「即レスする人=仕事がデキる」は大間違いである…一流コンサルが"返事をする前"に必ずやること
※本稿は、相良奈美香『行動経済学が最強の学問である』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■人は「サービスの内容」よりも「かかった時間」で評価する
いかに時間をかけずに効率よく働くかは、今も昔も変わらないビジネスパーソンの課題となっていますので、生産性が求められる時代、ぜひ行動経済学の理論を活用してほしいと思います。
なぜなら、行動経済学とは「人間の行動の原理」を解明する学問だからです。これがわかれば、自分という人間を動かすことも可能になります。
しかしながら、「あえて時間をかけたほうがよいケース」もありますので、挙げておきます。それが、行動経済学の理論の一つである「デュレーション・ヒューリスティック(Duration Heuristic)」が働いてしまうケースです。
デュレーションは「期間」や「時間」などの意味。ヒューリスティックは、直感的、瞬間的にある判断をしてしまう認知のクセです。つまり、デュレーション・ヒューリスティックとは、「サービスの内容よりも、かかった時間で評価してしまう認知のクセ」のことを指します。
■「解錠3分で2万円」は妥当か
具体例を出しましょう。例えば、あなたはオートロックのマンションに住んでいるとします。あるとき、鍵を室内に置いたまま外に出て、ドアを閉めてしまいました。家族も皆外出しているし、どうやっても家の中に入れない。仕方なく専門の技術者に来てもらい、技術者の手にかかればものの3分で解錠できましたが、料金として2万円かかりました。
このときあなたはどう感じますか? 「たった3分で2万円も取られてしまった」と思う方が大半でしょう。
しかし、よく考えてください。合理的に考えれば、時間が短かろうが長かろうが、「鍵を開けてもらう」という受けるサービス自体は変わりません。それにもかかわらず、かかった時間であなたの評価は変わってしまう。これは実に非合理的です。これがデュレーション・ヒューリスティックです。
■本当に「損をしている」のか
私がお世話になっているトロント大学のディリップ・ソマンらの実験でも、時間がかかったほうが、手際よく鍵を開けてくれたときよりも、もっと価値があると感じるという結果が出ています。効率から言うと、短い時間で開けてもらえたほうがよいので、非合理的な結果です。
デュレーション・ヒューリスティックは、みんな持っているもので、「なくそう」とするよりも「避ける、上手く付き合う」というのが賢明なやり方でしょう。自分がサービスを受ける側であれば「損をしたと思うのはデュレーション・ヒューリスティックのせいだ。もっと結果に注目しよう」と考えればいいでしょう。
逆に自分がサービスを提供する側に立ったときは、顧客にも「かかった期間が長いほど価値がある(逆に短いと価値がない)」と思ってしまう認知のクセがあると理解して、対応することも時には必要です。

■素早い対応をしたらクレームが発生した
例えば、私がコンサルティングを始めた頃の話です。大抵のプロジェクトは何百時間という膨大な時間と労力をかけるものですが、稀に「この案件ならすぐにソリューションの提案ができる」というものもありました。
そういう際はすぐにクライアントにレポートを提出していました。行動経済学の定番で考えれば迅速にクリアできるケースがいくつかあったためです。
ところが、あるクライアントから「短い時間で簡単にできるような提案だったら、もっと料金を下げてくれないか」というクレームが入りました。
クライアントの依頼からレポートの提出までは確かに短時間ですが、私が大学院や起業でかけた膨大な時間と労力の蓄積、また普段から常に新しい文献に目を通す努力をしている結果です。しかし、それは先ほどの解錠のプロフェッショナルのスキルと同様、一般の人にはなかなか理解されないことです。
こういったときには、すぐに解決法の提案だけするのではなく、きちんと時間をかけて、ソリューションの裏側にある理論などを資料を通して説明し、どのような経緯で結果にたどり着いたかと、丁寧に説明してから提案するといいでしょう。それにより、顧客に「こんなに一生懸命考えてくれたんだ」と理解してもらえます。
■「早く答えを出すこと」だけが正解ではない
これは迅速さが求められるような場合にも適用されます。つい先日、顧客企業のCEOから突然電話連絡があり、「前に話した商品開発の件だけど、新しい問題が出てきて幹部で議論している。ぜひ今すぐ意見を聴かせてほしい」と言われたことがありました。このような場合、その場で答えを出さなければなりません。

仕事を始めて間もない頃は「お客さまは忙しいのだから、とにかく早く答えを出す」ということに集中しすぎ、とにかく「イエス」か「ノー」の答えから切り出していました。
しかし経験を積んだ今では、「以前お話を伺ってから、いろいろと考えていました。その結果……」と、結論に至るまでの思考の過程を説明し、「熟考に熟考を重ねて、行動経済学の理論に沿い意見を述べています」と、しっかりと伝えています。
また、最初にひと言加えることで、突然の電話であっても自分の頭の中を整理する時間ができて、一石二鳥です。
■時間をかけると「ちゃんと考えてくれている」と思われる
これは顧客に対してだけでなく、社内の相手でも同じです。例えば、メールで部下から「接待に先方の課長まで招待するべきか悩んでいる」と相談があったとします。相手にとっては悩ましいことかもしれませんが、より経験のある自分にはすぐに解決策が浮かぶ。
こういった際、1分でも早いほうがよいだろうと思って「イエス」か「ノー」ですぐに短く返信してしまいがちです。しかし、この対応だと、相手は「真剣に取り合ってくれてないのでは」と思ってしまう可能性があります。
こういった際も、あえて時間をかけて、どうしてそういうアドバイスになったかの説明を加えて返信してみましょう。そうすることで、「ちゃんと考えてくれている」と、部下の満足度がアップするはずです。またその説明は、部下にも良い勉強となり、次の悩みにも生かせるでしょう。
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相良 奈美香(さがら・なみか)
行動経済学博士
行動経済学コンサルタント。オレゴン大学卒業、同大大学院 心理学「行動経済学専門」修士課程および、同大ビジネススクール「行動経済学専門」博士課程修了。デューク大学ビジネススクールポスドクを経て、行動経済学コンサルティング会社であるサガラ・コンサルティング設立、代表に就任。その後、イプソスにヘッドハントされ、同社・行動経済学センター(現・行動科学センター)創設者 兼 代表に就任。現在は、ビヘイビアル・サイエンス・グループ(行動科学グループ、別名シントニック・コンサルティング)代表として、行動経済学を含めた、行動科学のコンサルティングを世界に展開。
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(行動経済学博士 相良 奈美香)
