信号機のない横断歩道で車が停まらず、歩行者保護が守られない問題で、警察が設置したある装置が効果を発揮しています。横断歩道を“目立たせる”対策から、発想の転換を図ったものといえそうです。

横断歩行者がいれば文字が光る

 信号機のない横断歩道を歩行者が横断しようとしていても、なかなかクルマが一時停止してくれない問題。JAF(日本自動車連盟)が2016年から毎年、全国で実地調査をおこなっていますが、2022年調査において歩行者がわたろうとしている場面で一時停止したクルマの割合(一時停止率)は30.6%でした。着実に向上はしているものの、依然、7割のクルマが止まりません。このJAFの調査結果は全国の警察が注目しているほか、横断歩道での一時停止など、歩行者保護の徹底が全国的に取締りの重点項目になっています。


横断歩道標識に取り付けられたライトアップ表示板(乗りものニュース編集部撮影)。

 そうしたなか、埼玉県警が信号機のない横断歩道へ導入した、ある“装置”が大きな効果を生んでいるようです。

「ライトアップ表示板」と名付けられたその装置は、信号のない横断歩道を歩行者が渡ろうとすると、横断歩道標識の下に「横断あり」と文字が電光掲示されるというもの。

設置後1か月で、歩行者がいるときのクルマの一時停止率が65%から82.4%に大きく向上した箇所もあるそうです。

 こうした横断歩道の安全向上策は、たとえば横断歩道標識を光るものにするなど、"横断歩道の存在を目立たせる対策"はよく目にしますが、今回は、横断歩道を“渡ろうとする人”を知らせることに主眼が置かれています。埼玉県警交通規制課に話を聞きました。

――ライトアップ表示板はいつから導入したのでしょうか?また、どのような場所に設置したのでしょうか?

 2022年12月に先行で1か所設置し、同年度中に県内10か所へ導入しました。設置場所については、県内の警察署から候補を集めています。事故発生状況、横断歩行者数、交通量などをもとに、24署から52か所が挙げられ、そこから10か所を選定しています。

え…かなりコスパがいい

――なぜ導入したのでしょうか?

 JAFさんの調査でも、県内におけるクルマの一時停止率はかつて7%、直近でも34.5%に留まっています。しかし、横断歩道を目立たせる対策では結局、いつもそこにあるものとして、ドライバーは見慣れてしまいます。対して、横断歩道に歩行者が立った時に存在を知らせる装置ならば、ドライバーに緊張感を与えることができます。

――どのような仕組みなのでしょうか?

 昼はカメラ、夜は人感センサー(体温)で横断歩道の手前に立った歩行者を検知し、横断中、文字を表示します。同様の装置は他にもありますが、この電源にソーラーパネルを使っているのは、全国初です。

――コスト的にはどうなのでしょうか?

 たとえば、押しボタン信号を導入する場合は1か所およそ380万円かかりますが、この装置なら1か所につき2枚で、およそ90万円です。この値段は、(横断歩道を目立たせる対策のひとつである)発光式の横断歩道標識よりも安いです。


電源はソーラーパネルだ(乗りものニュース編集部撮影)。

※ ※ ※

 ちなみに、先述の一時停止率が最高の82.4%まで向上したのは、JR川越線の西大宮駅付近、新興住宅街の目抜き通りにある信号機のない横断歩道です。近くに住む40代男性によると、「確かに交通量も渡る人も多いけど、前後の信号交差点が近いので信号が付けられないのでは」とのこと。一時停止率の高さについては、「もともと一時不停止の取締りがよく行われていたこともあったのでは」ということでした。