久保建英は「試合の均衡を崩す。そこでの彼は無敵」ソシエダの伝説的MFがその資質を分析
レジェンドが語る久保建英(4)
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の伝説的選手たちにインタビューをすることができた。いずれも下部組織で育ち、主力として時代を担った人物ばかり。ラ・レアルの魂を持つ者たちだ。
彼らには現在のエース、久保建英について語ってもらった。題して「レジェンドが語る久保建英」。レジェンドの視点で久保という人物、プレーを掘り下げる。
11月8日、久保は本拠地レアレ・アレーナでチャンピオンズリーグ(CL)、ベンフィカと戦う。前回のアウェーでの対戦では、久保はゲームMVPを受賞。対面するサイドバックに悪夢を見させた。レジェンドたちはその資質をどう評価しているのか?
第4回は、シャビ・アロンソと中盤でタッグを組み、2002−03シーズンには銀河系軍団と呼ばれて一世を風靡したレアル・マドリードと優勝を争ったMFミケル・アランブルだ。
バルセロナ戦でも評価を上げた久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
「端的な表現を使うなら、『Completo(パーフェクト)』な選手だよ。誇張しているわけではない。タケはなんでもできてしまうんだ」
ミケル・アランブル(44歳)はそう言って、久保建英のプレーを絶賛している。
アランブルは、ラ・レアルの下部組織スビエタで幼い頃から育っている。1997年、ユース年代でトップデビュー。クレバーで質実剛健なボランチで、周りを使う能力に優れ、高い集中力で相手に隙を与えなかった。2002?03シーズン、シャビ・アロンソと組んだ中盤は「最強」と言われ、ラ・リーガ準優勝という成果をもたらした。今もクラブ史上最高のコンビとして記憶されている。2003?04シーズンには、CLベスト16の結果も叩き出した。
そして2012年に引退するまで、ラ・レアルひと筋を貫いたワンクラブマンである。ロペス・レアカルテから引き継いだキャプテンの腕章を巻き、2部に降格したチームを救い上げ、シャビ・プリエトに後継を託した。カップ戦も含めて、427試合出場の数字が輝く。
「自分はラ・レアルというクラブで、誇りを持って生きてきた。ここでプレーできることが幸せだった。タケが何を感じているかは、タケに聞くべきだよ。ひとつだけ言えるのは、今はとてもチームの雰囲気がよくて、人々の期待感が高まっている。満員のスタジアムは最高だよ。そのなかでプレーできるのは、とてもポジティブなことだ」
【ピッチの姿に自信が滲み出ている】
ラ・レアルの伝説的MFは、久保について言葉を選びながら語っている。
「何度も言うけど、タケはコンプリートな選手だよ。スペースを占拠し、突破し、仕上げまでする。フィニッシュするプレーができることは一番大きいが、クロスもうまいし、とにかく攻撃のバリエーションが多い。相手と対峙し、勝負するという単純に対人での能力が高いのさ。だからこそ、たとえ相手が門を閉ざすように守ってきても、それを打ち壊すことができるんだ。
最近はピッチに立った姿に、自信が滲み出ているね。これまではマジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェと所属し、アップダウンはあったけど、それは仕方ない。18歳でスペインにやってきて、とても若かったし、何もかも最初から全てうまくいくはずがないよ。それぞれのチームでやり方があるものだし、若手がそこでずっとベストを出し続けるのは簡単ではないんだ。個人的には、まだ若いのによくやっていると思っているよ。
ラ・レアルではイマノル(・アルグアシル)監督にチャンスをもらって、所属するチームで自信を持ってプレーできるようになっている。その積み重ねによって、才能を爆発させたのだろう。若い選手には、時間が必要なんだよ。
今の久保は、ラ・リーガでも一番、試合を決められる選手のひとりだろう。試合の均衡を崩す。そこでの彼は無敵だよ」
アランブルは、世界最高のMFになったシャビ・アロンソからも尊敬を浴びていたように、人格者として有名である。自らは決して目立つことをしない。実はスペイン語のインタビューもほとんど受けず、プレーで自分を表現してきた。
「タケはスピードを操れる。それは強力な武器だろう。スピードのなかで見せられる技術が高い。その領域に入れる選手は少なくて、敵は当然ながら苦しむだろう。ボールを受け、崩しのドリブルに入り、コンビネーションにつなげ、ゴールに迫る。その作業におけるクオリティがすばらしいんだ。
イマノルとの相性? これは一般論だけど、結局のところ、まずは選手がどれだけのプレーが出せるか、だと自分は思っている。その上で、監督からの信頼を得られるか。その関係が結果に結びつく。
【指揮官の思いきりの良さが後押しに】
逆算すれば、久保が活躍できているわけだから、2人(久保とアルグアシル監督)の関係性はとてもいいということだよ。
まあ、タケが今見せているレベルを保つことができたら、どんな監督だって先発でプレーさせるはずだよ。日本代表でだって、きっと中心選手としてプレーしているんでしょう? 今のタケを頭から使わないなんて、ちょっと考えられない。それだけのプレーを見せているよ。
自分に言えることがあるとすれば、イマノルは若手の抜擢に恐れは感じない指揮官という点かな。その思いきりの良さが、タケにとって後押しになったのは間違いない。そして2年目はさらにレベルが上がっている」
アランブルは、久保に期待を込めるように言った。そこで、かつて中盤に君臨したMFに聞いてみた。
――もし今ラ・レアルの選手だったら、後ろから前線でプレーする久保に対して何を求めますか?
「とりあえず、アドバイスは何もないよ(苦笑)。なぜなら、今のプレーが相当なレベルだから。他はイマノルが修正しているはずだしね。
今シーズンのタケは右サイドが主戦場になっている。でも、左でも、トップでも、トップ下でもいけるだろう。ポジションに囚われていない。特に攻撃ではひとり際立っている。そしてカウンターの時も、相手ゴールから遠いところからでもアクセルを踏んで、猛烈な勢いで迫っていけるんだ。
CLでの活躍を楽しみにしているよ。今の状態を持続させるのは簡単ではないし、難しい大会だろう。でも、健闘を祈っているよ」
Profile
ミケル・アランブル
本名ミケル・アランブル・エイサギーレ。1979年、アスペイティア(バスク)生まれのMF。レアル・ソシエダの下部組織出身で1997年、トップチームデビュー。以来、2011〜12シーズンを最後に現役引退するまでレアル・ソシエダひと筋を貫いた。