東京都台東区、浅草の商店街の一角にある「佃煮処 千草屋」の店主として94歳で元気に働く草間千恵子さん。70歳で、呉服屋からつくだ煮屋に商売替えをした千恵子さんですが、初めて働いてからはなもう80年以上仕事を続けています。そんな千恵子さんに今回は、楽しく働き続けるコツや、人生をより充実させるための秘訣をお聞きしました。

94歳、働き続けて80年以上。仕事を継続する秘訣

初めて働いたのが14歳、今のつくだ煮屋の前の呉服屋では50年、トータルで80年以上現役で働き続ける千恵子さんに、「仕事でミスをして、落ち込んだ場合はどうしますか?」とたずねてみました。1つの仕事を50年以上続けるコツとはなんなのでしょうか。

【写真】辰巳ゆうとさんのポスターを飾った千草さんのお店

●大好きなドラマを見れば元気になれる

「仕事で、失敗をしたときの対処法ねえ…。私、切り替えの早さには昔から自身があるの。それに、仕事の失敗を『仕事で挽回してみせよう!』なんて思っちゃダメよ。そうね、私は韓流ドラマの恋愛ものをよく見るの。恋愛ドラマのときめきは素晴らしい刺激になるし、『いくつになってもときめきを感じられる、そう思えるできる自分でいなきゃ』とも思えるの」

千恵子さんの、「どんなものからも吸収しよう」という姿勢は年齢を重ねても衰えを知りません。

「なによりドラマのセリフがいいのよ。恋愛ものでもそうじゃなくても、若い人たちが発する言葉からなにかしら学ぶものがあるの。それが落ち込んだときには励ましてくれるし、好奇心を掻き立ててくれたり。ああ、こんなものの見方もあるんだなって勉強させてもらえる。私、こう見えて物覚えもいいのよ。いちばん刺激を受けたセリフ? ええとね……、あれれ、なんだっけ(笑)」

「仕事に関係のないところから、頑張れる、踏ん張れる力をもらう」と、お茶目に笑う千恵子さん。お孫さんからドラマや映画の配信サービスのネットフリックスの操作を教えてもらい、気になったものはご自身でマイリスト(お気に入りフォルダー)に登録するのだとか。さらに91歳でスマートフォンデビューも果たしたそう。その好奇心と挑戦する姿勢が、とにかく恰好いいのです。

●「ときめきは最高の刺激!」94年の人生をより充実させた、“推し活”とは

ドラマや映画から人生を楽しく生きるコツを吸収しつつ、同時に“推し活”もしているそう。好きな歌手を応援する際はテレビや動画を見るだけではありません、94歳といえど、コンサートにも足しげく通います。そのための体力づくりも欠かしません。

「コンサートに行くのにも、体力が必要でしょう。どうせ行くなら、自分の足で行って応援したいの。今までは近くのコンビニまで歩いていましたが、最近は歩行器を手に入れちゃった。だから今までよりもちょっと遠くまで行けるのよ。目標はこの秋のコンサート。歩くわよ〜!」

毎日お孫さんと、歩行器を使ってせっせとトレーニングをしている千恵子さん。働いて、推して、また働いて。お店と直結しているご自宅のリビングで体を休めていても、お客さんがくると「いらっしゃい」とひょっこりと素敵な笑顔で出迎えてくれます。

●食もオシャレも気を抜かない。新しいことを求めて

千恵子さんの行きつけのお店やお気に入りの場所はありますが、今もお孫さんやご家族と知らないお店に飛び込んではお気に入りの味を探し求めています。

「年齢なんて関係ないわよ〜。だって守りにはいっちゃってなにもしなくなったら、毎日がつまらないじゃない。失敗するかもしれないけど、それは失敗じゃなくて経験なんじゃあないかしら。『あら、これおいしい』とか、『あたしったら、こういう食べ物も好きなのねえ』って発見もあるし。なにより刺激になるの。楽しいわ。『今度はどこに行こうかな』『今日はなにを食べようかな』って、毎日おしゃれをして、いろんなことに挑戦するの。毎晩寝るときにね、『明日はどんな一日にしよう』ってワクワクしちゃう」

推し活に夢中になっているそんな千恵子さんの様子を、お孫さんの麻咲子さんがSNSに上げ、動画は“大バズり”。ネットを中心に話題を集めました。

推し活も、仕事も、食やファッションも。すべてを全力で楽しみます。

ご家族が運営するご自身のYouTubeチャンネル『千草屋のおばあちゃん』では、「現役店主94歳の毎日違うコーディネート7days(一日撮り忘れたので6days)」動画や、「94歳の大食いVlog」「命がけだよ、推し活は」「ついに94歳が25歳の推しに認知してもらった!」動画など、公開中です。もちろんご家族の協力があっての活動ですが、新しいものを受け入れ、そして取り入れるそのパワーは圧巻です。

「何度も大病を繰り返したり、いろんな試練も乗り越えてきたけれど、それでも働くことが私の元気の源なのよねえ。お店が人生そのもの。お客さんに『また来るね!』と言ってもらうのが本当にうれしくて。

●好奇心があってこそ!

今後の目標は、死ぬまで元気にお店に立つこと。それと、好奇心はなくしちゃだめ。好奇心があれば先は明るい。そして、今自分の周りにいる人に感謝をすることですね。私がすごいわけじゃなくて、周りの人に恵まれているだけなんだから」

取材中も、遠方からきた“千恵子”お客さんを笑顔で出迎え、会話をゆっくりと楽しむ千恵子さん。全国から、年齢性別問わず“千恵子ファン”がお店に訪れます。

好奇心を持ち続けて、挑戦をやめない。そして、感謝を忘れないこと。働き続けて84年。今日も浅草の商店街の一角に、千恵子さんの軽快な笑い声が響きわたります。