン。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、本拠地レアレ・アレーナにベンフィカを迎えて、3−1で下している。これでチャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第4節でベスト16進出を決めた。

「スーパーゲームだった」

 ラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督も手放しで称賛する内容だった。

 久保建英にはゴールもアシストもついていない。数字を出したアンデル・バレネチェア、ミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノが、メディアでは大きく扱われるかもしれない。しかし、久保の存在感はむしろ増していた――。


20シーズンぶりのチャンピオンズリーグ決勝トーナメント進出を決めたレアル・ソシエダの久保建英 photo by Nakashima Daisuke

 試合は開始直後から、双方のチームが激しくぶつかり合った。それぞれがボールに食らいつき、セカンドボールにも激しく当たる。どう転ぶかわからない応酬が続いた。

 5分、久保は一度目の右CKを蹴り、速い軌道でニアに落とすボールで相手に脅威を与えた後、二度目の右CKではショートを選択。バレネチェアとのコンビプレーからボールを受けると、なんと3人を引き連れてゴールラインまで持ち込み、完全にフリーになったバレネチェアに戻す。そこからのクロスの折り返しを、メリーノがヘディングで押し込んだ。

 久保が右サイドを切り崩していたことで、味方はそれぞれ優位に攻撃を選択することができていた。

「タケ(久保)はコンプリートな選手だよ。誇張しているわけではない。なんでもできてしまうんだ」

 2003−04シーズン、ラ・レアルでシャビ・アロンソとボランチを組んで戦ったミケル・アランブルはそう絶賛していた。

「スペースを占拠し、突破し、仕上げまでする。フィニッシュするプレーができることは一番大きいが、クロスもうまいし、とにかく攻撃バリエーションが多い。相手と対峙し、勝負するという単純に対人での能力が高いからこそ、たとえ相手が門を閉ざすように守ってきても、それを打ち壊せる。ラ・リーガでも一番、試合を決められる選手のひとり。試合の均衡を崩す、そこでの彼は無敵だ」

 試合の均衡を崩す。その点で唯一無二だった。

【相手の"久保番"はまたも交代】

 一方で、久保はチームプレーヤーとしても絶大な貢献をしていた。間断なくプレスに参加。カウンターでの切り替えも速く、リトリートで全力疾走する場面もあった。

 11分、2点目の場面は象徴的だ。久保は右サイドをやや強引にドリブルで運び、相手ゴールラインで奪い返される。しかし敵陣まで押し込んだことによって、右サイドバックのアリツ・エルストンドは敵陣でボールをカット。相手スローインになるが、先ほど久保を追いかけていた選手は圧力を感じていたのか、弱気を見せてバックパスをミス。これを拾ったオヤルサバルが確実にゴールを決めた。

 久保は右サイドから脅威を与えていた。18分には右でボールを運んで起点になった後、リターンを受けると、一気に2人のディフェンスを緩急の変化でかわしている。クロスの折り返しが、オヤルサバルのヘディングゴールを演出。これはオフサイドで取り消されたが、3点目の伏線になった。

 20分、今度は久保がカットインして2人を引き連れると、この時点で敵の守備陣を混乱させていた。中央のメリーノにパス。さらに外のバレネチェアがメリーノからのパスを受け、シュートフェイントから右足でゴールに突き刺した。

「Irrefrenable(制御できない」)

 スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』は端的に久保のプレーを評価している。

「敵ディフェンスラインにとって、久保は悪夢そのものだった。典型的な『mosca cojonera(うっとうしいヤツ)』で、何度となくサイドでボールを引き出し、カットインする動きやギャップに入れるパスなどでいくつもチャンスを作った。先制点はバレネチェアへ見事なお膳立て。スピードが落ちず、足にボールが張りつくようなプレーで、それが彼を比類のない存在にさせている」

 前半30分、"久保番"だった左ウイングバックのフロレンティーノ・ルイスは、屈辱的な交代を命じられている。左の守備は完全に崩壊。前回の対戦でも、左サイドバックはチェコ代表ダビド・ユラーセクが翻弄され、スペイン代表ファン・ベルナトに代わっていたが、フォーメーションを変えても、人を変えても、久保を止めきれなかった。

「自分に相手が集まれば集まるほど、味方は優位になってゴールに結びつく」

 かつてバルセロナで伝説を作ったアンドレス・イニエスタはそう極意を語っていた。3、4人を自分に引き付け、圧倒的なボールキープやターンからの鮮やかなコンビネーションを生み出す。そのマークに躍起になればなるほど、守備側は白旗を上げたも同然になるのだ。

 久保はゴールもアシストもなかったが、無双だった。たった20分間で、試合の決着をつけた。個人の"止める、蹴る"のクオリティはもちろん高いが、それを周りと結びつける能力が際立っているのだ。

 70分、久保はカルロス・フェルナンデスと交代でベンチに下がっている。後半、1点を返されてペースを失ったことで交代が遅れたが、「温存」に近いだろう。週末にもアルメリア戦が控えているのだ。

 ラ・レアルはすばらしいサッカーで、「CLベスト16」という目標を順調にクリアした。次はラ・リーガで上位からふるい落とされず、勝ち点を積み上げられるかが焦点となる。欧州トップレベルのスペクタクルを見せながら、結果を叩き出しているわけで、それを続けるのは簡単ではないが......久保は強力な切り札になる。