ワーナーブラザース(Warner Bros)の映画『バービー』(Barbie)が7月21日から米国公開され、Gap(ギャップ)や百貨店チェーンのブルーミングデールズ(Bloomingdales)といったブランドが、バービーの昔ながらの知的財産(IP)をマーケティングツールとして活用し、映画だけでなく自社のさまざまな商品の話題作りに励んでいる。

おかげで、バーガーキング(Burger King)のピンク色のバーガーやラガブル(Ruggable)の限定ラグなど、「バービーコア」なアイテムをさまざまな場所で見かけるようになった。バービーコアとは、バービー人形のピンクの色合いを日常生活に取り入れようとする最近のトレンドのことだ。

バービーの手法が新たな基準に?



マーケティングパートナーのあまりの多さに食傷気味の人も出てきそうだが、マーケターはさまざまなタイアップ商品の販売やマーケティングキャンペーンが、投資に見合ったリターンをマテル(Mattel)傘下のバービーブランドとそのブランドパートナーにもたらすと考えている。

とはいえ、この積極的なマーケティング施策が、バービー人形だけでなく、映画やタイアップ商品の売上をどれだけ押し上げられるのかについて疑問視する声もある。また、バービーの手法がハリウッド映画のIPを利用したマーケティングパートナーシップの新たな基準となるのか、例外的なケースに終わるのか判断しかねている人もいるようだ。

「考えつく限りの商品に手を広げているという意味では、やり過ぎのようにも感じられる」と、広告エージェンシーのジャニュアリーデジタル(January Digital)でプレジデントを務めるサラ・エンゲル氏は言う。「(タイアップ商品が)あらゆる棚、あらゆる場所に見られる状況だ」。

カルチャーの融合は失敗もある



マーケターや業界アナリストのなかには、提携先ブランドの規模によっては、消費者がいずれハリウッドのIPを利用した過剰なマーケティングに慣れてしまうと考える人たちもいる。

だが、「マーケターにとって、バービーはノスタルジーを感じさせ、安全と見なせるブランドだ」と、スパークス&ハニー(Sparks & Honey)でカルチャーストラテジーディレクターを務めるダニ・ティボドー氏は言う。そのうえで、バービーのエアビーアンドビー(Airbnb)などとの提携を、人々にブランド体験をもたらす素晴らしい事例として挙げた。これに対し、「保険会社のプログレッシブコーポレーション(Progressive Corporation)や、飲料ブランドのリプトン(Lipton)との提携は、バービーやそのオーディエンスとの繋がりをもたらさない例だ」と、同氏は指摘している。

「バービーの映画とのタイアップが、どのブランドにとっても適切な取り組みだとはいえない。すべてのブランドのカルチャーが(バービーの)カルチャーと一致するわけではない」と同氏は語った。

同様に、エンゲル氏は「マテルのライセンス戦略やコラボレーション戦略が、マーケターにこのブランドとの提携を促している」と指摘した。どの映画にも当てはまることかもしれないが、バービーならではのものもある。だが、ブランド各社はバービーが好きな消費者だけでなく、嫌いな消費者にもメッセージを発信している。

「マーケティングプランにはあらゆるタッチポイントを含める必要があり、『これまで通りのやり方をしていれば、公開した予告編をみんなが見てくれるようになる』と思える状況ではなかった」と、エンゲル氏は言う。

SNS上のバズりが映画の視聴に繋がる



データインテリジェンスプラットフォームのスナックコンテント(Snack Content)によれば、バービーに言及したコンテンツの数は、昨年1年間でYouTubeでは80%増、TikTokでは191%増加したという。また、「#Barbie(#バービー)」というハッシュタグが使われた動画はおおよそ90億回以上再生されたようだ。今年の上半期には、TikTok、YouTube、およびインスタグラムの「リール(Reels)」で、#Barbieのハッシュタグが昨年より145%多く使用されている。

こうした利用の増加もさることながら、ソーシャルメディアでのマーケティング施策は、映画への関心も高めているようだ。ユナイテッドタレントエージェンシー(United Talent Agency)がデータ、リサーチ、デジタル戦略を調査した結果をまとめた四半期レポート「UTA IQ」によると、バービーを映画館で観ることに関心を示したZ世代とミレニアル世代の3分の2が、そのきっかけとしてバービーのミームを挙げていた。

また、消費者がインフルエンサーやデジタルクリエイターの投稿をきっかけに映画を観るなど、「インフルエンサーとのパートナーシップはコンテンツマーケティングの有効な戦略になっている」と、エンゲル氏は言う。同氏がその一例として挙げたのは、ファッションインフルエンサーのアリックス・アール氏(フォロワー数は550万人)で、アール氏がロサンゼルスでワールドプレミアの当日に投稿したコンテンツは、本稿執筆時点で250万人以上の視聴者を獲得している。

コラボ相手の厳選はリーチ拡大を逃す?



マーケターが指摘しているように、スーパーマリオブラザーズ、ナイキ(Nike)、チートス(Cheetos)など、昔ながらのIPを活用した映画が今年初めに公開されたときにもマーケティング施策は展開されていたが、その規模はバービーほどではなかった。これらのブランドは、コラボレーションやライセンス供与の相手をより厳選しており、通常レベル以上の展開ができなかったのかもしれない。

インフルエンサーマーケティングプラットフォームのグリンテクノロジーズ(Grin Technologies)でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるアリ・ファザル氏は、任天堂が同様の取り組みをしなかったのは「失敗」だとしているが、そうした取り組みにはリスクもある。ブランドは投資に見合ったリターンを求めており、すべてのブランドが自社のイメージを損なう可能性のあるトレンドや、インフルエンサーキャンペーンに参加するリスクを受け入れているわけではないからだ。

「彼らはブランドを厳しく管理したがるが、今日の状況では、それは得策ではない」と、アリ氏は任天堂に関して述べている。「人々がメディアを消費する方法は多様に分散され拡大している今、ブランドのイメージやレガシーを厳しく管理し続ければ、十分な数の人に作品を知ってもらうことがますます困難になるだけだ」。

コンサルティング会社プロフェット(Prophet)のプラクティスリーダーであるユニス・シン氏は、ブランドのIP活用にはリスクもあるが、バービーの大規模なマーケティングキャンペーンはマーケティング業界に大きな変化をもたらすものであり、その変化を受け入れるかどうかは映画会社次第だと考えている。今後は、「ブランド各社がこうした変化に注目し、バービーの興行成績やソーシャルメディアでのインプレッションを参考に、自社版の大規模なマーケティング施策を展開するようになる」と、同氏は予想している。

「彼らがこのようにさまざまな分野を選んでいるのは、『ここに来れば、ユニークなブランドコラボレーションでオーディエンスにリーチし、一般の人々にリーチできる』ことに気づいたからだ」と、シン氏はいう。「彼らは大勢の人々にリーチしようとしている。そして、これが今日の世界でのやり方なのだ」。

[原文:Is this Barbie world actually fantastic? Marketers question whether the movie marketing is oversaturated]

Julian Cannon(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)