日本では6割の夫婦が陥るといわれるセックスレス。「私は結婚して、妻ではなく夫のお母さんになってしまったのかも」と語るのは康子さん(仮名・44歳)です。自分なりにレスの原因が明確になり、夫と話し合いをし、かわいい二人の子どもにも恵まれた現在の心境を教えてもらいました。

「家族になってしまったからできない」と夫に言われて

新婚当初からレスになり、だれにも相談できずにネットの掲示板に悩みを書き込んだという康子さん。同じ悩みを持つ男性の話を聞くうちに「自分は、夫の妻ではなく、お母さんになってしまっている」と気づいた康子さんは、夫に直接、レスで悩んでいる胸の内を話すことにしました。

●どうして私としてくれなくなったの?

この話し合いをしたとき、康子さんは26歳。地元・福井の同級生のなかには、すでに2人目、3人目を出産している人も多く、焦りも感じていたそう。

「ある年の暮れ、同級生から届いた年賀状を整理しながら、ごく自然な会話の流れで、『そういえば、うち、子どもはどうする? 同級生はみんなどんどんママになっているんだけど。どうして私としてくれなくなったの?』と夫に問いかけてみたんです。責めたり深刻なトーンにならないように、ごく普通に話しかけました。そしたら『家族になってしまったから。生理的にできないし、そういう感情も沸かなくなったんだ』って言われて…。まぁ、夫の母親的な存在になってしまったという私の感覚はあながちまちがっていなかったのですが、本人に言われた瞬間は、やっぱり『え!?』ってショックではありました」

けれど、康子さんの夫は「康子だって、自分の弟とか父親とか、肉親に対してそういう性的な目線を持っていたらおかしいと思うでしょ」と続けたそう。それが康子さんとしては、妙に腑に落ちたといいます。

「夫の説明に納得してしまった自分がいました。私に対して嫌いなわけじゃない。お母さん的な役割を求められているわけでもない。もっとポジティブに近い存在になったんだという安心感を得られてホッとした気持ちになりました」と康子さん。

●激務で余裕がなかった夫

それともうひとつ、康子さんの夫が語ったのは自信の仕事環境について。大学院を卒業してから、大手ゼネコンに就職した夫は、当時29歳。現場ではマネージメント業務も任されるようになっていましたが、周囲は、昔気質の職人さんや自分より年上の下請け企業のスタッフたちばかり。常に気を使いながらの現場を切り盛りする日々で、心身共に疲労が抜けないという苦労を初めて打ち明けてくれたといいます。

「私が、自分が好きなインテリア業界でのびのび仕事ができているのは、夫が経済的な支柱となってくれているおかげ。そんな当たり前のことすら、目の前のレスの悩みで忘れかけていました。家庭に仕事を持ち込まない人だから、夫が夜の眠りが浅くて困っていることとか現場のお弁当が同じ味つけで、温かいものを食べたいと思っていても食べに行く時間もないことを知ったのもこのときの話し合いが初めて。大きいものから小さいものまでいろんな悩みを聞きました」

翌日から康子さんはお弁当づくりを開始。夫が帰ってくる時間に合わせてお風呂にお湯をはってしっかり入浴できるように準備をしたり、寝具を少しいいものに買いそろえるなど、快眠できるような環境を整えていったそう。

「夫は『同期の中にはすでに睡眠薬に頼っているヤツもいるから俺も今度病院へ…』なんて言っていたのですが、食事や睡眠環境を変えたら、けっこうしっかり眠れるようになったと喜んでいました。日々、プレッシャーのかかる現場を回している大変さを私に話せたことで、気分も変わったのかもしれません。それ以降も、仕事のことを家で気軽に話してくれるようになって。そしたら自然に夫婦仲もよくなっていきました」

そのずっと後のことですが、康子さん自身も独立。経営の観点にたって、人を雇う立場になり、初めて若い頃の夫の気苦労を実感できたといいます。

夫婦生活がなくても、幸せな家族になれた

夫の仕事が忙しくない時期を見計らって、タイミング法を実施し、29歳の時に1人目を、33歳の時に2人目を出産しました。

「二人とも子どもは絶対に欲しいという気持ちが一致していたので、性的な欲求というより、子づくりのためと割りきって夫行為をすることに抵抗はありませんでした。そして2人目を産んでからは、もう夫との行為がないまま現在に至ります。子どもをつくるために義務的にすることに対していろんな賛否はあるかもしれませんが、うちの場合はむしろ自然なこととして受け入れられました。
私は夫以外の男性を知らないし、ほかの人としたいという欲望もありません。全部子どもへの愛情にきり替えて、仲よく4人暮らしをしています。それですごく幸せです」

●結婚当初はケンカもたくさんしたけれど…

現在、44歳となった康子さんは福井の実家近くに家を買って、家族4人で仲よく暮らしています。休日は庭でBBQをすることが楽しみだと語ります。

「結婚当初、夫があんなにドン引きしていた福井のご近所づき合いですが、今では夫もすっかりなじんでいるんですよ。うちの子が自転車で転んでケガしてきたときも、畑仕事をしていた近所のおっちゃんがすぐに助けてくれて手当してくれて、『こういう場所で子育てできて本当に安心だ』ってしみじみ言っていました。『つくりすぎたからあげる』といって隣のおばちゃんにおかずをもらったときは、『すごくおいしかった〜!』って自分からお礼や世間話をしに行ったりしているほど。『これは子どもの結婚式にご近所さんをバスをチャーターして呼びたくなる気持ちがわかる』って今更言われたんですが、もう笑ってしまいますよね。『もうそういう時代じゃないから!』って私のほうが真顔で反論しちゃいました」

●レスは愛情不足ではない

若い頃ってする元気もあるし、行為は愛情表現のひとつくらいに思っていたから、「なんでしてくれなくなったの?」という寂しさがあふれたという康子さん。がんばって傷ついた分、今はあのとき夫が語っていた“家族愛”に満たされていいます。
「なにに満足できるかは、その人にしか分かりません。うちは子どもができてから、全然海外に行けなくなってしまったので、もう少し成長して、手が離れたら『またどこか2人でヨーロッパあたり行きたいね』とも話していて、その日が来ることが今の目標であり夢でもあります。このままレスの人生でも、私は大丈夫。心からそう思えるようになりました」