例年、夏から秋にかけて回数が増えるバードストライク。飛行機と鳥が衝突すると最悪、墜落にもつながりかねない危険な事象を避けるために、飛行場などではどういった対策を行っているのでしょうか。

コロナ禍前は平均1500件あまり発生

 航空機と鳥が衝突する「バードストライク」。双方の速度差は時速数百キロにもなるため、気付いても避けることはできず、鳥の場合はほぼ即死、飛行機も衝突した場所によっては重大なダメージを受けてしまいます。

 国土交通省が毎年公表している「バードストライクデータ」によると、日本では例年6月から鳥の衝突件数が増え、夏から秋にかけて数多く発生する傾向にあります。そこで、バードストライクを避けるため、どのような安全対策が採られているのか、アメリカと日本の例を見てみましょう。


航空自衛隊のブルーインパルス。バードストライクに見舞われたこともある(画像:航空自衛隊)。

 前出の「バードストライクデータ」によると、2021年度には1074件のバードストライク、そして一歩手前のニアミスが685件発生しています。コロナ禍で航空機の便数が減る前、2019年までのデータを見ると、平均で1500件あまりのバードストライク、600件あまりのニアミスが起きていることがわかります。

 鳥が飛ぶのは高さ数百m程度ということもあり、バードストライクが発生しやすいのは着陸滑走時がトップで26.8%、次いで着陸進入中(20.2%)と離陸滑走中(20.0%)がほぼ同率で並び、この3つで全体の約3分の2を占めています。

 ちなみに、2012年に開催された航空自衛隊の入間基地航空祭では、アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の展示飛行中に2番機がバードストライクに見舞われ、飛行を中断して緊急着陸する事態が起きたこともありました。

 旅客機や軍用機の場合、設計段階でバードストライク対策が組み込まれており、1羽分の鶏肉を空気銃で撃ち込んでも、風防ガラスは割れないようになっています。しかし、鳥の大きさや当たりどころによっては損傷してしまうことがあるため、事故を未然に防ぐ取り組みが飛行場周辺で実施されています。

鷹匠の協力も仰いで安全を確保

 バードストライクを防ぐためには、基本的に鳥を飛行機に近づけないこと。飛行場の敷地内には、ガスや灯油で軽い爆発音を発生させて鳥を追い払う装置が設置されています。外から飛行場を眺めていると、時折「ボン!」という作動音を耳にすることがあります。

 とはいえ、鳥も頭がいいので、機械だけでは「害がない」と学習して戻って来てしまうことも。こういった場合には、人間の出番です。

 アメリカでは、バードストライクなどを「Bird/Wildlife Aircraft Strike Hazard」、略して「BASH」と総称しており、農場における食害対策を担当する農務省の野生動物部門と連携して、飛行場から鳥などを効果的に遠ざける対策を実施しています。

 鳥の習性や生態を知り抜いた専門家らの知見によって、空砲やレーザー、鳥の嫌う周波数の音波で追い払うほか、鷹匠にも協力してもらい鳥たちを追い出していきます。彼らは最終手段として、捕獲して飛行場から離れた安全な場所に「強制移住」させるといったことも実施します。


爆発音による鳥防除装置(画像:アメリカ空軍)。

 日本の空港でも、これに類似した「バードパトロール」という係員が巡回する方法での防除が行われています。これは、1982年に羽田空港で始めたのを皮切りに、現在では北は新千歳空港から南は那覇空港まで、国管理の18空港で導入されています。導入した空港では、未実施の空港と比較してバードストライクの発生率が半減するという効果を挙げているといいます。

 バードストライクは、人の文明と野生の環境が重なり合うことで発生してしまう不幸な事故。お互いが安全に暮らすために、今後も専門家らが知恵を絞り、新たな手段が生み出されるかもしれません。