黒っぽい車体で知られる元・特急「つばめ」787系は、実は赤色になっていたかも――多くの人が関わる鉄道車両開発の裏側のエピソードが、当時携わった元JR九州社員へのインタビューでわかりました。

計画時の愛称は「REE」 なんじゃそりゃ!?

 JR九州787系といえば、1992(平成4)年に登場した同社のフラッグシップとなる特急電車です。当初は博多〜西鹿児島(現・鹿児島中央)間の特急「つばめ」としてデビュー。工業デザイナー・水戸岡鋭治氏が手掛けた初期の代表作であり、卵型のドーム天井を備えたビュッフェや個室を備えたグリーン車など、「ホテル並みの空間」を目指した豪華な車両デザインは、現代の目で見ても斬新です。


JR九州の787系電車。元々は「つばめ」で使われていたが…(安藤昌季撮影)。

 ただ「787系について、誤解が広まっているように感じています」と話す人がいます。この車両の企画に当時、JR九州の常務取締役 鉄道事業本部長として携わった川粼孝夫さんです。787系の製作秘話についてインタビューしました。

――まずは787系の企画経緯について、教えてください。

 まず、この車両が「つばめ」になることを前提にデザインされたという部分は、誤解なのです。

 水戸岡鋭治先生は、当初787系特急列車の名称を「RED EGG EXPRESS」に、愛称として「REE(リー)」を採用したいという意向をお持ちでした。外観もJR九州のコーポネートカラーである、赤になる予定だったのです。

――「REE(リー)」とはインパクトがありますね。社内の反応はどうだったのですか?

 当時のJR九州は石井幸孝社長でした。石井社長と水戸岡先生と私とで話し合ったのですが、石井社長は「REEでもありなのではないか。後で変えることもできるし」というご意向でした。

 私は、「RED EGG EXPRESS」は日本の列車名としては考えにくい名前だと感じましたし、英語名だとスラングになる可能性もあると考えて、米国の総領事館に電話したのです。先方は「その英語はスラングではないけど、なぜ日本の列車なのに英語名を使うのですか」と尋ねられました。

 私は、それはそうだと感じ、日本語を大切にする列車名を提案しなければと考えたのです。鉄道を代表する特急列車名を考えた時、鳥の名前のイメージもありました。そして調査したところ、九州島内に特急「つばめ」が走っていた時期があったのです。

なぜ車体はグレーになったのか

――「つばめ」は列車名としては、戦前の超特急に遡れる最高の格ですね。

 はい。その当時、JR6社の宣伝会議で、東海道新幹線の新しい列車名は「のぞみ」となり、「つばめ」は使えそうだという流れがありました。そうしたこともあり、JR九州の代表特急に「つばめ」は相応しいだろうとなったのです。

――列車名が「つばめ」となったことで、変わった部分はあるのですか?

 外観塗装が変わりました。水戸岡先生は当初「黒」を主張されたのですが、視認性の関係で踏切などでの安全性が低いということになり、グレーとなったのです(筆者注:「リレーつばめ」の改装で黒味が増し、「36ぷらす3」では水戸岡氏が当初想定していた黒となっている)。

 よい列車にしたいという思いはありましたから、車内のトイレの一部でウォシュレットをつけられないかなど、こちらでも調べ、試行錯誤しました。


全車グリーン車の観光列車「36ぷらす3」の2号車車内(2020年9月、乗りものニュース編集部撮影)。

「つばめ」の運行開始日に、NHKの全国ニュースで「17年ぶりにつばめ復活」として大きく取り上げられ、「つばめ」にしてよかったと感じたものです。その後も「つばめ」に相応しい車両だと、好意的な反応を数多く頂き、嬉しく感じました。

――貴重なお話、ありがとうございました。

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 登場から27年後の2019年、787系は全車グリーン車の観光列車「36ぷらす3」用として6両が改造されました。観光列車ということでビュッフェが復活し、豪華なフリースペース「マルチカー」も設置されています。