群馬の赤城山にかつて、JR線の最高地点よりも高い標高1390mの高地に通じる「鉄道」が存在しました。その廃駅は現存し、関東平野を見下ろす圧巻の風景に“歴史”のエッセンスを添える存在になっています。

レジャーシーズンの赤城山に“鉄道の歴史”を伝える

 JRで最も標高が高い駅といえば、長野県の八ヶ岳山麓を行く小海線の野辺山駅、標高1346mですが、実はかつて関東に、これより標高の高い鉄道の駅がありました。そして、その建物は2023年のいまも残っています。


赤城山頂駅記念館サントリービア・ハイランドホール(乗りものニュース編集部撮影)。

 それは群馬県のほぼ真ん中にそびえる赤城山の山頂エリア、標高1390mの鳥居峠駐車場横に佇む旧「赤城山頂駅」です。現在は「赤城山頂駅記念館サントリービア・ハイランドホール」の名で飲食店として営業しています。

 内部は若干改装されているものの開業当時の姿を残し、2018年には同駅舎や鉄道施設跡が登録有形文化財に指定されています。

 5月下旬の日曜に訪問すると、鳥居峠の駐車場は多くのクルマやバイクで賑わっていました。駅舎の横は関東平野を一望できるポイントですが、振り返って「ここまで登山鉄道がきていたんだな」と感慨深げに駅舎を見る人も。この絶景に、鉄道の歴史がひとつのエッセンスを加えているのかもしれません。

 旧駅舎は鉄筋コンクリート造ながら、山小屋のような雰囲気の出で立ちです。ここで看板メニューのひとつ、鉄鍋に入った「鍋割山ラーメン」を注文。「ホームはどこにあったのでしょうか」と店員に尋ねると、「あそこです」と教えてくれたのが、関東平野の絶景を映し出している大きな窓に面した座敷席でした。

 座敷から窓の真下を覗くと、いかにもケーブルカー(鋼索鉄道)の発着場だと思える階段状のホームが。斜面ギリギリに立つこの駅は、急斜面を上るケーブルカーの終着駅だったのです。

どんな鉄道だったの?

 鉄道の名は「赤城登山鉄道」といい、ここから東の標高1030mに位置する「利平茶屋駅」との間を結んでいました。同社は東武鉄道の傍系会社で、1957(昭和32)年7月に開通。その6日後には、鳥居峠よりもさらに高い赤城平と地蔵岳を結ぶロープウェーも開業しています。

 この頃、東武は赤城山の観光開発に乗り出しており、そのアクセスルートとして整備されたのです。

 しかし、前橋市街と山頂エリアを直結する赤城南面道路が1966(昭和41)年に整備されると、自家用車の普及もあって、ケーブルカーを介した東側のルートは急速に衰退、1968(昭和43)年にケーブルカーは廃止されます。存続期間は11年足らずでしたが、ロープウェーはそれから20年後の1998(平成10)年まで残っていました。


赤城山頂駅の横から絶景を望める。この下の利平茶屋へケーブルカーが通じていた(乗りものニュース編集部撮影)。

 ちなみに、旧赤城山頂駅と旧利平茶屋駅のあいだにはケーブルカーの線路跡こそ残ってはいるものの、車道は通じていません。利平茶屋の駅舎は現存せず、桐生市のキャンプ場になっています。「ここに鉄道が?」と思えるばかりか、この東側ルートが赤城山頂へのアクセスを担っていたことすら想像できないほど、ひっそりとした雰囲気です。それはそれで“廃線”らしいとも言えますが。