5年に1度の「東京国際消防防災展2023」で、東京消防庁の古い消防車が復活、元気な姿を披露しました。80年以上前に製作された消防車、再生にあたって苦労した点などを担当者に聞きました。

本格的な国産消防ポンプ自動車の第1号、見事復活!

 東京ビッグサイト(東京都江東区)で2023年6月15日(木)から18日(日)までの4日間、「東京国際消防防災展2023」が開催されています。

 5年に1度のイベントで、国内外からさまざまな最新の消防車両が結集するなか、日産自動車も屋外会場にブースを設け1台のレトロな消防車両を展示していました。そのクルマの名前は「ニッサン180型消防ポンプ自動車」、いまから80年以上前に製作されたボンネット型の消防車です。


「東京国際消防防災展2023」で披露されたニッサン180型消防ポンプ自動車(乗りものニュース編集部撮影)。

 この車両、実は本格的な国産消防ポンプ自動車の第1号と言われるもので、1941(昭和16)年に蒲田消防署へ配置され、戦時中は空襲火災の消火活動などで力を発揮したといいます。その後、1945(昭和20)年5月に高輪消防署へ配置され、東京オリンピックが開催された1964(昭和39)年10月まで使用。以後は高輪消防署二本榎出張所で、東京消防庁の広報車両の1台として展示されてきました。

 日産自動車のWEBサイトによると、ベースのニッサン180型トラックは、1941(昭和16)年2月にニッサン80型トラックの改良型として誕生したと記されているため、当該車両は、180型トラックベースの車体としても、かなり初期に製作された貴重なものであることがうかがえます。

約2年にわたって行われた再生作業

「走行ができなくなっている『ニッサン180型消防ポンプ自動車』を再び走らせることができないか」。東京消防庁企画調整部広報課から日産への相談が、再生プロジェクトの端緒になったといいます。

日産は検討のすえ、社内活動の一環として歴代の日産車の再生に取り組んでいた「日産名車再生クラブ」に担当させることで決定。同社エンジニア4名が集結し、河合俊明チーフをリーダーに再生作業が始まったそうです。

 作業は約2年にわたり、当時の塗装や凹みなどを活かしつつ、当初の目標であった、走る、曲がる、止まるというクルマの基本性能のみならず、動かなくなっていた方向指示器やワイパー、点灯しなくなっていた赤色灯など車両全体の電気系統も再生しました。


ニッサン180型消防ポンプ自動車にホーンを取り付ける「日産名車再生クラブ」の4人(乗りものニュース編集部撮影)。

 こうして自走できるまでに復活したニッサン180型消防ポンプ自動車ですが、これで作業がすべて終わったわけではありません。まだ、ホーンの取り付けが残っており、それがこのたび「東京国際消防防災展 2023」の日産自動車ブースで行われたのです。

 開催初日の6月15日(木)に、お披露目式とともに行われたホーン取り付けは無事終了、その音を会場に響かせることに成功しました。またそれだけでなく、短距離を自走して見せたほかヘッドライトや赤色灯の点灯、矢羽根式方向指示器の動作確認なども実施され、見事生き返った姿を披露していました。

東京消防庁の歴史の“語り部”として

 会場でニッサン180型消防ポンプ自動車の再生作業に携わったエンジニア4人に、作業で苦労した点、手間取ったことについて聞いたところ、ブレーキ、特に前輪のものが不動状態で効いてなかったので、まずはそこを動くようにするのが大変だったとのことでした。

 また80年以上前の車両であるため、残っている部品がほとんどなく、多くの部品を自作したとも。たとえばマフラーやラジエーターのガスケットなどはイチから作ったそうです。


ニッサン180型消防ポンプ自動車の再生に関わった東京消防庁と日産の関係者たち(乗りものニュース編集部撮影)。

 ただ、自走できるといっても、ナンバープレートを取得(いわゆるナンバー登録)し、公道を走れるようにするためには、保安基準に適合するよう改めて整備しなければなりません。そこをどうするかは未定のため、公道を移動する際は別途、運搬車に載せて運ぶ必要があるとのハナシでした。

 東京消防庁広報課の松村龍也消防司令も、ナンバーがないため公道を走ることはできないものの、なるべく多くの展示会やイベントなどで披露し、愛される車両になるよう活用してきたいと語ってくれました。

 見事、息を吹き返した戦前生まれのニッサン180型消防ポンプ自動車。貴重な技術遺産、歴史の生き証人として、今後さまざまな場面で見かけるようになるかもしれません。

【動いた!光った!】80年前の消防車のエンジンやホーンの音などを動画で