プロ野球の「二刀流」について語った山本キャスター

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球界を代表する選手のみが出場できる夢の舞台、それが7月12日に行なわれる「MLBオールスターゲーム」です。注目の大谷翔平選手は、DH部門でアメリカンリーグ最多の約92万票を獲得し、投手と打者での出場が期待されています。

ただ、投手と打者で活躍することだけが二刀流なのでしょうか。今回は、私が思う「もうひとつの二刀流」についてお話しさせてください。

大谷選手の活躍で注目を浴びた二刀流ですが、日本でも高校野球では「エースで4番」を担う選手をよく見ます。一般的に、小学生から中学生、高校生になるにつれてポジションはどんどん狭まり、自分のポジションが固定されていくもの。固定したほうが、そのポジションに特化した練習ができて専門性が高められるからです。

プロ野球では、投手から野手に転向して活躍する選手や、バッティングがいい投手などはいました。でも、シーズンを通して投手と打者の両方で活躍したのは、大谷選手が初めてと言っていいでしょう。

大谷選手のように何でもできてしまう選手がいると、「あのレベルまで達していないと二刀流をやってはいけないのか......」と思ってしまいそうですが、自分がやりたいことをやって、球団が戦力として認めてくれるなら、どんどん挑戦してもいいんじゃないかなと個人的には思います。

実は、投手と野手というパターンがこれまでいなかっただけで、プロ野球では他のパターンでの二刀流でプレーする選手がいます。

たとえば捕手(内野)と外野の二刀流。ヤクルトの内山壮真選手は捕手としてドラフト2位で入団したものの、外野も守ることができ、その外野守備のセンスを高津臣吾監督が絶賛したこともありました。

最初は怪我やコロナ禍で離脱者が多かったことや、将来的に「打てる正捕手」として育てるために外野でも起用されることになったわけですが、もちろん本人の野球センスがいいということもあるのでしょう。予想以上にハマって、今では捕手で出場しない時は外野として活躍しています。二刀流は内山選手のプレーヤーとしての幅を広げましたね。


みなさんは「もうひとつの二刀流」と聞いて誰が思い浮かびますか?

選手兼任コーチ(あるいは監督)という形の二刀流もあります。

近年で記憶に残っているのが、ヤクルト古田敦也選手兼任監督。古田さんといえば、理論的かつ熱血指導が有名でしたから、ファンとしては指導者に専念していただきたかったという思いもありますが、「代打、俺」は球場を大いに沸かせましたね。

また、オリックスの中嶋聡監督は現役時代に9年もの間、選手兼任コーチを務めていました。現役生活の終盤は出場機会こそ多くなかったものの、若手育成のために、絶対にベンチにいてほしい選手だったのでしょう。技術、頭脳、人柄。兼任コーチという役職には、球団の「手放したくない」という思いが込められているように感じます。

現在、ヤクルトのバッテリーコーチを務める嶋基宏コーチも、現役最後の年は選手とコーチ兼任でした。選手としては2試合の出場でしたが、コーチとして後進の育成に心を配っていたのだと思います。それがあったからこそ、現在のバッテリーコーチとして活躍があるのかなと。選手兼任コーチは、球団の中の"出世コース"といえますね。

しかし、二刀流で活躍する方たちは、お仕事が倍になるので大変そうですね。メジャーでは投手が先にキャンプインして、そのあとに野手が合流するのが一般的ですが、大谷選手はキャンプの練習も倍になっていそう。

メジャーで重視されるWARという指標があるのですが、「そのポジションの他の選手に比べて、どれだけ勝利数を上積みしたか」を統計的に推計した指標で、MVP選出の際も指標にされます。大谷選手の場合、投手と野手の数値を単純に合算したらダントツですが、そうしないんですよね。なんとも不思議に感じます。

二刀流を目指している選手は、年俸が倍になることを狙っているわけではありません。少しでも試合に出るチャンスを増やしたいという思いがあるのでしょう。もしかすると二刀流の選手は、打って走って守る、野球のすべてを少年のような心で愛する人なのかもしれませんね。

それではまた。

★山本萩子(やまもと・しゅうこ)
1996年10月2日生まれ、神奈川県出身。フリーキャスター。野球好き一家に育ち、気がつけば野球フリークに。
2019年より『ワースポ×MLB』(NHK BS1)のキャスターを務める。愛猫の名前はバレンティン

構成/キンマサタカ 撮影/栗山秀作

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