1954年6月22日、軽量・小型機の攻撃機としてロングセラー機となる、ダグラスが開発したA-4「スカイホーク」が初飛行します。同機は2023年現在でもブラジルとアルゼンチンで使用されていますが、なにやら切実な事情があるようです。

傑作機は70年近く経っても南米で現役

 1954(昭和29)年6月22日、軽量・小型機の攻撃機としてロングセラー機となる、アメリカのダグラス(現ボーイング)が開発したA-4「スカイホーク」が初飛行しました。


アルゼンチン空軍が運用するA-4AR「ファイティングホーク」(画像:アルゼンチン空軍)。

 同機は、小柄な機体に、当時としては比較的高出力なジェットエンジンを組み合わせたことで、大量の兵装搭載を可能にしたのが特徴でした。具体的には機体重量は約4.5tながら、積載量はほぼ同等の4tを確保していました。

 元々は、空母に搭載する艦載機として開発されましたが、主翼を折り畳まずに空母のエレベーターに搭載できる機体規模になったことで、強度が確保できたため、機体が頑丈に作られていました。小型機のため調達コストも低く、加えてたった6本のボルトを外すだけでエンジンを取り出せるなど整備性にも優れる機体であったことから、アメリカ海軍のみならず、イスラエルやオーストラリア、ニュージーランド、インドネシアなど各国が採用。長らく使い続けられたことで、誰もが認める名機にまでなっています。

 さすがに運用開始から70年近くが経過した2023年現在では、母国アメリカを始めイスラエルやオーストラリアなど主要国からは退役していますが、いまだに運用している国がふたつあります。それはブラジルとアルゼンチンです。

空母がなくなっても使い続けるブラジル海軍

 ブラジルで運用しているのは海軍です。ここはクウェート空軍が使用していたA-4を1997(平成9)年に20機購入しました。ブラジル海軍はこの機体をAF-1「ファルカン」と呼び空母「ミナス・ジェライス」で戦闘機と攻撃機を兼ねる形で運用していました。同空母が退役した後、2000(平成12)年からは新たな空母「サンパウロ」に移り、そこでも同様の任務に就きました。


空母「サンパウロ」に着艦するAF-1「ファルカン」(画像:ブラジル海軍)。

 しかし、空母「サンパウロ」に関しては、元々はフランスから購入した中古空母という影響もあったのか、ブラジル海軍所属後は事故が頻発し、数年単位でドック入りしては短期で任務に就くという状況を繰り返したため、満足な活躍もなく2017(平成29)年に退役することに。

 AF-1「ファルカン」に関しては、「サンパウロ」退役以前の2009(平成21)年4月に12機がエンブラエルで、近代改修を施すことが決定します。これにより、高度なレーダーシステムや新たな搭載兵装によって大幅な性能向上が施されることになります。なお、この時点で、「サンパウロ」は2039年まで現役を続行する予定だったため、それに合わせ採られた措置でした。

 しかし、その予定は覆され、空母「サンパウロ」は前述したように2017(平成29)年に退役しています。これにより、母艦となるべき空母はなくなってしまったものの、近代化改修は続行されました。

 実はブラジル海軍は、空軍の反対により、長らく海軍所属の空母艦載機はヘリコプターのみしか認められていませんでした。1998(平成10)年にようやく空軍との政治的闘争に打ち勝ち、固定翼機の導入に成功しますが、その初めての機体がAF-1「ファルカン」だったのです。なお、空母はなくなりましたが、将来的に再導入の可能性もあるので、そう簡単に手放せません。

 改修機のうち、単座式がAF-1B、複座式がAF-1Cに、それぞれ型式番号が改められています。AF-1最後の改修終了機は、2022(令和4)年4月22日にブラジル海軍に導入されています。ブラジル海軍は同機をいつまで使うかは明言していませんが、専門家の間では、2030年代中頃までは使用するだろうとみられているようです。ブラジル海軍は空母がないにも関わらず、後継機として「グリペン」やF/A-18「ホーネット」といった戦闘機を考えているようですが、航空隊解体の話も出てくる可能性はあります。

後継が決まらず退役不可なアルゼンチン空軍

 このようにブラジル海軍は、半ば意地になって使っていると言える状況ですが、それよりも問題が深刻なのが、アルゼンチンです。同空軍のA-4はブラジル海軍のものと同じく、本来の地上攻撃任務以外に、領空防衛の任務でも使用しています。そして2023年現在、同空軍が運用している要撃機としては唯一のジェット機でもあります。


現在空軍内で唯一マトモな軍用ジェット機であるA-4AR「ファイティングホーク」(画像:アルゼンチン空軍)。

 1982(昭和57)年3月から6月までイギリスとの間で行われたフォークランド紛争時は、南米でもトップクラスの空軍力を有し、A-4に関してもイギリスの駆逐艦「コヴェントリー」を撃沈するなどの戦果を挙げています。

 しかし、戦後はイギリスの制裁により、イギリス製の兵器や兵器に使う部品に禁輸措置が取られました。これにより、イギリス由来の技術が使われているジェット戦闘機の購入が不可能になっただけでなく、修理に必要な部品の入手も困難になります。

 加えて国自体の財政難もあり、アルゼンチンでは2015(平成27)年に空軍の「ミラージュIII」戦闘機が退役、海軍の「シュペルエタンダール」攻撃機も2010年代に運用を停止しています。こうして2023年現在、アルゼンチンに超音速飛行が可能な軍用機はゼロ、ジェット機に関しても戦力になるのは、A-4と攻撃機としても運用可能なジェット練習機FMA IA 63「パンパ」のみという状況に陥っています。

 現在、アルゼンチンの防空を担っているA-4は、アメリカで1994(平成6年)に近代改修を施されたもので、同機はA-4AR「ファイティングホーク」と呼ばれています。F-16「ファイティング・ファルコン」が搭載する近代的な電子機器に換装されたため、「ファイティング・ファルコンみたいなホーク」という意味でこの愛称になったようです。

 何度も後継機の噂は出ていますが、その度にイギリスの横槍や予算不足によって断念する状況が続いています。パーツの不足や老朽化などでA-4AR「ファイティングホーク」の稼働率は落ちていますが、それでもアルゼンチンには同機を使うという選択肢しかなく、2016年辺りからオーバーホールのための予算を割いています。しかし、これも経済的事情や新型コロナウイルス影響などにより、滞り気味だとか。2023年現在、稼働する機体は10機に満たないと見られている模様です。