西武線の終着駅である西武秩父のひとつ手前の横瀬駅。ここを始発とする“下り”の西武鉄道の各駅停車が、土休日に1本だけ設定されています。一体どんな列車なのか、実際に乗ってみました。

西武の駅には停車しない西武の列車

 西武秩父線には、土休日に下り1本のみというレア列車が存在します。終着駅である西武秩父のひとつ手前、横瀬駅(埼玉県横瀬町)を午前10時51分に出発する“下り”の各駅停車です。西武線内を走る区間はわずかしかありません。
 
 しかも、この列車は「急行」運転を行います。西武秩父駅に隣接する秩父鉄道の御花畑駅(同・秩父市)に乗り入れ、そこから秩父鉄道線内を急行運転して長瀞駅(同・長瀞町)を目指すのです。ちなみに秩父鉄道の急行は有料列車ですが、この「急行」は追加料金不要で乗車できる点も、ユニークな列車といえるでしょう。


横瀬駅始発の長瀞行き「各駅停車」(2023年5月、安藤昌季撮影)。

 ではどんな乗客が利用しているのでしょうか。池袋駅を午前9時30分に発車する特急「ちちぶ9号」を利用すれば、横瀬駅へ10時48分に到着しますから、この列車の乗車には便利です。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は早速、横瀬駅に向かってみました。

 特急「ちちぶ9号」で横瀬駅に到着すると、すでに向かいのホームに「各駅停車 長瀞行き」が停車していました。乗客はほぼゼロでしたが、特急から40人ほどが乗り換えました。ちなみに乗り換え時間は3分。のんびりしていると出発しますので、自販機での買い物や写真撮影などは手早くした方がいいでしょう。

 車両はボックス式のクロスシートを備えた西武4000系電車です。追加料金が不要な列車ながら、かつては池袋駅から秩父鉄道線内への長距離運用をこなしていたこともあり、トイレが設けられています。和式トイレというところに昭和生まれを感じますが、設備があることには安心感があります。

 列車は終着駅である西武秩父のすぐ手前まで行くと、先ほどまで乗車していた「ちちぶ9号」に衝突するのではないかというくらい近づいてから、分岐線を伝って秩父鉄道線に入って行きました。10時58分、御花畑駅に到着。旅客扱いの点では西武秩父駅と同一のため、徒歩乗り換えも可能な駅ですが、秩父鉄道の駅ですから「西武鉄道の列車なのに西武線内の途中駅に停車しない列車」なのです。

有料急行「秩父路2号」などよりも速い

 御花畑駅で列車の表示を見ると、「各停 長瀞」のまま。普段はここから「急行」表示に変わるはずですが、何か手違いがあったようです。ただ、西武秩父線内に停車駅はないのですから、横瀬始発については最初から「急行」表示でよいと思うのですが。

 驚いたことに、御花畑駅からは70人以上が乗車してきました。先行していた「ちちぶ9号」から、ここで乗り換える意味はありませんし、そもそも西武秩父駅から5分で乗り換えるのは難しいので、地元の利用者が多いのでしょうか。


西武秩父駅の手前で秩父鉄道線へ。先ほどまで乗っていた特急「ちちぶ9号」をかすめるように転線(2023年5月、安藤昌季撮影)。

 実際、この料金不要ながら急行運転する「横瀬始発長瀞行き」は便利な列車です。御花畑〜長瀞間を17分で走行しますが、これは有料急行「秩父路2号」の19分、「秩父路4号」の18分よりわずかに速く、同区間を最速走行します。車両も、秩父鉄道の料金不要列車は一部の例外を除きロングシートですから、ボックス型クロスシートの4000系は、有料急行に近いグレードです。

 比較する意味はほぼありませんが、秩父鉄道のSL列車「パレオエクスプレス」にも使われている、かつての国鉄急行形12系客車の座席間隔は1580mmです。この4000系は1640mmですから、「国鉄急行よりゆったりとしたクロスシート」だと思うと少し豪華な気分になれます。

 10時59分着の秩父駅でわずかに乗客を増やし、11時9分着の皆野駅(埼玉県皆野町)で行楽客が十数人下車しますが、大半の乗客は長瀞駅まで乗車するようです。車内では「急行運転しますが、急行料金は不要です」と繰り返し案内が行われるところに、この列車の“レア度”が表れています。

 クロスシート車の快適な車内から車窓を楽しむうちに、あっという間に長瀞駅に到着。時刻は11時15分です。9時30分に池袋を出てから、長瀞までわずか1時間45分の“最速”乗り継ぎでもあります。横瀬駅での対面乗り換えはかなり便利で合理的だと筆者は感じたので、もっと宣伝されてもよいと思いました。

 終着の長瀞駅からは、ライン下りの観光を楽しんでもいいですし、11時42分発の「SLパレオエクスプレス」を待って、秩父鉄道の終点 三峰口駅を目指してもよいでしょう。